表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部 第八章 ヒロイン同盟、暗躍す
121/122


 学園の西側には、魔法商店街や大図書館、魔導修練場などを擁する小魔塔区が広がっている。その中心に聳えるのは、もちろん小魔塔である。


 小魔塔はおもに魔法魔術科生たちの拠り所となっているが、一階から五階までは一般に他科にも公開されている。各種講堂や簡易実験室などがあり、錬金科や薬学科の移動教室の一部で使われている部屋もあるため、他科の生徒がいることも珍しくはない。


 だが、それは五階から下の話である。


 六階より上階は通常、魔法魔術科の生徒と教員以外は立ち入ることができないとされている。それは魔術の秘匿性が理由である。魔術に限らず、技術や知識を守るために閉鎖的になるのは珍しいことではない。

 小魔塔の大部分が部外者を歓迎しないとはいえ、それは一般的な理解を得ていた。


 六階は中層階、上層階への昇降機がある中継階となっている。


 誰もが魔術と錬金術を駆使した昇降機に目が行きがちだが、実は六階には秘密の談話室が存在した――。




 まず五階から六階に行くためにもハードルがある。もし魔法魔術科でないのなら、人目を盗んで進入禁止の階段を上らなければならないからだ。


 そこは、ヒロイン同盟の会員なら問題ない。ニムから魔法の通行証が支給されているからだ。


 第一関門をパスして六階に二機ある昇降機の裏側に回ると、脇に植木の置いてある柱がある。その反対側の壁を一度触り、手を離す。すると資格のある者に限り、二度目は壁をすり抜けられるようになっているのだ。




 秘密の談話室の内部は、魔法により見た目よりも広大な空間が広がっている。


 夜の星空を壁紙にしたような空間に、椅子やテーブルが置いてある。一見すると雰囲気のある空間だ。


 だが、かつてそこに集っていた『ヒロイン』たちは、今や数えるほどしか残っていなかった。


 がらんどうの星空だ。


「はぁ……。ほんとにあり得ないわ……」


 ぼやきながら秘密の談話室に入ってきたのは、マリアーネ・チェスターだった。神学科の聖女ヒロインである。


 星空には窓の形をした魔導通信用の枠がいくつも浮かんでいたが、そのどれもが今や沈黙してしまっている。それは、この学園に来ていない地方の『ヒロイン』たちとの交信窓だった。


 笑い声が聞こえる。マリアーネは星空の部屋を見渡して、部屋の奥に歩を進めた。


「ふっ……ふふっ。ああ、苦しいったらないわ。これこそ本物の『ざまぁ』ってものよ。ねぇ、あなたもそう思うわよね? ニム」


「……」


 部屋の奥の椅子には、黒髪おさげにカチューシャをした女生徒が座っていた。魔法魔術科特進クラスの制服を着ている。


 彼女こそ、『ヒロイン同盟』盟主のニム・セキである。魔導王国クォンタムによって召喚された地球人だ。


 ニムは乙女ゲーム『終焉のアンブロシアン・マギカ』略して『終マギ』のヒロインとして召喚された。


 元はクォンタムから世界中の『ヒロイン』に呼びかけ、同盟を組織し『ヒロイン』たちの扶助を始めた人物だ。今年度からアムリタ統合学園へ編入し、アシュトーリアの学園都市エクスにやって来た。


 ニムはセンシティブな問いかけに対し、神妙な顔で悩む仕草をした。


「そうね……。残念だけれど、自業自得と言わざるを得ないわ」

「そう、それ! それよ!」


 吹き出して笑い転げているのは、クレハ・オズロッド。亜麻色の髪の美少女で、クリプトアクト王国出身の男爵令嬢だ。先ほどからの笑い声は、彼女であった。


 クレハは魔法魔術科生で、ニムが来るまでアムリタ統合学園の『ヒロイン』たちを統率していた才女だ。ヒロイン同盟においては、ニムの補佐を務めている。


 その正体は、乙女ゲーム『Magical lovers ~黄昏の魔女~』略称『たそがれ』のヒロイン転生者である。


「……気に入らないわね。ユピィやアンジェリカたちがやられたのが、そんなに嬉しいの?」


 マリアーネが否定的にクレハの言動を非難すると、クレハはぴたりと笑い声を止めて振り向いた。


「あら、マリアーネ。神学科の生き残りじゃない。あなたはニムの忠告を聞いたお利口さんなのに、何をそんなに怒っているの?」


 クレハの狂気じみた言い方に、マリアーネは言い返す言葉が見付からなかった。

 かねてより、ニムはヒロイン同盟の通信網を通じて世界中の『ヒロイン』に呼びかけていた。


 曰く、『魅了』スキルは使うなと。


 全ての『ヒロイン』には、共通点がある。


 皆、転生転移の際、狭間の空間を通って謎の男に会っていること。


 それは特徴的な格好をした男で、黒いグラスの片眼鏡(モノクル)とそこに描かれた逆疑問符の模様が印象的だった。顔は美形と呼んで差し支えのない容姿をしていた。


 そこで彼の言う〝神〟の祝福を受け、それぞれチートスキルを与えられていること。


 ここまでは全ての『ヒロイン』に共通している。


 転生ヒロイン、転移した被召喚ヒロインどちらも狭間の空間の男には会っているのだ。

 逆に悪役令嬢やモブ転生者は例の〝神〟の祝福を持たない。


 これは転移ヒロインであるニムが自ら大陸中の転生者や転移者を調べて得た、確実な事実である。


 このことからも、いわゆるチートを持つのは『ヒロイン』だけだ。


 各ヒロインによってチートスキルの内容は様々だったが、ひとつだけ共通しているスキルがあった。


 それが、『魅了』のスキルだ。老若男女問わず、どんな相手でも恋に落とすことができる。


 ここが重要だが、『魅了』は元の作品のヒロインキャラは持っていなかったものだ。明らかに、彼女たちを転生・転移させた〝神〟によって付け加えられたスキルである。


 ニムはそれを、()だと断定した。


 案の定、この世界アークヴァルトでは、王族などの権力者に『魅了』を始めとした精神干渉系魔法の使用は重罪であった。権力の乱用を防ぐ意味でも、それは当然のことだ。


 だが、それを理解できないお花畑な『ヒロイン』たちの多くは、攻略対象の男たちの心を掴むためにニムの忠告を無視してきたのだ。


 マリアーネが『魅了』を使わずに済んだのも、偶然に過ぎない。本命のアルフォンス王子がマリアーネに好意的だったため、今まで使う機会がなかったというだけだ。


 マリアーネは乙女ゲーム『聖カレナで運命を』、略して『聖カレ』のヒロイン転生者である。悪役令嬢も大人しい性格のため、マリアーネと張り合ったりせずにアルフォンス王子を譲ってくれた。運が良かったといえる。


 もし、王子に振り向いてもらえなかったら。

 マリアーネも逮捕された『ヒロイン』たちのようになっていたかもしれない。


「……ニムは、インクイジターのことを知っていたの? まるで、ああなることが分かっていたみたい」


 苦々しく口を開いたマリアーネに、ニムが答えた。


「まさか。インクイジターなんてものが出てくる作品を私は知らないし、あんなことになるなんて予想もしなかったわ」


 さらにニムは続けた。


「でも私は、ずっと言っていたはずよ。『魅了』は使うなと……。この世界で『魅了』が禁止されている以上、たとえインクイジターが現れなかったとしても、あの子たちはいつか同じ結果になったと思うわ」


 ニムの言葉は、いつも合理的で正しい。しかしマリアーネは仲の良かったヒロイン仲間の顔を思い浮かべると、いたたまれない。


「そんな……。同じヒロインの仲間じゃない。ユピィやアンジェリカたちを助けてあげることはできなかったの?」


 ニムは溜息を吐いて、首を振る。クレハが笑った。


「なあに、マリアーネ。ここで〝いい子ちゃん〟のフリなんてしなくていいわよ」

「そういうのじゃ……」

「バカね。助けられるなら、ユレナの時にそうしてるわよ。ね? ニム」


 クレハがニムの方を見て同意を求めた。ニムは首肯して言った。


「残念だけれど、正しい手続きを経て判決が下された人を助けたら、こちらも犯罪者になるわ。分かって言っているの?」


「わ……分かってるわよ」


 逮捕された四十人の『ヒロイン』たちは新学期初日に行われた裁判で有罪となり、それぞれの出身国に強制送還された。その後、全員が処刑されている。


 昨年、同じ状況で『花ロマ』のヒロインであったユレナ・リリーマイヤーが処刑されている。


 その時の報せも共有されていたはずなのに、誰も『魅了』の使用をやめていなかったのは愚かと言わざるを得ないだろう。











やっと出てきたニム。第一部後半ぶりです。

新しいヒロインも続々登場します。


やはり『ヒロイン』はみんな、逆さはてな男に会っているようですね。

彼に会えたら、異世界へ行けるかも?

ヒロインにされたら、処されないようにご注意を。


ユピィとアンジェリカは、逮捕された40人の中にいました。

第二部第二章2話をご覧下さい(名前あります)。

本人は出番のないまま、お国に強制送還されて処刑済みです。



転生/転移者・攻略対象等まとめ

【終マギ】

・ヒロイン:ニム  リクたちと同じ転移者

・???:魔塔の主 非攻略対象


【たそがれ】 ←New!

・ヒロイン:クレハ  ニムの腹心

・悪役令嬢:???

・攻略対象:???



各勢力ごとのまとめも更新

【ヒロイン同盟】

たくさんいるヒロインを支援・情報共有


盟主:ニム(終マギ)

副リーダー:クレハ(たそがれ) ←New!


メンバー:マリアーネ(聖カレ) ←New!


元メンバー:ユレナ(花ロマ)✖死亡

 以下40人 ✖死亡 ←New!


勧誘中:リク(ななダン)

勧誘中:アミ(不明)





まだヒロイン同盟のイラストがないので、今は亡き色ボケヒロイン・ユレナがいるやつ貼っときますね。



挿絵(By みてみん)












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ついにニム登場か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ