13 狂ガーディアン
どこか地下鉄の構内を思わせる作りの遺跡を地図を頼りにしばらく進むと、浸水した通路の奥に魔物を見つけた。
数は十匹。
巨大な巻貝から紫色の触手がたっぷりとはみ出たグロテスクな見た目で、湿った粘液の音をぐちゅぐちゅと響かせこちらを威嚇している。
アレは確かネロデグマだったか。腐食性の毒粘液を帯びた危険な魔物だ。
直後、ネロデグマたちは触手を大きく収縮させ、見た目からは想像もつかないほどの俊敏で一斉に足を広げて飛びかかってきた。
アクセルを回し降り注ぐネロデグマの間を縫うように駆け抜け、すれ違いざまに小指のギミックを作動させ小手に格納されていた炎獄剣カグナの刃を起こしマナを込める。
俺のマナを受け取った刀身は灼熱を帯び紅蓮の軌跡を描き、炎に触れたネロデグマたちの身体が激しく燃え上がった。
ギィギィと耳障りな断末魔はやがて炎と共に小さくなり、真っ黒に焼け焦げた触手と分厚い巻貝だけが残った。
「焦げちゃったね……」
「いや、こいつらはこれでいいんだよ」
毒粘液は腐食性が強く危険だが可燃性も高いため燃やせば割とあっさり死ぬし毒も消える。
強化鎧のパワーに任せて巻貝から焦げた触手を引きずり出すと、デロデロに溶けた内臓と一緒に七色に輝く拳大の玉がコロンと転がり出てきた。
うげっ、ひどい臭いだ。
「きれい……。けどすごくくさいっ!」
「ネロデグマの真珠だよ。魔法の触媒になるし宝石としての価値もあるから売れば結構な値段になるらしいよ」
「へぇー、こんなくっさいのが」
ちなみに殻も魔法への強い耐性があり磨けば虹色に輝くのでこちらも高く売れる。臭くてキモくて危険だが倒す手段さえあれば稼ぎ的にはおいしい魔物なのだ。
ひとまず他の個体も同様に殻から引き抜き、巻貝と真珠を水で洗って綺麗にし、触手はカグナで完全に焼却した。
それから遺跡の巡回を再開し何度か魔物と遭遇しては討伐、四苦八苦しながらも売れる部位を回収し帰路についたその合間のこと。
「逃げろ逃げろ逃げろ! 下から狂ガーディアンが上がってくるぞ!」
下層から上がってきた冒険者の誰かがそんなことを叫んで入り口のほうへ走り去っていく。
すると下層へ続くトンネルの奥から鋭く路面を蹴るタイヤの摩擦音と共に不気味な歌声が響いてきた。
「♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
理解不能な言語で紡がれる音の連なりに精神がざわついた。
まずい。何が? うまく言えないけどなんとなくヤバいことだけはわかる!
「防御ッ!」
ウルメルが座席のシャッターを閉め、ピコがその身を殻に押し込めた直後、歌声の主がその全貌を顕わにし回転式の銃口が鋼鉄の牙を吐き出した。
とっさにピコの殻の裏に車体ごと滑り込むと法螺貝のような銃声が止み、怪物が首を傾げる。
それの姿を一言で表すなら機械仕掛けの蜘蛛だろうか。
つるりと滑らかな金属のボディーに計八本の手足。
多眼のカメラがギュルギュル回る丸顔からは回転式の銃身がストローのように伸びており、背中には身体の何倍もある長大な砲身を背負っている。
と、多脚の先端がぐにゃりと変形し、巨体がアンカーで地面に固定され砲口の照準がこちらを向く。
まさか!?
「────飛剣【首刈鳥】」
背中の砲が火を噴こうとしたまさにその瞬間、二枚の円形の刃が飛燕のように宙を閃き、直後輪切りにされた砲身がバラバラに弾け飛んだ。
轟砲。砲身を失い制御を失った砲弾は俺たちの頭上をかすめ爆発。遺跡の天井の一部を崩落させた。
「大丈夫かい!?」
中性的な美貌の戦士が狂ガーディアンが出てきたトンネルの奥から早馬のような速さで駆けてきて、俺たちを守るように狂ガーディアンの前に立ちはだかる。
「フェイさん!」
「狂ガーディアンが上層に上がったと聞いて急いで戻ってきたんだ。君は早く逃げろ!」
「ありがとうございます! 行くぞピコ!」
フェイさんに礼を言い、ピコの殻を叩いてこの場を離れるように指示を出す。
と、次の瞬間────。
「〇△××♪!!!!」
耳を聾するほどの絶叫。
機械蜘蛛の歌が穏やかな曲調から怒りを現したかのような激しいものへと変化し、小型の機械蜘蛛たちが続々とトンネルの奥から雪崩れ込んできてあっという間に俺たちは取り囲まれてしまった。
「……ごめん、どうやらボクたちを逃がしてくれる気はないらしい」
「俺が小型を片付けます。フェイさんはデカいのを」
「承知した」
宙を駆けていた円形の刃が持ち主の手元へふわりと帰還し、輝く二枚の刃を構えてフェイさんが頷く。
「来るぞッ!」
機銃掃射を皮切りに俺たちは左右へ別れて動き出した。
白熱する一対のブレードをハサミのように開いて飛び掛って来る小型機の攻撃を稲妻のような切り返しで躱し、ホイールにカグナの炎を纏わせて熱波で焼き焦がしていく。
すると敵は数にものを言わせ溶けた仲間の残骸を踏み越えて俺を覆い潰すように全方位から飛び掛かってきた。
俺は重心を右へ預けハンドルを重心と反対側へ大きく切りながらアクセルを強く回す。
すると慣性に引っ張られた車体が大きくドリフトターンを決め、ホイールに宿っていた炎が巨大な旋風となって小型機たちをまとめて吹き飛ばした。
「ぶももっ!」
全身の毛を逆立てたピコが触手からビームを出して周囲を薙ぎ払えば、小型機が次々と誘爆して吹き飛んでいく。
が、それでもなお数の減らない小型機は仲間の犠牲から学習してピコの死角に回り込むように立ち回り始めた。
「そうはさせないよ!」
ピコの殻から針のようなものが全方位に向かって飛び出した次の瞬間、針から放射された電撃が辺り一帯を駆け抜け、電撃に貫かれた小型機が煙を噴いて一斉に動きを止めた。なにあれすごい!?
「ふふん。秘密兵器『電々バリバリ』の威力を見たかー!」
どうやら今のがウルメルが言っていた秘密兵器だったようだ。
ネーミングセンスはともかくとして凄まじい威力だ。
「どうやらそっちも片付いたようだね」
フェイさんの声に振り向けば手足を根本から切断され動けなくなった狂ガーディアンの頭に剣を突き刺しトドメを刺したところだった。
「君たちも中々やるみたいだね。おかげで狂ガーディアンだけに集中できたよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ助けていただきありがとうございました」
「ひとまずギルドへ報告しよう。コイツの片付けも依頼しないと」
どうにか危機を乗り越え、俺たちはひとまずギルドへ戻ることにしたのだが……。
「あっ!? タイヤが!?」
無理な方法で戦ったせいか前後のタイヤが炎の熱で溶けて変形してしまっていた。
これじゃもうまともに走れない、どうしよう。
「うーん。これとこれ、あっこれも使えそう! すごいや宝の山だよこれ!」
ピコから飛び降りたウルメルが狂ガーディアンの残骸を調べて目を輝かせる。
「ねぇねぇ、この残骸少し貰ってもいいかな!?」
「それなら遺跡の外にガーディアンの廃棄場があるからそこから好きなだけ持っていけばいいよ。けど、こんなもの何に使うんだい?」
鼻息荒く尋ねたウルメルにフェイさんが聞き返すと、ウルメルはにまりと笑ってこう答えた。
「それはできてからのお楽しみ!」




