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Ver.1.4 聖夜の宴2

登場人物紹介


シバ(本名:司馬一)

高校二年生。中学二年生の時のトラウマからVRゲームから遠ざかっていたものの、ふとしたきっかけで、VRゲーム”ザ・ゲート”の世界に足を踏み入れることになる。中学生の頃は小柄な体形から”小豆司馬”と呼ばれていたが、高校生となった今では学年屈指のイケメン。


ノラ(本名:野良将平)

シバのクラスメイトであり、幼馴染。茶髪のアフロがトレードマークのプードル似。一部のマニアックな女子から人気がある。シバをVRゲーム”ザ・ゲート”に誘った張本人。


マヒル(本名:白澤真昼)

シバのクラスメイトで、学級委員。クリスマスパーティー”聖夜の宴”の主催者。


ゴールドラッシュ(本名:金木徹)

シバのクラスメイトで、腫れ物扱いされている問題児。何かとシバに突っかかってくるので、度々シバとは衝突を繰り返している。


 それから、シバはノラと共に机に並べられた豪華絢爛(けんらん)な食事をつまんでみた。サ・ゲートの味覚の再現は精巧なもので、料理の見た目と味には一切ギャップがない素晴らしいものだった。さらに、会場にはNPCと思われるメイドたちが脇に控えており、料理が盛られた大皿は空になる前に補充される。まるで一流ホテルで行われるパーティーさながらであった。そんな中、横にいるノラが料理を勢いよく頬張っているのを呆れながら見ていると、


――ガシャン!


 突然ガラスが割れるような大きな音が聞こえた。その拍子にノラが喉を詰まらせる。


「酒が提供できないってどういうことだよ!? NPCごときが俺に逆らうのか!?」


 そう叫んだのは、クラスで何かとシバに突っかかってくる金木だった。金木の叫び声にその取り巻き連中も集まり出す。金木の横では、メイド姿の女が床に料理をぶちまけながら倒れこんでいた。


 胸糞悪い光景だった。VRゲーム内には必ずと言っていいほど、NPCをただのプログラムだと思って差別的に扱うものがいるのだ。金木もそんな人間のひとりなのだろう。


 シバにはそういった差別をする輩が許せなかった。アリスβ版でNPCであるマリアと出会い、NPCがただのプログラムではないとそう感じているからだ。シバは思わず拳に力が入る。


 倒れ込んでいたメイドはゆっくりと立ち上がり、そして金木に向かって頭を下げる。


「ゴールドラッシュ様、申し訳ございません。未成年者への酒の提供はザ・ゲートの規約により禁止されています。そして、万が一未成年者へ酒が提供されたとしても、システムの制限により飲酒は自動的にブロックされます。何卒ご理解いただきたく存じます」

「そんなこと知ってるに決まってるだろ!? 酒がないと雰囲気出ないから言ってるんだよ! 匂い嗅ぐだけだったら別にいいだろ!?」

「申し訳ございませんが、お断りさせていただいております」

「この野郎、馬鹿にしやがって……。ここ貸切るのにいくら払ってると思ってるんだ!」


 金木こと、ゴールドラッシュはメイドの胸ぐらを掴んだ。そのメイドは体の力を抜いてされるがままになっているものの、シバはメイドの顔つきを見て驚いた。ゴールドラッシュのことを睨んでいたのだ。まるで嫌悪感を抱いているような、そんな顔つきだった。


「こいつ――」


 ゴールドラッシュはそう言いながら、拳を振り上げる。


 それを見た瞬間、シバの体は勝手に動いていた。シバは素早くゴールドラッシュに駆け寄り跳躍。ゴールドラッシュの腕からあっという間にメイドの体をかっさらった。


「な――!?」

「NPCにだって人間と同じように誠意をもって接しなければダメだ。お前の行動は見ていて吐き気がする」


 シバの言葉にゴールドラッシュは一瞬呆気に取られていたが、その後盛大に吹き出した。その取り巻き連中も同様に嘲笑する。


「何言ってんだこいつ!? NPCなんて所詮ただのプログラムだぞ? 俺らプレイヤーの奴隷みたいなもんだ」

「違う。NPCにだって人間と変わらない記憶や感情があるんだ。実体がないだけで人間と同じなんだから、人間と同じように接しなきゃいけない」

「ハッ、何も知らねえおこちゃまが何を根拠にほざいてやがる。大人に盾突いてないで、さっさとそいつをよこせ」


 そう言ってゴールドラッシュはシバを鋭く睨んだ。シバはメイドを背後に隠す。


「自分のことを大人と呼ぶなら、もう少しお手本となる行動をとってもらいたいもんだね」

「な!? 誰だか知らねえが、いけ好かねえあいつ(・・・)と同じような喋り方しやがって……。失礼なおこちゃまには、きっついお仕置きが必要だな」


 ゴールドラッシュはそう言うと重量感のある金色の大槌を出現させ、それを構えた。シバは近くのテーブルにあったナイフをたぐり寄せて片手に握る。


「ゴルくん、待ちなさい!」


 そう言い放ったのはマヒルだった。マヒルはシバとゴールドラッシュの間に立ちはだかる。


「ご、ゴル!?」


 ゴールドラッシュは驚いたようにマヒルを見やった。


「彼はノラくんの弟さんよ。優しく接してあげなきゃダメでしょ!?」

「ノラの弟だとお?」


 ゴールドラッシュはそう言いながら、ノラの方をギロリと睨んだ。ノラは冷や汗をかきながら小さくなっている。マヒルは言葉を続ける。


「あなたの暴力的な行動は、楽しい時間を台無しにしてるんだからね! 大人げない行動は慎みなよ!」

「ちっ、説教くせえことほざくんじゃねーよ。こっちはモブたちの前で大恥かかされてるんだよ」


 ゴールドラッシュはそう言って、大槌をマヒルに向ける。シバが身構えたその時――


――ゴーン、ゴーン、ゴーン


 三度大きな鐘の音が響き渡る。そして突然、


『――これより限定クエスト”クリスマス・キャロル”を開始します。参加希望者はふたり組のパーティーを組んだうえで、扉の塔前の広場へ集合してください』


 と、機械的なアナウンスが天から降ってきた。そのアナウンスを聞いたゴールドラッシュは「チッ」と舌打ちする。


「おい、イベントが始まっちまう。あとで落とし前はつけてもらうから覚えてろよな?」


 ゴールドラッシュはそう言うと仲間数人を引き連れてに宴を後にした。ゴールドラッシュたちの後ろ姿を見送ると、マヒルが眉を下げながら優しく微笑んだ。


「うちのクラスメイトがごめんね。怖い思いさせちゃったかな?」


 シバは子供っぽく、頭をぶんぶんと振る。


「ううん、大丈夫だよ! メイドさんは大丈夫だった?」


 シバは背後に隠していたメイドの方を振り向いてそう尋ねた。すると、メイドは目を見開きながら短く、「問題ございません」と答えた。


 そして、先ほどまで隅っこで縮こまっていたノラがいつの間にかシバの横に憤慨しながら現れた。


「なんだよ、ゴールドラッシュのやつ。”インターミディエイト”だからって威張っちゃってさ!」

「”インターミディエイト”?」


 シバは聞きなれない言葉に疑問符を付けた。


「LV50から69までの高ランクのプレイヤーのことさ。プレイヤーはレベルに応じて四つにランク分けされていて、インターミディエイトは上から二つ目のランクなんだ。インターミディエイトは上位20%しかいないと言われていて、そのレベルまで到達するには相当な鍛錬が必要なんだよ」


 シバはそう言ってプレイヤーのランク分けについて詳しく教えてくれた。


―――――――――――――――――――――――――

低  ~LV29     エレメンタリー

中  LV30~LV49 プライマリー

高  LV50~LV69 インターミディエイト

特  LV70~     ハイアー

―――――――――――――――――――――――――


「へえ、それじゃあ、”ハイアー”はもっとすごいんだね」

「そりゃあすごいなんてもんじゃないよ! そんなプレイヤーは上位1%にも満たないんじゃないかな!? 僕もそんなプレイヤーにはお目にかかったことがないよ!」


 おそらく、ゴールドラッシュはクラスにおける力関係をザ・ゲートでも維持したいがために、インターミディエイトまでレベルを上げてきたのだろう。プライド意識の高いあいつの行動パターンが透けて見えるようだった。


「ふーん、それにしてもゴールドラッシュさんは、クエストと聞いてすぐに出てっちゃったけど、なんでだろうね?」

「イベントの賞品を狙ってるんだと思うよ。イベントには順位がつくから、上位に入れば入手困難なレアアイテムが手に入ったりするからね。それもどうせクラスのみんなに自慢したいとか軽薄な理由よ。昔はあんな奴じゃなかったんだけどなあ」


 マヒルはそう言って、悲しげにため息をついた。


ここまで読了いただきありがとうございます!

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