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15 武装搭載

 地上へ帰還しウルメルの様子を見に工房へ行くと、山のように盛られた料理をガツガツとかきこむウルメルの姿があった。

 あの栄養は全部おっぱいに行くんだろうなぁなどと考えてみたり。いかんいかん。


「もごもがっ! ……んぐっ! おかえりハヤト! 完成したよ!」


「早いな!」


 まだ二日目だぞ。なんか日に日に彼女の腕が魔法じみてきているのは気のせいか。

 なんにせよ仕事が早いのはいいことだ。ウルメルのことだから仕上がりも完璧だろうしな。


「まったく恐ろしい娘っ子だぜ。溶鉱炉の熱も薬品もまるで歯が立たなかった大型ガーディアンの装甲を溶かして加工する技術を確立しちまった」


「それもたった一晩で、ありあわせの材料を使ってだぞ。いくら名工ドンズの娘とはいえ無理があるだろ。俺は夢でも見てたのか」


「まあこの子は色々と特別なんで」


 嬉しいような悔しいような何とも言いがたい複雑な顔で唸る工房のオヤジたちに苦笑いで返しつつ、バイクの置いてあるほうへ駆けていくウルメルを追いかける。

 黒い布が被せられたバイクの横に立ったウルメルは改まった顔でゴホンと一つ咳払いし、にんまりと顔を輝かせた。


「それじゃあお披露目、これがドラゴンセローV2だぁーっ!」


「おおっ!?」


 布が取り払われると、随分と見た目の変わった俺の相棒がそこにあった。


「今回の大きな変更点は二つ。タイヤを環境適応型流体素材へ変えたことと、武装をとりつけたこと。重心が安定した分乗り心地は前より良くなってるはずだよ」


 つるりと滑らかな光沢を放つタイヤはなんと地形に応じて走りやすい最適な形へ変化するそうだ。

 しかも走るごとに路面から成分を吸収して自己修復までするらしい。

 そして何より目を惹くのはフロントライトの横に取り付けられた二門の機関銃と、リアキャリアの左右に搭載されたミサイルポッド。


「武装の装填発射システムはガーディアンのものをそのまま流用したんだ。魔導基盤にマナを通して、そこに記録された魔法式を起動させて弾薬を生成発射する仕組みなの。だから弾切れの心配がないんだ」


「すっげぇ……」


「ただし、連続して撃ち続けると基盤が焼き切れちゃうからそこだけは注意が必要だけどね。ちなみに基盤は燃料タンクのあった場所に格納してあるよ」


 これだけの大改造をたった二日でやりきるか。

 基盤に記録する魔方式を組みかえれば攻撃手段のバリエーションも広がりそうだ。


「ちなみにこの子、壁や水上も走れるよ」


「最高」


 全ライダーの夢叶っちゃったよ。

 いつもこちらの予想を遥かに上回る仕事で驚かせてくれるからウルメルってば本当もう大好きだ。


「ついでにピコも武装したからもう向かうところ敵なしって感じだね!」


「お前も随分と厳つくなったなぁ」


「ぶもっ」


 殻の上に巨砲を背負い、四門の機関銃と二基のミサイルポッドを殻の左右に取り付けられたピコはちょっと見ない間に生きた重戦車になっていた。

 ピンと頭を仰け反らせる様子はどこか誇らしげである。


「あとはエンジンの出力を安定させれば完成だね! どうする? もう少しここでお宝探してく? もっと下まで行けばエンジンの部品になりそうなパーツも見つかるかもよ」


「そのことなんだけど、ウルメルについてきてほしい場所があるんだ」


「ほへ?」


 きょとんと首を傾げるウルメルを連れて、俺は先程見つけたコンソールのある研究室へ向かった。



 ◇



「そっか……。お母さん、どおりで見つからないはずだよね……」


 記録映像を見終えたウルメルは取り乱すでもなく、静かに頭の中で情報を噛み砕き整理しているように見えた。

 きっとお母さんを探しに行くための手段を色々と考えているのだろう。


 すると急にハッと顔を上げたウルメルは俺から地図をひったくるとガリガリと裏面に何かを書き込んでいく。

 それはどうやら何らかの理論に基づいた機械の設計図のようだったが、あまりに複雑すぎてそれ以上のことは俺にはわからなかった。


「……行かなきゃ」


「ちょっ!? ウルメル鼻血!」


 何らかの設計図をものの数分で完成させたウルメルは焦点の合わない虚ろな目でポツリと呟きフラフラと部屋を出ていこうとする。

 鼻から尋常じゃない量の鼻血を垂れ流しており明らかに様子がおかしかった。


「しっかりしろ! 大丈夫か!?」


「行かなきゃ、行かなきゃ……」


「行くってどこへだよ!? しっかりしてくれ! こっち見ろウルメルッ!」


 ウルメルの肩を掴んで大声で呼びかけると、すぅっと目の焦点が合い、


「遺跡の一番奥! そこにキューブがあるの!」


 唐突にそう叫んだ。


「キューブってなんだよ!?」


「わかんない! けどわかるの! うまく説明できないけど、早くしないと取られちゃうよ!」


「誰に!?」


 と、そのときである。



 ────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!



 遺跡全体が激しく揺れた。

 次から次へなんだよ!


「あああっ!? 急いで止めないと持ってかれちゃう!」


「よくわかんないけどそのキューブとかいうのが必要で、それがこの遺跡の一番奥にあるんだな!? 道はわかるか!」


「わかるよ! あれ、なんでたろ……。ううう~! さっきから変だよぉ!」


 遺跡から変な電波でも受信したか。

 とにかく今はキューブとやらを回収しなければいけないらしい。

 急いで部屋を出た俺は後ろにウルメルを乗せてバイクを走らせる。


 誰もが地上へ逃げようとする中、俺たちだけが逆走して地下へ通じるトンネルを駆け下り奥へ奥へと進んでいく。


「そこを右! 次を左! その坂下ってしばらくまっすぐ!」


「了解!」


 複雑怪奇な地下都市遺跡の通路を右へ左へ案内のままに突っ走ると前方に狂ガーディアンが現れ道を塞いだ。


「邪魔だァ!」


 ジャンプスイッチの横に追加されたミサイルの発射スイッチを押す。

 左右の六連装ミサイルポッドが開き鋼鉄の爆槍が炎の尾を引いて超音速でカッ飛んでいく。

 直後巨大な鋼蜘蛛の顔面に突き刺さって大輪の紅蓮が花開いた。


 狂ガーディアンの真横をすり抜け爆炎を斬り裂いて通り過ぎると、今度は小型ガーディアンの群れが通路の奥から鉄砲水のように押し寄せてくる。


「どけどけどけェェェェッ!」


 うじゃうじゃ湧いて出た小型を機銃で蹴散らし残骸をジャンプで飛び越えると、天井から飛び掛かってきた小型が雨のように前方を塞ぐ。

 直後、後方からの砲声が子蜘蛛たちを粉々に消し飛ばし空中に道を切り開く。

 後ろをついてきたピコによる援護射撃だ。ナイス!


「一気に抜けるぞ! しっかり掴まってろ!」


「うん!」


 ピコの援護射撃を追い風に長いトンネルを抜けると、地下を大きくブチ抜いた吹き抜け構造の広間へ出た。

 広間の中央には円錐形の機械が鎮座しており、そこから天井へ向かって無数の管が繋がっている。恐らくアレがこの遺跡の動力炉なのだろう。


 だが数千年の長きにわたり遺跡を動かし続けた力はすでに失われており、動力炉を守っていたはずの人型ガーディアンも今まさにとどめの一撃に貫かれ膝をついたところだった。


「チッ、随分と時間を食わされたな」


 人型ガーディアンの胸を貫いたのは、白亜の鎧を纏った美貌の戦士が放った光の矢だ。

 その手には薄緑色に輝く拳大の立方体が握られており、彼(彼女?)が遺跡を襲った大激震の犯人であることは状況から見て明白だった。


「そんな、どうして……!」


「君たちこそどうしてここに。ここはギルドでも限られた人間しか知らない最深部だぞ」


 フェイさんの瞳に敵意が宿り二枚の円月輪が弧を描くように彼女(彼?)の周囲を滑空する。

 と、次の瞬間────。


「ボサっとするな。死にたいのか」


 ガキンッ! と俺の死角から飛んできた三枚目の円月輪を槍で弾き返したのは不気味な鳥の面を着けた黒マントの男、ギドーだった。


「キヒヒヒ、ようやく尻尾を掴んだぜ大盗賊フェイラル。そのキューブは国が管理している特級遺物(アーティファクト)だ。返してもらうぜ」


 いつの間にか俺の横に立っていた猫の面を着けた小柄な男がリボルバーの銃口をフェイさんに向ける。


「チッ、次から次へと面倒な。これはもうボクのものだ。どうしようとボクの勝手だし返すつもりもない」


「……は? え!? なに、どういうことだ!?」


「キヒヒヒ、すっかり騙されたなボウズ。アイツは世界各国で指名手配されてるお尋ね者だ。俺たちは王国軍所属の捜査官で、ずっとアイツの足取りを追ってたのさ」


「紛らわしい!」


 あからさまに軍人とわかる恰好をしていたら警戒されてしまうのはわかるけど、もう少しまともな恰好はなかったのか。

 不気味なお面に黒マントなんてどこからどう見ても不審者だぞ。


「やつは魅了の魔眼を持っている。俺たちがこの街へ来たときにはすでに街の住人たちはやつがこの街の冒険者の顔役だと誰もが思いこまされていた」


「キヒッ、お前にも魔眼を使おうとしていたみたいだが、直接相手のツラァ見ねぇと上手くかからねぇらしくてな」


 なるほど。確かに俺はずっとフルフェイスのヘルムを被っていたからフェイさんに素顔を知られていない。

 それで俺が邪魔だったから攻撃してきたわけか。


「なんだ、そこまでバレてたのか。案外優秀なんだね君たち。でも残念、もう手遅れだよ」


「っ!? ウルメル!?」


 突然バイクから降りたウルメルが俺とフェイさんの間に立ちはだかり自分の喉元にドライバーの先端を突きつけた。

 くそっ、顔さえ見えてて視線さえ合えば距離は関係ないのか!?


「さあ取引といこうじゃないか。ボクを見逃してくれるよね?」


 耽美な顔に邪悪に歪めフェイさんがニヤリと嗤った。

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