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グランルクセリア王国の城下町は、かつてない賑わいを見せていた。
街の至る所に花や手作りの装飾が飾られ、繁華街ではいつもより多くの出店が並んでいた。旅人や見物客も国中から集まって道はごった返しており、お祭りムードとなっていた。
新聞社に雇われた下町の子供たちが号外のビラを配っていた。
「大聖女降臨式典は午後からだよ!」
「興味があったら買っておくれ!」
ラビは子供たちに数枚の銅貨を渡し、本紙の朝刊を受け取った。
「ふむ……」
『光の乙女降臨!』と題する記事の一面は昨日行われたという異世界召喚の話題で、召喚された異界人について書かれていた。
「大聖女、ね。また新たなヒロインが出現したようだ。さっそく見に行こう」
物見遊山のように言うラビの背後から苦情の声が掛けられた。
「ちょ……ちょっと待つのだ~~!」
ラビが振り向くと、アザレア色の髪の巫女カレンがふらふらと追いついてきた。顔中に疲れを滲ませ、すでに満身創痍だ。こんな状態だが、彼女は大陸中の巫女の頂点である『星河の巫女』である。
「何で私たちまで付いて来なきゃならないのだ? もう勇者の時と違うんだから、巫女の力は必要ないでしょ!?」
カレンの後ろから黒髪の少女がひょこんと顔を出す。聖火神殿から来てもらった『無限の巫女』セミュラミデだ。今回、カレンと一緒に連れて来られていた。
神聖星教会の総本山である『星河神殿』のある大陸中央の永世中立国アシュトーリア王国から、馬車で揺られること数週間。
辿り着いたのは大陸中部の端にあるグランルクセリア王国だった。
慣れない馬車の強行軍で、あまり眠れていないカレンは顔色が良くない。
「それが、そうでもない。法廷を開くには、ちと条件があってな。複数の神々を同時に降ろせる汝の力が必要になる」
「ええ……」
カレンは、なおも不満そうだ。セミュラミデが首を傾げる。
「およ? じゃあ私は? ニキ様しか降ろせないよ?」
「汝はカレンの護衛であると同時にスペアだな」
「やった! 戦闘力で選ばれたなら納得じゃん♪」
「護衛!? ミュウが私の!?」
十一歳のセミュラミデが自分の護衛と聞いて、カレンは度肝を抜かれた。しかしながら彼女は武闘修道士の肩書きも持つ驚異の十一歳であった。
「その辺の神殿騎士より強いから任せといて!」
「何か複雑なのだ……」
年下の子供に護衛されるのはいかがなものかとカレンは唸り声を上げた。
朝刊に目を通したラビが顔を上げた。
「よし、ならば先に地元の神殿で宿を取らせてもらおう。汝らはそこで一足先に休んでおくがよい」
「え? でも午後の式典にヒロインが出るんでしょう?」
「そっちは単なるお披露目だな。行くとすれば、後日行われる祝賀パーティーの方だ。だがまぁ、その前に聖女となれば神殿から神官が派遣される認定式があるだろう。ちょっくらそこに便乗してくる。認定式程度なら、殴り込みは私だけで十分だ」
「殴り込みって……」
「おっけい♪」
ツッコミが間に合わないカレンの横で、セミュラミデがぴしっと了解の仕草をする。
インクイジターの任命に関わった巫女たちはラビの任務を知っていたが、ヒロインを倒すために具体的に何をするのかは聞いていない。
「うーん……。あのノリで大丈夫なの……? 異端審問官って、もっとこう……」
やたらとフットワークの軽いラビの後ろを歩きながら、カレンは一抹の不安を覚えるのだった。「ノリって?」と隣でセミュラミデが不思議そうな顔をしていた。




