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14 地図の空白

 ガーディアンは強い割に素材の加工が困難なため殆ど利用できる部分が無く旨味が少ない敵だ。

 しかもそこそこデカイため放置しておくにも邪魔になってしまう。

 なのでガーディアンを倒した場合はギルドに報告してギルドから片付けの依頼が出されることになっている。


 下層から上がってきた狂ガーディアンを倒した俺たちは一度ギルドまで戻り状況を報告。すぐさま片付けの依頼が出され、大勢の冒険者とモルグを使って運び出されたガーディアンの残骸はウルメルの指示で街の工房へ運び込まれた。


 職人たちが興味深そうに見守る中相棒の改造に取り掛かったウルメルだったが、バイクの改造が終わるまで数日はかかるとのことなので、俺はその間に一人で依頼をこなして等級を上げておくことにした。

 ウルメルの世話は工房の女将さんが見てくれるというので彼女たちの好意に甘えさせてもらった。


 とはいえ上層の依頼は巡回駆除と通路の補修、下層から上がってきて討伐されたガーディアンの片付けが中心で、逆に言えばそれくらいしかない。

 遺跡上層は果てしなく広いが長い年月をかけて探索し尽くされているため、目ぼしいお宝は殆ど取りつくされているからだ。


 なので大きく稼ぐことは期待せず、地道に依頼を受けコツコツと貢献度を稼ぐことにした。

 そんなわけで今日も今日とて巡回駆除と通路補修の依頼を掛け持ちして受けつつ遺跡へ入ったのだが……。


「……ここ地図に載ってないよな」


 地図に載っていない下り階段を見つけてしまった。

 びっしりと事細かに書き込まれた地図に空いた僅かな空白を不審に思い少し調べてみたらまさかのドンピシャだ。

 一見壁に見える部分に触れてみるとそこには何もなく、ホログラム映像で隠された奥に階段があった。

 これでは見つからないはずである。


 思いがけない発見に内心ドキドキしながら慎重に階段を下っていくと、ドアノブのないスライド式の扉に行く手を阻まれる。

 見ればカードリーダーのような装置が扉の横にあり、対応する鍵が無ければ入れないようになっているようだ。


「……えいっ!」


 が、ここまで来てすごすご引き下がるのは悔しいので、力技で突破することにした。

 強化鎧のアシストを受けた全力の蹴りを数発お見舞いしてやると、扉はベコベコに拉げて内側へ向かって吹き飛んだ。この手に限る。


 カグナにマナを与えて松明代わりに炎を灯すと真っ暗だった部屋の全体像がぼんやりと浮かび上がった。

 コンソール端末とモニターが並ぶそこはどうやら何かの研究室のようだ。


「ぅわっ!? ……びっくりした」


 ふとコンソールの近くに人影を見た気がしてそちらに視線を向けると、白衣を着た白骨死体が転がっていた。

 白衣の風化具合から死後相当な年月が経っているらしいことがなんとなくわかった。


 一応手を合わせてからポケットの中を調べさせてもらうと金のロケットが入っていた。

 ロケットの蓋を開けるとそこには二人の人物が写った一枚の写真。


「っ! これって……!」


 ドンズさんの隣でウルメルによく似た小柄な銀髪の女性がにこやかに微笑んでいる。

 まさかウルメル本人ではないだろうが他人の空似で片付けるにはあまりにも似すぎていた。

 一瞬、この白骨死体が行方不明のウルメルのお母さんなのかとも思ったが骨格が大柄なので別人だろう。でもそれならどうしてこんなところに。

 彼女が行方不明になったのは十四年前の話だ。誰にも開けられた形跡の無い遺跡の奥にあった古い白骨死体が彼女のロケットを持っているのはどう考えても辻褄が合わない。


 考えたところで答えが出るはずもなく、俺は他にヒントがないか部屋の中を探すことにした。

 コンソールのスイッチを適当に押していくと画面の一つが点灯し、空中にキーボードがホログラムで投影される。



 PASSWORD

 [    ]



 おかしい。いや、パスワードを要求してくるのは別におかしくないが、問題はそこじゃない。

 どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 謎が深まるばかりで頭がパンクしそうだ。

 先程拾ったロケットに何かヒントが隠されていないかとよく観察すると、あった。

 蓋の裏に細かく刻まれた八桁の数字を入力してみる。



 PASSWORD

 [20330413]OK



 数秒とかからずウィンドウズOSのデスクトップ画面が立ち上がる。

 もうツッコまないぞ。

 デスクトップ上にポツンと放置されたショートカットを開くと、画像ファイルが出てきた。

 少し怖かったが好奇心に負けて再生ボタンを押す。


 日付は西暦2033年4月13日。

 衛星カメラで撮影された地球の映像だ。

 温暖化の影響か地表の緑が今よりも少ないように感じる。北極の氷もかなり小さくなっていた。


 と、次の瞬間。

 画面の端から飛来した隕石が南極に落下し一瞬映像が乱れた。


 映像が早送りになり、隕石の落下地点から萌芽した双葉がぐんぐん大きくなり南極を覆い尽くすほどの巨木へ成長していく。

 それに伴い大陸も大きく形を変えてゆき、西暦2051年6月9日を最後に映像が切り替わる。今度は各国のニュース映像をまとめたものだった。


 南極への隕石落下、海水面の大幅な上昇と異常気象、南極に萌芽した巨大な双葉、異世界との接続、大陸変形による各地の混乱と戦争、新国家の樹立。


 再び映像が切り替わる。

 今度は白衣の女性のみを映した録画映像だ。

 銀髪で童顔の小柄な女性。ウルメルが大人になったらまさにこんな感じだろう。


『未来、あるいは過去へ飛ばされた誰かに届くと信じてこの映像をここに残します。西暦2033年4月13日、あるいは神暦5693年龍の月5日、あの日を境に世界はおかしな方向へ変わってしまった』


『本来交わるはずのない二つの世界が結合したことで時空間は乱れ、過去、未来、そして現在、それぞれの時代にあるべき人々が両世界の別の時代へ移動したことで歴史も大きく変わりつつある。なんとしても元凶を突き止めて食い止めなければ人類の歴史そのものが破壊されかねない』


『この大異変について調べていく内、私は何者かの意思が介在していることを確信しました。この異変は誰かの手によって仕組まれたものです』


『どうかこの映像を見ているあなたに頼みます。元凶を突き止め、世界を救って。私に残された時間はごく僅か。もうすぐまた別の時代へ飛ばされてしまうでしょう。賢者の塔に隠した私の研究データのパスワードを伝えます。どうか役立ててください』


 パスワードは122150517。

 地図の裏にしっかりとメモを残す。奇しくも俺の目的地と重なったのは果たして偶然か。


『最後に。……ごめんねウルメル。幼いあなたと夫をあの時代へ置いてきてしまったことだけが私の心残り。でも約束する。私は必ずあなたたちのもとへ帰るわ。どんな時代に飛ばされようとも、必ず────────』


 ふっ、と。画面の中から女性が消失し映像はそこで終わった。別の時代へ飛ばされたのだろう。

 やっぱり今の人はウルメルのお母さんだったのか。思いがけず重大なヒントを得てしまった。


 彼女はやはり遠い過去の時代へ飛ばされたらしい。

 この白衣の白骨死体は恐らく彼女の研究仲間かなにかだったのだろう。

 そして残された時間が僅かなことを悟った彼女からパスワードが記されたロケットを預かり、今の時代まで守り続けたのだ。


「……俺にどうしろってんだよ」


 俺に世界を救えと? 無茶言うな。

 英雄でもなんでもないただの高校生のガキになんてものを背負わせるんだ。

 最初に師匠と出会ってなければ竜に食われて死んでいた。俺なんてその程度のモブでしかないのに。

 するとそんな俺を叱咤するかのように右のガントレットに格納されたカグナが熱を帯びた。

 痛いくらいのその熱が俺の心を覆っていた不安をかき消し勇気を与えてくれる。


「すまん、少し弱気になった」


 この世界に飛ばされ、師匠に命を救われた。

 彼女からは知識と技術、それ以外にも多くのモノを貰い、免許皆伝の証としてこのカグナを授かったのだ。

 師匠が認めた俺を俺自身が否定したら、師匠の想いまで否定してしまうことになる。それだけは絶対にダメだ。


 いつまでもガキのままでいられるか。世話になったみんなへの恩返しだってまだ済んだとは思ってない。

 元の世界へ帰るためには神を殺す必要があると黒衣の男は言った。

 もしそれが世界を救うことに繋がるのなら、神でもなんでも殺してやる。


「ウルメルを連れてまた来ます」


 横たわる骸に再び手を合わせ、俺は地上へと帰還した。

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