その1
夏の日の思い出
夏休みも後半に差し掛かり、
暑さも盛りを過ぎ、夕暮れがやってくる速さが
そろそろ、夏の終わりを感じさせるような頃だった
父の仕事が外国航路の貨物船の船乗りだった事もあって
父が帰国したしばらくの間を、船のドックがある瀬戸内の街で過ごした
そんな、夏休みだった
帰宅した翌日は旅行疲れで、
うとうとと1日を過ごす
昼下がり、どうにも我慢出来なくなってきたのを察して
母が、布団を敷いてくれた
夏の日の昼寝というよりは、もっと本格的に体を休めさせたいという親心だったのだろう
静かな夏の日、
布団は心地よく、私はすぐに意識を手放した
人の声がする
夢現の段階では、声は聞こえても意味にまでは辿り着けない
夢から少しずつ醒めていくと
来客があったようで、母と女性の声だと、それだけは分かった
子どもにとって、母と、その同年代の女性との会話は興味を引くものではない
子ども心にも、眠りを邪魔されたことにムッとして再び眠ろうとするけれど
心地よい睡魔はもう2度訪れては来ない
だが、すっきりしているわけでもなく、鈍い疲れに気怠く重い体を起こす気力はなく
ぼんやりと、布団の上で目を閉じていた
「…そう、亡くなったのよ」
という、女性の声が聞こえ
「…えぇ?」
と、母の涙で咽を詰まらせた、くぐもった声が聞こえた
あれは、母の嗚咽だ
そう気付いた途端、私自身目が開く
感受性の豊かな母は、喜びの時も悲しみの時も、よく涙を流す
だけど、驚きと悲しみが押し寄せた様な嗚咽を、滅多に聞く事はない
『誰が死んだのだろう?』
母の涙の正体が知りたくて、目を開いたまま布団で身じろぎもせずにいると
少しずつ、会話の内容が聞き取れた
この地区で、又、亡くなった子がいる