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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部 第七章 ヒロイン・アイラと悪役令嬢イングリッドの場合
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 リヒタール家でそんなことがあってから、数日間は何もなかった。

 しかし翌週になってから、事が動いた。




「学期の途中ですが、今日は新しい仲間を紹介します」


 朝のホームルームでイングリッドたち神学科のクラスに現れたのは、貴族科の緋色の制服を着たアイラだった。


 イングリッドは、度肝を抜かれてアイラの姿を見つめた。リヒタール家の醜聞もあるというのに、まさか本当に来ると思っていなかったのだ。


「貴族科から転科することになった、リヒタール・アイラ嬢です。自己紹介を」


 担任のプラサード司祭に促されたアイラは、『ヒロイン』らしく可愛らしい笑顔を振りまいた。


「アイラ・リヒタールでぇす。急すぎて、まだ神学科の制服は仕立て中なんですけど……。仲良くして下さいね♡」


 クラスメートたちが、にわかにざわついた。


 それもそうだろう。同じクラスに、同い年の姉妹がふたり。(いぶか)らない方がおかしいというものだ。


「あれ? リヒタールって……」


 何人かの生徒が振り向き、イングリッドを見た。


 この学園には他国の生徒も多いため、リヒタール伯爵家の醜聞を知らない生徒は素直に疑問を口にした。


 すると、それを聞きつけたアイラが愛らしい笑顔でクラスメートに笑いかけた。


「はい。イングリッドお姉様とは異母姉妹なんです。いつも姉がお世話になってます♡」


 青い髪にアイスブルーの瞳のイングリッドと、はちみつのような金髪に碧の瞳のアイラは確かに似ていない。


 異母姉妹と聞いたクラスメートは、なるほどと察してそれ以上は聞かなかった。


「それは、さて置き……」


 貴族の醜聞など興味もなさそうに、プラサード司祭は咳払いをして言った。


「今回、急遽(きゅうきょ)アイラさんの転科が決まったのには理由があります。この場を借りてクラスの仲間たちに報告しても?」


「お願いしまぁす♡」


 媚びるようなアイラの声を聞きながら、イングリッドは自分の席で強張った手をぎゅっと握り締めた。隣の席に座るリク・イチジョウが、気遣うようにイングリッドの方へ視線を送る。


「――実は、神殿本部に新たな専属巫女選任の託宣(たくせん)が降りたのです。秋の大祭前に、『星光の巫女』の選抜試練が行われます。候補に選ばれたのは、()()()()()()()とのことです」


 それはつまり、新たな巫女の座をかけてリヒタール姉妹が競い合うということだ。

 驚いて振り向いたリクが、俯いてショックを受けているイングリッドに尋ねた。


「妹さんと争うということ?」

「まさか、こんなことになるなんて……っ」


 神学科のイングリッドでいれば、『愛レゾ』のイングリッド・リヒタールから解放される気がしていた。しかし、ヒロインのアイラはそれを決して許さない。


 これだけ元のシナリオから乖離(かいり)した今でも、だ。

 新しい巫女の二つ名を聞いた神学科のクラスメートたちが、興奮した面持ちで言った。


「『星光の巫女』って……。まさか、星光龍神シリューズ様の?」

「すごい! 二大龍神の一柱じゃないか!」

「その神様って確か神話以来、代行者がいない神様でしたよね?」

「ええ。専属巫覡(ふげき)も、ここ百年は現れていなかったと思う」


 さすが神学科の生徒たちともいうべきか、クラスメートたちは何も知らないアイラより知識が豊富だった。


「そ、そう。それです~。応援よろしくお願いしまぁす♡」


 意味もその名の重さも分かっていないアイラが、薄っぺらい笑顔を浮かべて可愛さをアピールした。


 その時、がたりと席を立ち上がった生徒がいた。神聖星教会の擁する巫覡(ふげき)の長である『星河』を持つ巫女――言わずと知れた、カレン・スィードであった。



 ただならぬ雰囲気に、担任のプラサード司祭が気を回して声を掛けた。


「スィードさん? どうしました?」

「……何かの間違いなのだ」

「え?」


 カレンは何かを知っているのか、はっきりとした口調で言った。


「選任の託宣が複数人に降りるという例はありません……! それは先生もご存知のはずではないですか……!?」


「もちろん、分かっていますよ。ですが()()()()()()()が複数いる場合は、今回のように選抜試練が行われることがあります。何も、おかしなことではありませんよ」


「…………!?」


 神々が人間を指す時は、誰々の子、という言い方をする。きょうだいがいる場合は、託宣の指名が被ることがあるのは確かだ。


 カレンはこの時、プラサード司祭と話が噛み合わないことに気が付いた。


(ちょ、ちょっと待つのだ。どうしてそんなことを神殿が……。まさかこれって、アイツの策略なのだ――!?)


 カレンの脳裏に、紫の髪をした超絶美形が暗黒の微笑を浮かべる姿がよぎった。

 もし予想通りなら、カレンは余計なことをしない方がいいのかもしれない。


「……カレンさん?」


 急に黙り込んだカレンに、担任が不思議がる。


「い、いえ。龍神様の託宣を降ろしたヒルデナーダは、友人なのです。間違いがあってはいけないと思い、つい口走ってしまいました……」


「そうですか。選抜試練は神殿本部から有力な神官が派遣されると聞きます。公正な判断が下されるでしょう。心配には及びませんよ」


「はい……」


 その()()()()()が誰になるか想像できてしまったため、以降カレンは口を(つぐ)んだ。


 カレンが着席したタイミングで、アイラが不躾にカレンの方へと近付いて行った。


「ふぅん。この人が、巫女で一番偉いカレンって人?」

「え……いえ。偉いという訳では……」


 カレンは唖然と、着席したままアイラを見上げた。


「ア……アイラ! 何て失礼なことを……っ!」


 さすがに姉として見過ごせないと、イングリッドが立ち上がる。

 クラスメートたちもざわつき、アイラの言動の是非が飛び交った。


「そんな。私はただ、巫女になるから先輩巫女さんに挨拶をしただけなのに……! お姉様は私のやることなすこと、全部が気に入らないのね。悲しいです」


 アイラはグスンと泣き真似をして、皆の同情を引いた。意地悪な腹違いの姉にいじめられていると社交界に噂を流してきたアイラは、神学科でも同じことができると信じて疑わないようだった。


 担任のプラサード司祭が、改めてクラスを見渡す。神学科では大勢の逮捕者が出たため、このクラスも席はガラガラだった。


「リヒタール・アイラは、神学科に不慣れです。……どなたか、サポートしてあげられる人は?」

「ここよ~」


 端の方の席から、マリアーネ・チェスターが挙手をした。


 転生者しか彼女の正体は知る由もないが、異世界である地球で通称『聖カレ』と呼ばれる乙女ゲームのヒロインが彼女だ。


 つまりは、作品は違えどアイラと同じ『ヒロイン』である。

 悪役令嬢を目の敵にしている彼女たちだが、何故かヒロイン同士では仲が良い。

 マリアーネがサポート役を立候補したことで、担任からは特に言うことはないようだった。


「……では、チェスター令嬢の隣へ」

「はーい。 マリアーネさん、助かります~♡」

「いいのよ。よろしくね」


 挨拶をして隣の席に来たアイラに、マリアーネは耳打ちした。


「あっちにも、もう一人『ヒロイン』がいるけど、気を付けてね。悪役令嬢とツルむ変人だから」

「あぁ~。例の」


 そう言って納得したように頷き、アイラはイングリッドの横にいるリクを見て言った。


 アイラにとっては、リクは新学期初日にイングリッドを庇った邪魔者だ。同じ『ヒロイン』であることは後から聞いたが、受け入れがたいことだと思っていた。


 そのため、アイラはリクに対しては仲間意識より反感が否めなかった。イングリッドと仲良くしているのなら、なおさらだった。


「お姉様ったら。そんな人にくっ付いてたって、どうしようもないのに」

「……私が、何か?」


 厳しい表情で、今度はリクが立ち上がった。


 殺伐とした雰囲気のなか、担任のプラサード司祭は自己主張の激しい生徒たちを一喝せざるを得なかった。


「座りなさい。授業を始めます」

「…………っ」


 思い詰めた表情をするイングリッドを落ち着かせるように、リクが肩に手を置いて宥めた。


「大丈夫。私は気にしてない」

「妹が、ごめんなさい……」


 謝罪に対してリクは無言で首を振り、イングリッドと一緒に着席した。

 何事もなかったかのように授業が始まる。


 イングリッドは、チラリと教室の窓辺を見た。先ほどからカーテンで遊んでいる、小さな幼竜がいた。

 ただカーテンが風で揺れているだけだと、他の者は認識しているだろう。


 この場では、おそらくカレン以外は誰も彼の姿が見えていない。プラサード司祭は定かではないが、見えていないのではないかとイングリッドは思う。


(――シリューズ様……。アイラをお選びになるなら、どうして私の元へ『御遣(みつか)い』様を……)


 イングリッドは、少し悲しい気持ちになった。

 しかし、心に芽生えた神への親愛の灯火が消えることはなかった。

 悩んでいても仕方ない、とイングリッドは思い直し、自分の頬をぺちぺちっと叩いた。


(もし本当にシリューズ様がアイラを専属巫女に選ばれたとしても、私がお仕えすることに変わりはありません……。もうアイラのすることは関係ありません。私はシリューズ様に全てをお任せすると決めたのだから、こんなふうに悩んでいてはいけませんね……!)


 ひとり、無言で決意を新たにするイングリッドだった。












アイラが神学科に乗り込んできました。

自分がアウェイなのに相手のホームに殴り込めるって、すごいメンタルのフレンズですね!

(ニッコリ)


今回、龍神系に強いヒルデナーダがイングリッドの専属任命託宣を降ろしました。

忘れられてそうなので神殿サイド貼っときます。


しばらく出て来てないシプリスは初等部ですが、こちらも裏で何かやっているらしいですよ。


インクイジターサイドまとめ

★インクイジター:ラビ

裁判長:リネン 知識の神の地上代行者。どこかの山奥に住むショタ


お手伝い出張

・星河の巫女:カレン 17才

・心泉の巫女:シプリス 9才


お留守番組 ※インクイジター第0話に出てます

・責任者:大神官ツクミト

・混沌の巫女:ヒルデナーダ 12才

・大地の巫女:ナディア 8才

・無限の巫女:セミュラミデ 11才

・神門の巫女:キスカ 10才


その他の巫覡

・調和の覡:???

・道標の巫女:メルア 5才


五大巫女①~⑤ ※能力順

①ヒルデナーダ

②???

③セミュラミデ

④???

⑤シプリス


※『星河』を持つカレンは①より上です





挿絵(By みてみん)









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