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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

醒めぬ夢

作者: 伽藍堂

目が覚めた。


ピッピッピッピっ…


無機質な音が部屋に響く。

自分以外は誰も居ない、自分を生かすための機械だけがある病室。


ガラガラとドアの開く音がした。


あぁ、きっと自分は幸せだったのだろう。


自分は、1945年、第二次世界大戦が終戦した次の日に産まれた。

名前は谷崎 一郎。普遍的な名前だ。


幼い頃から女中や下女が自分の世話をし、父はしょっちゅう家を留守にしていた。母は自分を産んだ時に死んだらしい。


幼少期はあまり外に出ず、家で父から送って貰った西洋の幼児向けの本を読んだり、女中に算術を習ったりしていた。


7歳になり、小学校に入学した自分は、周りとの差に愕然としていた。何故、このような簡単な事が出来ないのか。何故、こんな簡単な問に答えられないのか。まったく理解出来なかった。

まったく馴染めず、さりとてそれでいいと思い、小学校を卒業した。この頃、女中が死んだが、下女が新たな女中となり、新しい下女が来た。この頃に、父は政治家で、自分も将来は政治家になるんだと決めていた。


13歳となり、中学校に上がった。ここでは自分も仲良くできたと思っている。時に喧嘩をしたり、時に泣いたり、青春を謳歌していた。

また、この時初めて恋をした。名前は齋藤 椿。由来は六月に産まれたからだそうだ。花言葉通りに愛らしい顔をした可愛い女子だった。自分にはまったくからっきし勇気がなかったので、告白などは出来なかったが、ある時に自分の親友が家に来て、椿が好きだと言われた。お前は、とも聞かれ、自分には勿体無いと答えたら、親友は、そうか。と一言言い、帰ってしまった。その後親友と椿は付き合っていた。

その頃から、親友とは疎遠になっていった。


16となり、高校に行く頃には、父から恋仲の人間はいないのかと聞かれた。最近になって知ったことだが、父は第二次世界大戦のA級戦争犯罪者であるにも関わらず、賄賂を払って逃げていたという。今は貿易を行っていると言うが、自分は心底、父を軽蔑していた。

関係ないだろと吐き捨て、学校へ向かう。

高校では自分の知識欲が満たされ、充足感があった。

恋にうつつを抜かさず、自分の出来る事、学びたい事を徹底的に学んでいた。


19歳で大学生になる頃、女中が身篭っていた。聞けば、毎日の様に父に夜伽をさせられていたらしい。女中の部屋へ行き、断ればクビにしてもいいんだぞ、と。反吐が出るほどの畜生ではあるが、あれでも一応自分を育ててくれた親である。

自分は、貯めていた小遣いやらをかき集めて女中に渡した。

これを持って家族の元にお逃げと。女中は、断っていたが、自分が貰ってくれぬなら父に言う、と脅すと、ありがとうございます...と涙ぐみながら出ていった。


明後日の朝、父から新聞を手渡され、中を見てみると、そこには女中の訃報が載っていた。なんでも、前を見ていなかった車に轢かれただかなんだか。父はニヤニヤとしていた。トイレへと書き込み、今しがた食べた朝食を吐き出した。自分は今日、初めて学校を休んだ。


それからは大学に行き、友人の家に行ったりして、出来るだけ家に帰らないようにしていたが、ある日家に帰ると父から、新しい下女が来たぞと、ニヤニヤしながら言われ、新しい下女を見ると、椿であった。


自分が、椿に、親友とはどうしたと聞くと、なんでも親友の父が貿易で騙されて、全財産を失ってしまったと。それを苦に父は首を吊り、母も後を追うように首を吊ってしまったと、それで親友はおかしくなり、別れたと。横を見ると、父はニヤニヤしていた。自分は後悔した。あの時に、親友と疎遠になっていれば救えたのではないか、と。

頭に鬱屈とした感情が渦巻いている時、父から、そういえば、

一郎はまだ童貞なのだろう?椿で卒業しておけ


その言葉の意味を理解した時、自分は父に掴みかかっていた。すんでのところで止めたが、父は、どうした?図星だったか?と薄ら笑いを浮かべていた。自室に戻ると伝え、踵を返すと、椿の泣きそうな顔が見えた。

その夜、父の寝室の方から、水のような音と、甘ったるい声、それが聞こえなくなったと思ったら、泣く声が聞こえてきた。自分は目を瞑り、朝を待った。


朝起きると、父は仕事に行っており、椿は椅子に座り、惚けていた。声をかけると、過剰に驚き、自分と分かると、大粒の涙を流し始めた。自分はどうすることも出来ず、用もないのに外へ出かけた。

この頃、自分は左翼の団体や、参加している友人らといる事が多かった。

別に何かに感化されてとか、高尚な理由はないが、父が右翼だから、それだけである。

その頃から、大学へはあまり行かなくなっていた。


団体で集まっては世の中の不満、不平等への嘆きを語り、夜に家に帰ると水の音と椿の嬌声を聞こえないふりしながら朝を待つ生活が続いていた。


1969年、東京大学の安田講堂を占拠したと聞いた、見に行ってみると、何人かの人間が、警察と殴り合ったりして、まるで馬鹿みたいだった。


まだ昼過ぎだったが、ご飯を食べて家に帰ると、父はおらず、椿の姿もなかった。耳をすませて見ると、どうやら風呂に入っているらしかった。自室に戻ろうとしたその時、自分の中に下劣な考えが浮かんだ。このまま椿を犯してしまおうか、なんて、最低だと自己嫌悪しながら自室へ戻り、横になった。


目が覚めると真夜中で、今日も水の音と嬌声が聞こえてきたが、どうにも様子がおかしい。いつにも増して声が大きかった。それに、嬌声というよりも獣と言った方が近かった。

恐る恐る父の寝室に近づいて、襖の奥から覗いてみると、父の背中が見えた。なんてことはない、いつも通りだ、と襖を閉めようとすると、布団の横に転がった瓶を見つけた。本当に我が父ながら、下劣でケダモノのようだと思った時には、自分は父親の頭をその辺に転がっていた酒瓶で、父の頭を力を込めて殴っていた。カエルのような醜い声を上げ、ビクビクと痙攣した後に動かなくなった。


横のビンを見てみると、メタンフェタミンと書かれていた。そのビンが5.6本転がっている。恐らく、全部打たれた後だ、もう助からないだろう。どうせ1人殺しても2人殺しても、何も変わらないのであれば、せめて楽にしてやろう。と思った時、自分はズボンを脱いでいた。そのまま椿の赤くなった蜜壷に自分のを宛てがうと、そのまま一気に腟内に挿入した。椿は喘ぎ、自分は初めて味わう快楽でスグ達してしまった。その後、数回行為を行った後、自分は椿を殺した。

服役しようかとも考えたが、バカバカしいと思い、ありったけの金と服、普段使ってる最低限度の物だけカバンに積み込んで、自分は自由になった。


しかし、2週間もする頃には新聞で大大と殺人事件と掲載されてしまった。息子の行方も不明、情報提供者求むと。


自分はその日から、椿との行為の快楽を忘れられずにいた。

逃げなくてはダメだと分かっているが、何遍も売女を抱いては違う、違うと、椿でないと、と半ば強迫的になっていた。


自由になってから、1年が過ぎようとしていた。

身を隠しながら女を抱いて、ついに金が無くなってしまった。

これはまずいと仕事を探すが、住所不定の人間にまともな仕事もなく、身元を証明出来るものもなかったため、路頭に迷っていた。


次の日、自分は女を抱いていた。正確にはもう殺しているが。

やはり、今お金を稼ぐとなると、このようなやり方になるんだと、どこか達観した気持ちでいた。殺した後に死体をそのままにすると通報されかねないので、泊まっている旅館の使われてない井戸に捨てておいた。これで暫くは大丈夫だ。

そして、来る日も来る日も女を抱いては殺し、抱いては殺しを繰り返した時、ついに井戸の死体が見つかってしまった。

自分はその時旅館から離れていたので、またあてもない旅に出ることにした。

ある時は橋の下で女子で楽しみ。

ある時は民家に押し入り男を殺し、女と女子を楽しみ。

ある時は妊婦の腹を裂き、赤子を取り出し、そのあと楽しんだり。

ある時は旦那の目の前で妻を弄んで殺したり。


そうしてるうちに、流石に捕まってしまった。

判決は死刑だ。

だが、昭和天皇が死んで、自分は恩赦により8年程度の刑で済んだ。

出所してからは、真っ当に生きようと思い、自分の名前も何もかもを偽って、恵まれない子供達の世話をしようと考えた。

だが、あの日からの快楽が忘れられなかった自分は、白痴や知的障害がある子供を中心に手を出して行った。


そして現在、自分は57歳で、前日に抱いた女の子の母親に刺されて、病院にいる。


これは自分が死ぬ前に認めた独白である。

人によっては、自分の人生は空虚だと、若しくは怒るだろう。

だが自分は、初恋の女が初めてで、そこからの人生は自由であった。これが、私の、人生だったんだ。


目が覚めた。


ピッピッピッピッ


無機質な音が部屋に響く。

自分以外は誰も居ない、自分を生かすための機械だけがある病室。



ガラガラとドアの開く音がした。


あぁ、きっと自分は幸せだったのだろう。

愚者が想像する夢は、果たして賢者に想像出来るのか。

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