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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部 第七章 ヒロイン・アイラと悪役令嬢イングリッドの場合
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「――神様の祝福?」

「はい。アイラがそう言っていたのですが、何か知りませんか?」


 大型食堂館、二階奥のいつものスペース。


 昼休みに魔法魔術科のメンバーが来たタイミングで、イングリッドはリクとアミ・オオトリに相談した。


 数日前の休日にリヒタール邸へ呼び出されたことの顛末を、皆に話すことにしたのだ。


 リクは『ななダン』と呼ばれる乙女ゲームのヒロインとしてグランルクセリア王国で召喚された異界人であり、一緒に来たアミも詳細は不明だが『フリーダム』内では『ヒロイン』とされていた。


 同じ『ヒロイン』なら、アイラの言っていたことが分かるかもしれないと考えてのことだった。


「もしかして、アレのことかな?」


 記憶を辿って人差し指を頬に当てながら、アミが言った。アミと視線を合わせたリクも、こくりと頷いた。


「何かご存知なのですか?」


「私たちのステータスには、()()()()()()()()()の祝福っていうのがあるんだよ。この世界に来て、すぐの時に気付いたんだけど……」


「名前が読めない?」


 誰もが疑問に思うところだろう。リクが説明した。


「まず前提から言うと、私たちには常時発動スキルに異世界適用というものがある。転移者特有かもしれないけど……。それで地球人である私たちが、この世界の言葉や文字を理解できているのだと思っている」


「なるほど……」


 ミラフェイナが興味深そうに頷き、他の令嬢たちも耳をそばだてている。

 リクと視線を交わし合い、アミも言った。


「それで同じ常時発動スキルの中に、謎の神様の祝福っていうのがあって……。その名前は読めないの。何だか文字化けしてるみたいで……」


「文字化け……。それも、懐かしい表現ですわね」


 ミラフェイナが前世の記憶をたぐりながら、しみじみと頷く。続けてリクが言った。


「とにかく、そのナントカって神の祝福があるんだ。読めないけど」

「それで、名前の読めない神様……」


 シエラが呟き、他の令嬢たちも各々に考え込む仕草をする。


 祝福の正体は分からないが、リクとアミにあるなら同じ『ヒロイン』であるアイラも同様の祝福を持っていると見ていいのだろう。


 確認するように、イングリッドが再度尋ねた。


「お二人ともですか?」

「ええ」


 と、リクは答えた。


「グランルクセリアで鑑定士が書き起こしたアミのスキルも見たけれど、同じ祝福で間違いないないと思う」


 イングリッドは、リクの隣でランチを食べているミラフェイナの方を見た。リクとアミ、二人を召喚した同じグランルクセリア王国出身の転生者で、『ななダン』の悪役令嬢だ。


「念のために聞いておきますが、ミラフェイナさんには……?」


 訊かれたミラフェイナは、フォークの手をを止めて首を振る。


「いいえ、ありませんわ。イングリッド様は?」


 同じく、イングリッドも首を振る。


「私たちにも、ないわよう」


 話を聞いていたサロンオーナーのエクリュア・ヴァイス・グランルクセリア王女も言い、同席したディアドラ・フラウカスティアや錬金科のシエラ・クローバーリーフも、ステータスにそのような神の祝福はないという。


 最近メンバーに加わった貴族科のテレジア・ディボード公女やブリジット・ベレスフォード、そしてアミたちの紹介で昼食をともにし始めた魔法魔術科のアンフィトルテ・ニードルクラウド公女とフレイ・ビターブラッドも胡乱(うろん)げに首を振る。


「イングリッドの話が確かなら、本当に『ヒロイン』には特別な祝福があるのかも。それがヒロインチートの源なのかもねぇ」


 エクリュア王女がそう分析し、「やあねぇ」と言いながらティーカップを持ち上げ、紅茶を啜った。


「安易なチートってのは、お馬鹿ヒロインたちを増長させてる要因にほかならないわ。その〝名前の読めない神様〟って、何なのよ! 腹立たしいわねぇ」


「まあまあ、姫様……」


 シエラがいつものようにエクリュア王女を(なだ)め、ディアドラは静かに思索している。

 おもむろにアミが口を開いた。


「リク、あのことは関係あるのかな? 私たちが、あの変な空間で会った……」

「……ああ。ええと……、何だっけ。そうだ、(さか)さはてなだ」


 リクが思い出したように手をポンと打つ。

 聞き慣れない単語に、一同は首を傾げた。


(さか)さはてな?」


「この世界に召喚される前、宇宙空間みたいな暗い場所に喚び出されなかったか? 私とアミは、そこで出会ったんだ」


「そ、そうなんですの!?」


 初耳の話に、ミラフェイナですら驚いて聞き返す。エクリュア王女たちも同じようだ。


「みんなは違うの? ……と、ここじゃ言いづらいか」


 例によってテーブルの隅にいる自称・真の護衛とやらのレナード・ラッハを一瞥(いちべつ)し、リクは話をとどめた。


 騎士科聖騎士コースの生徒で、『ななダン』の攻略対象だ。


 彼は転生者とは関係がない。リクたちは異世界からの転移者だと知られているが、ミラフェイナたちは表向きはこの世界で生まれた普通の令嬢たちだ。乙女ゲームの関係者といえども、簡単に転生者と知られる訳にもいかないだろう。つまり、部外者がいるところであまりペラペラ話せる内容ではないのだ。


 リクの視線に気付いたレナードが、気を遣って言う。


「私のことなら、お気になさらず」

「そういう訳にはいかない」


 リクが真面目に答えると、レナードは形のいい唇を曲げて微笑した。


「私が興味あるのは、リク殿。あなただけだ。他の令嬢方に不都合な話など、すぐに記憶からなくなるだろう。席を外せと言われるならそうするが、私はあなたのことなら何でも知りたいと願っている」


「…………」


 レナードは気安いように振る舞いながら、リクを真剣に見つめていた。そんな態度を取る彼に、リクは何と返せばいいのか分からない。


「いや余計に話がややこしくなるわ!」


 とツッコミを入れたエクリュア王女は、仕方なく話に介入しながら溜息を吐く。


「はぁ。もういいわ。話を続けましょう。……ちなみに、少なくとも私はその変な空間の記憶はないわね。みんなはどう?」


「ありませんわね」

「残念ながら……。」


 ディアドラとシエラが答え、テレジアとブリジットもないと言った。同じ流れで、アンフィトルテとフレイも無言で首を振る。


「わたくしも、気が付いたら転生していましたわ」


 ミラフェイナも同様だった。もう間違いないだろう。イングリッドが話をまとめた。


「……ということは、ヒロイン転生者のアイラたちは私たち悪役やモブと違って、転生前にその空間に()ばれている可能性が高いと……。そこでリクさんたちと同じく、謎の神様に祝福を受けているということですね」


「そのようですわね……。では、やはりアミ様は……」


 ミラフェイナたちの視線を受け、アミはぶんぶんと首を振った。本人はどうしても『ヒロイン』でないと言い張りたいようだ。


 そんなアミの主張など受け流し、エクリュア王女が言った。


「それで、その(さか)さはてな……って何なの?」

「ガイドと名乗っていた。私たちを喚んだ神の代理だと」

「ガイド……?」


 リクの簡潔な説明だけでは伝わりきらないと思い、アミが話を補足した。


「その空間にいた人がね、私とリクに異世界転移のことを色々説明して……。それが変な人でね。黒い片眼鏡(モノクル)に逆さまのはてなマークが付いてたから、リクが逆さはてな男って呼び始めて……。私たちの間では、その呼び方で定着してる」


「……男?」


 自分のことは気にするなと言いながら、レナードが変なところで反応した。全員が動きを止めてレナードを見ると、レナードは咳払いをして詫びた。「すまない。続けて」


 レナードの心配など、どこ吹く風とリクが話を続けた。


「うさんくさい男だった。これからは自分たちが主役だから、ロマンスにハッピー……。あと何だったっけ?」


「『愛が見たい』……? って、神様が言ってるとか……」


 リクがど忘れしている部分を、アミが話した。


「そう。確か、そんなことを言っていた。とにかくその気にさせて、私たちに『ヒロイン』にならせようという意図があったように思う」


「そ、それは……」

「何て悪質な……!」


 全員が、わりとドン引きした。

 リクとアミは、肩を(すく)めて言った。


「いやまさか、あんな怪しい話に乗る人間がいると思わなかったな……」

「う、うん。どう見ても怪しかったよね……」


 しかし(ふた)を開けてみれば、他の『ヒロイン』は全員その話に乗っており、好き勝手にやりたい放題やっていたのだ。


「『ヒロイン』とはいえ、万能ではありませんわ。それは私たちの国グランルクセリアで処刑されたユレナ様が、奇しくも証明してくれましたわ」


 そう発言したのは、『花ロマ』の悪役令嬢であったディアドラだ。


 半年前、ヒロインのユレナ・リリーマイヤーがグランルクセリアの第二王子以下、数名の王侯貴族子息に『魅了』を掛けたことが発覚した事件があった。


 ユレナは国家叛逆罪で処刑された後、インクイジターによって文字通り地獄へ送られたという。


「『ヒロイン』であっても、罪を犯せば罰せられますわ。……いいえ、むしろ『ヒロイン』だからこそ、インクイジターは容赦しないでしょうね」


 ディアドラは、グランルクセリア王国で実際に異空間の『法廷』へ行ったひとりだ。


「私は、『法廷』で聞いたのです。インクイジターは、この世界の神々から異世界の知識を与えられていると。そして『ヒロイン』が異世界の神に送り込まれているとも言っていましたわ。それが今回の話と合致するので、とても驚いていますわ。……インクイジターはこの半年間、学園に現れる前も各国を回って裁判を起こしていたようですし……。ヒロイン転生者の好き勝手を許すつもりはないと思いますわ」


 つまりインクイジターは、『ヒロイン』たちが転生者と承知のうえで排除に掛かっているということだ。


 『ヒロイン裁判』を経験したディアドラの言葉は、非常に説得力があった。

 それが、イングリッドを不安にさせた。


「ど……どうしましょう。妹は……、アイラは異世界の神様の祝福に絶対の自信を持っているようでした。『ヒロイン』だから何でも思い通りにできると思い込んで……。もし、良からぬことに手を出したりしたら……っ」


「……そこを突かないインクイジターではないでしょうね」


 ディアドラの感想に、エクリュア王女は好都合だと述べた。


「まあ、私たちにとってはラッキーじゃない。ユレナや、あの大量逮捕者たちみたいに自滅してくれるなら、(おん)()よ」


「そ、そうですよ。自業自得ですわ……」


 テレジアやブリジット、アンフィトルテとフレイたちも頷いている。


 イングリッドは考え込む。アイラは非常に身勝手だが、今まで処刑されたり逮捕された『ヒロイン』たちのようになって欲しくはなかった。


 このサロン『フリーダム』は、今まで『ヒロイン』たちに苦しめられてきた令嬢たちが集う場だ。自分もそのひとりであり、矛盾していることは分かっている。


 イングリッドはその気持ちを、言い出すことができなかった。


(……アイラ……。どうか、これ以上暴走しませんように……)


 心の中で星光龍神に祈り、イングリッドはアイラが過ちから遠ざかるようにと願うのだった。













転生・転移に関わらず、ヒロインしか会っていない男。


逆さはてな男のことを覚えている人ってどれくらいいるんでしょう……。

逆路とか……。


忘れてしまったという方は、第一部の序章『プロローグ:1 邂逅ヒロイン』をご覧下さい。


狭間の空間に迷い込んで、逆疑問符「¿」の描かれたアホみたいなモノクルしてる

クソうさんくさいヤツがいたら、逆さはてな男です。


ヒロインにしか会わないクソ男なので、見付けたらボコっていいです。

よろしくお願いします。













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