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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部 第五章 アム学Days ―魔法魔術科Side―
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「な……、何これ……」


 一体何が起こったのか、アミも理解するのに数秒を要した。


「ま、まさかイリスがやったの?」


 左手首のブレスレットを自分の目線に上げて、アミが恐る恐る尋ねた。


《いいえ、マスターの魔力によるものです。ギベオン・プログラムは、純粋な魔力を原初に(さかのぼ)らせたり、または終焉に導くことをコントロールする力です》


「それって……」

「――ちょっと、今のはどういうことなの!?」


 アミの呟きを掻き消したのは、内部結界の外側にいるレインやキャンディたちだった。


「魔導具でも隠し持ってるんじゃない?」


「そうよ、ズルしたに決まってるわ! 属性ナシに、あんなことができるはずないもの!」

「皆さん、お静かに」


 ミセス・ベルタが(たしな)めるが、レインたちはギャアギャアと騒ぎ続けた。

 そこへマスター・アスターが一喝し、クラスの誰もが息を呑むことになる。


「――黙りなさい」


 それは、穏やかさの中に真摯さが包まれているような低い声色だった。

 気が付くと、マスター・アスターは内部結界の中へ入ってアミの腕を掴んでいた。


「異世界の力か……」


 アミは驚いて萎縮したが、さらに驚いたのは、クラスメートたちの方だった。




「マ……マスター・アスターが、しゃべったぁぁあっ!?」




 クラス中がひっくり返って驚くほど、彼が口を開くのは珍しいことのようだった。


 雰囲気に圧倒されながら、アミは信じられない言葉を聞いた。


「……君。何故、普段は力を隠しているのだね?」

「えっ」


 マスター・アスターの言葉に驚いたのは、アミ本人だけではない。

 クラス中が、懐疑的な反応を示す。


「いやいや……」

「何言ってんの、先生」


 アミは最初の魔力テストで、無属性のうえにレベルがたったの一桁台だと暴露されている。アミは、たじろぎながら眉を(ひそ)めた。


「えっと……。(おっしゃ)ってる意味が……」


 皆の反応など意に介さず、マスター・アスターは顎をさすりながら呟いた。


「うーむ……。皆が疑うか……。単一属性の……」


 すると、マスター・アスターの言わんとするところを瞬時に察したミセス・ベルタが、先日の魔力テストで単一属性だと知られたばかりの生徒――コートニー・ガウディクスを呼び寄せた。


「ガウディクス令嬢。こちらへ来て、協力してくれますか」

「え? は、はい……」


 コートニーは何が何やらと首を傾げながらも、言われるがまま前へ出た。


「それから、誰かあちらにある鑑定魔導具を運んで来て下さい」


 ミセス・ベルタが言うと、何人かが進んで鑑定魔導具の台車を運んで来た。


 何が始まるのか分からなかったが、アミのことであれば黙っている訳にはいかないと、ミラフェイナが発言した。


「せ、先生。アミ様の補助でしたら、わたくしが……!」

「いいえ。単一属性の生徒でなければなりません」


 ミセス・ベルタがそう告げると、四つの属性持ちのミラフェイナはそれ以上何も言えなかった。一緒にいたスピリニラも複数属性を持つため、アミを助けることはできなさそうだ。


 手伝いの生徒が鑑定魔導具の台車を内部結界の中へ運び入れると、マスター・アスターがアミを連れて来た。そこへ、コートニーが合流する。


「マスター・アスター。単一属性の生徒です」


 ミセス・ベルタに頷き、マスター・アスターはコートニーとアミを指して言った。


「単一の属性魔力を、彼女に」


 一瞬、言われた意味が掴めない二人がきょとんとしていると、ミセス・ベルタが補足して言った。


「アミ・オオトリ。手を出しなさい。ガウディクス令嬢は、彼女に水の魔力を」

「分かりました」


 コートニーは先生たちに頷き、アミに近付いた。アミは途惑いながら右手を差し出す。その手を、コートニーが握った。


「もう片方の手は、鑑定魔導具だ」


 マスター・アスターが追加の指示をする。一体何をさせようとしているのか、アミには全く分からなかった。


「あの。これって一体……」


 ミセス・ベルタは何も言わない。コートニーが、少し憂鬱そうな表情をした。彼女はアミのせいで手伝わされている。そう気付いたアミは、マスター・アスターの指示に従った。


 アミは片手を鑑定魔導具の水晶玉に(かざ)しながら、もう片方の手をコートニーに握られている状態だ。鑑定結果の無属性を表す灰色の真円が、浮かび上がっている。


「ちょっと待って下さい」


 クラスメートの中から挙手をして、アンフィトルテが発言した。


「アミさんは今、何かの魔術を発動中のようですけれど……。この状態で、無属性ということですか?」


 アミのまわりには、未だに透明を含めた七つの球体(セブンスフィア)が浮かんでいる。当のアミも「そういえば」と首を傾げている。


 反論したのは、レインやキャンディたちだ。


「そんなの、本人の魔力じゃないからに決まってるじゃない!」

「何かの魔導具を使ってるとしか思えないわね~」


 無属性でも、魔力があれば魔法を使うことはできる。だが多属性ほど有利だという観念があるこの世界では、無属性の人間は実力を疑われたり爪弾きにされるのだ。


 今のやり取りは、それを如実にあらわしていた。


「見ていなさい」


 マスター・アスターが静かに一喝し、クラス中が成り行きを見守った。


「……いきます」


 コートニーが水の魔力を篭めると、手を介してアミの中にひんやりとした心地よい魔力が流れ込んできた。



 ――次の瞬間だった。



 鑑定画面の無属性をあらわす灰色の真円が、瞬間的に虹色に塗り潰された。

 その目映いばかりの光彩に、アミはまるで初めて見る光景のように瞳を見開いた。


「…………!」

「これは……っ」


 魔力を流しているコートニーも驚いて顔を上げた。

 そこには全てがあった。


 赤、黄、緑、青の四大元素の属性を始め、各種補助属性の橙色や水色、赤紫、青紫、そして光と闇を表す白と黒は、本物の虹にはない色だ。その中で、金色と銀色の星がスペクトルとは別に輝いていた。


 鑑定魔導具を造った者のユーモアなのか、聖属性を表す金色と銀色は星形で表現されていた。


「ぜ、全属性――!」


 教室の中が驚愕に染まった。


 アミ・オオトリが()()()()()()()()、コートニーの魔力を受けても出る反応は水属性だけのはずだ。こんな虹色の反応が出るはずはないのだ。


「手を離して」


 マスター・アスターの指示通りにコートニーがアミから手を離すと、虹が徐々に撤退していくように引いて行き、やがては灰色の鑑定結果に戻った。つまりは、無属性だ。


 それを見たマスター・アスターが納得したように頷き、生徒たちに向けて言った。


「――今の現象を説明できる者は?」


 一転して、場が静まり返った。周りを見回す生徒も、お互いに顔を見合わせるだけだ。


「鑑定魔導具が壊れた……とか?」

「今のを信じないならねぇ」


 レインとキャンディが悔しそうに、責任感皆無(かいむ)で口走る。

 マスター・アスターは溜息を吐き、一呼吸置いてからもう一度口を開いた。


「それでは質問を変えよう。基本の四元素または光と闇を融合させる魔法を答えられる者は?」


 今度は多くの生徒が手を挙げた。挙手をする生徒の中から、補助教員のミセス・ベルタが一人の生徒を指名した。


「アドラシアス」


 当てられて答えたのは、金髪の見目麗しい男子生徒だった。アドラス王国からの留学生、ジョルムンド・パラス・アドラシアス王子だ。


 本人は知らないが、レインがヒロインの乙女ゲーム『闇の王と雨降らしの精霊士』略して『雨ふら』のメインヒーローである。


「元素融合というと、真っ先に思い付くのは、かの大破壊魔法です。先生が仰ったように、元素融合の方法論は知られていますが……おとぎ話のような難易度で、賢者しか成功しないと……」


 彼が発言している後ろで、レインが「キャー! ジョルムンド様ぁ♡」と盛り上がっていた。アミやアンフィトルテに対する態度と違いすぎる熱狂ぶりだ。


 そんな生徒は置いておいて、ミセス・ベルタが解説した。


「誰もが知る大破壊魔法の方法論とは、等価元素融合ですね。四元素または光と闇のエネルギーを、全く等価にして融合させるというもの。言うは(やす)しで、名の知れた賢者でもほとんど使うところを見られない魔法です」


 それほど難しいということだが、何故その話題を出したのか。皆の視線が、マスター・アスターに集中する。


「全てを融合すると、ゼロになる。だが、無限はゼロから生まれる」


 意味深な言葉を発しながらマスター・アスターが近付いて来たので、コートニーはアミから離れて後ろへ下がった。


 マスター・アスターはアミの背中をトンと押し、まるで生徒たちに披露するかのように言った。


「……異界魔術師アミ・オオトリ。君の身体の中では、これと同じことが起こっている。君は、自分の中を常にゼロに保っている。(ゆえ)に無属性となり、低い属性は身を隠す。これは紛れもなく、原初の力だ」


「うわっ、とっ……」


 押されて前につんのめり、転びそうになったアミがやっとのことで顔を上げると、クラスメートたちの視線が突き刺さっていた。


「……つまり、どういうことですの?」


 アミを心配して近くに来ていたミラフェイナが呟く。後ろへ下がってきたコートニーが自分の意見を述べた。


「私が水の魔力をあの子に送ったことで、ゼロにするバランスが崩れたのね。それで、他の属性が現れた……」


「その通り」


 その時、マスター・アスターが鑑定魔導具に自分の手を(かざ)していた。鑑定結果の真円は赤や黄、青など七色に展開したが、闇属性はなかった。


「自身の内側をゼロに保つことは、心の修練と智慧の熟達が必要だ。心をゼロにできる聖者はいるだろう。等価融合を行える賢者もいるだろう。どちらも兼ね備えたあなたは、覚者(かくしゃ)の道を歩んでいる。百年に一人……、いや千年に一人の天才だ!」


 マスター・アスターはアミを絶賛して向き直ると、顔の前で手を組んで腰を折り、アミに対して正式な挨拶をした。


「私は原初の民(クラン・プレローマ)に連なるルルド・アスター。我が一族は、あなたを原初の魔術師と認めます。異界魔術師よ」


 場が静まり返り、クラスの生徒たちは誰もがぽかんと口を開けた。


 原初の民とは、アークヴァルト大陸に最も古くから存在する民族だと知られている。アミも、この世界の歴史で簡単に習って名前だけ知っている程度だった。


《新しい称号が追加されました》


 自分にしか見えないステータスウィンドウが開き、称号の欄に『異界魔術師』と『原初の魔術師』が追加されていた。前は『なし』だったはずだ。


 それよりも何より、マスター・アスターがアミに敬意を表したことは大きな波紋を呼びそうだった。


「え――――――――――――――――!?」


 何が起こったのか一番分からなかったのは、アミ自身であった。













ちょっと文章量が中途半端になってしまったので、今回長めになりました。


アミ全属性バレ回でした。


「原初の民」は、昔むか~しに自サイトでメイルゲームをやっていた時からある種族です。

(当時のHPはもうありません)

その時は筆名も違っていたので憶えている人はいないと思いますが……。

もし覚えている人がいたら、こっそり教えて下さい。こっそりと……。




転生/転移者・攻略対象等まとめ

【不明】 ※作品名も役柄も不明

・???:アミ リクと一緒に召喚された地球人。ゼロの全属性 ←New!*情報更新


名前と出番のある教職員まとめ

【アム学教職員リスト】

学園長:オージェハイド伯爵 シェイドグラム大公家の分家筋

錬金科教授:ゼイルストラ アシュトーリアの貴族

神学科教師:プラサード 神聖星教会司祭の資格を持つ担任

魔法魔術科教師:アスター マスタークラスの魔術師 原初の民 ←New!*情報追加

補助教員:ミセス・ベルタ 魔法魔術科勤務




挿絵(By みてみん)










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