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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部 第三章 新しい仲間と新たなストーカー

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「私のスピーチが!」


 とあるカフェテリアで叫び声を上げたのは、グランルクセリアの王女エクリュアだった。貴族科特有の、高貴をあらわす緋色の制服を身に着けたまま地団駄(じだんだ)を踏んでいる。


 この春、高等部一年生からアムリタ統合学園へ通うこととなったひとりだ。編入試験の成績がトップだったので新入生代表挨拶を任されていたのだが、インクイジターによる『ヒロイン』大量逮捕が勃発したために台無しになったのだ。


 この場所は、学園都市エクスの居住区にある王侯貴族御用達の高級カフェである。といっても半月ほど前にこの国のシェイドグラム大公家に買い取られており、今は貸し切り状態である。


「まあまあ、姫様~」


 落ち着いて下さい、と宥めているのは同国出身の公爵令嬢ミラフェイナ・ローゼンベルグだ。紅華館にいた新入生たちの入学式で起こったことを聞いて、大闘技場にいた始業式組も驚いているところだった。


 同じく驚きを隠せないでいるのは、数少ない転移者メンバーのリク・イチジョウとアミ・オオトリだ。グランルクセリア王国によって召喚された地球人である。


「でも、まさか新入生の『ヒロイン』まで捕まっちゃうなんて……。ねぇ、リク」


 アミがリクの方を見ると、リクは無言で頷いてから


「あの男ならやりかねない」


 と言った。あの男――とは、もちろんインクイジターのことだ。


 リクは過去に聖女認定を邪魔されているので、初めて会った時から印象が良くない。その時から、アミも何かしら絡まれている。


 リクやアミも、いずれ狙われると見て間違いないだろう。


「しかし、これは私たち悪役令嬢にとっては好都合ですわ。今回の大量逮捕で、私のようにシナリオから解放された悪役令嬢はかなりいるはず」


 そう語ったのは、貴族科高等部二年のディアドラ・フラウカスティアだ。彼女もグランルクセリア王国出身だがアシュトーリアの大公と婚約したため、今はこの国の大公城に住んでいる。


 エクリュア王女やリクたちよりも早くアムリタ統合学園へ転入したため、『ヒロイン』たちの情報収集を任されていた。この秘密サロン『フリーダム』においては、ブレーンの役割を担っている。


 今回、『法廷』に巻き込まれたアミをすんなりと取り戻せたのも、彼女の力添えによる影響が大きかった。


 ディアドラの指摘に、エクリュア王女は頷いた。


「……そうね。四十人逮捕されたのだから、同じ数の悪役令嬢もいるってことよね」

「隠れているモブは、もっといるかもしれませんよ」


 と、笑顔で付け加えたのはシエラ・クローバーリーフ伯爵令嬢だ。錬金科の赤とオレンジの制服を着ている。アムリタ統合学園へは、元から編入を決めていたという。エクリュアにとっては転生者仲間であると同時に、古くからの友人である。


 シエラはあるネット小説のモブと自称しており、エクリュア王女と同じく脇役令嬢の立ち位置だ。数多くのネット小説に詳しく、『フリーダム』では多様な場面で知恵を貸している。


「あのう……。本当に私、ここにいていいんでしょうか……?」


 リクの陰から恐る恐る挙手をしたのは、初参加となったイングリッド・リヒタールだった。


 リクとアミが助けたのは、アシュトーリアの伯爵令嬢だった。青い髪のイングリッドは、貴族令嬢には珍しくショートヘアにしている。髪を切った理由は、神学科に転向するためだった。


 彼女は前世の地球に存在したネット小説『愛、レゾナンス』略して『愛レゾ』の悪役令嬢として転生した、元地球人であった。


 不安そうに尋ねたイングリッドに、サロンのオーナーとしてエクリュアが言った。


「そんなの当然よ! 今まで、過酷な原作に(あらが)って生きてきたのでしょう? この『フリーダム』は、自由がモットー! 原作やゲームのシナリオに縛られずに生きる意志がある子を、応援するわ。悪役令嬢やモブが中心だったけど、シナリオにとらわれない気概(きがい)があるなら誰でも歓迎するわ!」


「あ……、それでリクさんたちがいらっしゃるんですね」


 イングリッドがリクとアミの方を振り返ると、二人はうんうんと頷いた。


 リクは『光の乙女と七人の伴侶』通称『ななダン』として知られる乙女ゲームの『ヒロイン』として召喚された転移者である。


 アミもリクと同時に召喚されたが、『ななダン』のシナリオにはないため別作品の主人公と目されている――が、当のアミ本人は乙女ゲームをプレイした記憶がないという。


 リクが連れて来たイングリッドの事情を聞いた『フリーダム』の令嬢たちは、一も二もなく受け入れた。


「まさか、ヒロインと悪役令嬢が同じ邸宅で長年過ごしてきただなんて……」


 シエラの呟きに、考えただけでも恐ろしいとミラフェイナやディアドラは身震いを覚える。 二人には、グランルクセリア王国の貴族学院にいた時のことが思い出された。同じ『ヒロイン』であったユレナ・リリーマイヤーの策略によって、ディアドラが悪女に仕立て上げられていた過去を。


 敵ヒロインが学友であった時ですら大変だったのに、それが義妹としてひとつ屋根の下で住んでいたとしたら。悪役令嬢にとっては、想像を絶する過酷な毎日であっただろう。


 謙虚なイングリッドは、皆の同情を集めていることに引けを感じた。


「い、いえ。少し前から学園の寮に逃げ込めたので、最近はとても落ち着いているんですよ」


「それでも今までずっと、お一人で堪えていらっしゃったなんて……。今日、リク様がお連れになって下さって本当に良かったですわ……!」


 涙ぐみながら、ミラフェイナが言った。


 イングリッドは幼い頃に前世の記憶が蘇って以来、ずっと『ヒロイン』である妹アイラによって精神的にも身の危険という意味でも苛まれてきた。


 そう、アイラも転生者だったのだ。


「お心の強さに、感銘を受けますわ。……私はミラや姫様たち、そして()()がいらっしゃらなければ堪えられませんでしたわ」


 身につまされる思いでイングリッドの手を握ったのは、『花ロマ』の悪役令嬢であるディアドラと、『ななダン』の悪役令嬢ミラフェイナだった。


 姉妹作である『ななダン』と『花ロマ』の悪役令嬢である二人はイングリッドと違い、子供の頃からお互い転生者として助け合って生きてきた。そのため、孤軍奮闘(こぐんふんとう)したイングリッドの苦労は自分たちの比にならないだろうと察したのだった。


「私以外にも悪役令嬢がいて、皆さんそれぞれに頑張っていらっしゃったなんて本当に……、驚きで……」


 皆の優しい言葉に、イングリッドも感極まって目尻に涙を浮かべた。


「まあ、まあ! 何てことですの。これからは、わたくしたちがいますから、何でも相談なさって下さいね!」


「いつでも力になりますわ」

「私にできることなら協力する」

「あ、ありがとうございます……!」


 同じ神学科であるリクも、イングリッドの味方になることを約束した。

 こうしてイングリッドは、正式に『フリーダム』のメンバーとなった。


「よかったね」


 ほんわかと皆を見つめていたアミは、温かい声を聞いた。


『ああ、本当によかった』

「えっ」


 アミは声の方を見てから、皆の方へ視線を戻す。皆、何事もなく談笑している。

 そうしてもう一度声の方を振り返ると、そこには何もいなかった。












アム学でも、モブ王女の秘密サロンは健在です。


なんと、今回で100話目です。お読み頂いている皆様に感謝です!

アム学編まだまだ続きますので、よければ☆星評価・いいねで応援下さると嬉しいです。

モチベ維持にもなりますのでよろしくお願いします!m(_ _)m


謎の声の正体は、そのうち出てきます!




転生・転移者まとめ

【愛レゾ】 ←New!*正式タイトル

・ヒロイン:アイラ

・悪役令嬢:イングリッド

・メインヒーロー:トバイアス



久々メンバーリスト更新

【秘密サロン『フリーダム』】

悪役令嬢・モブ令嬢支援系自由理念

オーナー:エクリュア王女(ななダン・花ロマ)

メンバー:ミラフェイナ(ななダン)

メンバー:ディアドラ(花ロマ)

メンバー:シエラ(あるネット小説)


新入り:リク(ななダン)

新入り:アミ(不明)


新メンバー:イングリッド(愛レゾ) ←New!




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