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11 嵐を越えて

 極度の緊張から解放されて丸一日泥のように眠り、明けて翌日。

 マッド兄貴たちと一緒にギルド支部長に呼び出された俺はキオルの冒険者ギルドを訪れていた。


「今回はよくやってくれたね。町の皆を代表してお礼を言わせてくれ。ありがとう」


 人の良い笑みで俺たちにお礼を言うのはキオルギルドの支部長だ。

 痩せこけたメガネの中年男性で普段の苦労が頭皮に現れていた。


「礼には及ばねぇよ。この町はもう俺の庭みてぇなもんだ。で、報酬の件だが」


「そこは後出しになるけどギルドからの緊急依頼ということにして、規定額の報酬にそれぞれが持ち込んだコルカンタ素材の売却額を上乗せして支払うよ。無論君たちの活躍はこちらも把握しているしその分の色はつけさせてもらう」


「それなら文句はねぇな」


「それと国からも報奨金と勲章が出たから今日はそれを渡すために君たちを呼んだんだ」


 支部長から手渡された華美な装飾の施された金属製の平べったい箱を開けてみると一万ベル札の束と淡く青色に輝く翼の勲章が入っていた。

 いいなこれ、カッコイイ。


「にーしーろーはー……おおすげぇ! 一〇〇万も入ってやがる!」


「やったな兄ちゃん! しばらく遊べるぜ!」


「ああそれと今回の件でハヤト君は五級から四級に昇格したから後で受付でタグの更新をしておいてくれ」


「え、いきなり昇級ですか!?」


「僕は三級に上げても問題ないと思ってるけどね。流石に経験不足だろうってことで今後いくつか依頼を達成したら試験免除で自動的に三級へ昇格できる形にしておいたよ」


「ありがとうございます」


 これでギルドが指定する四級危険区域にも自由に入れるようになったわけだ。

 行くかどうかはともかくとして行動範囲が広がったのはいいことだろう。


「緊急依頼の報酬はカウンターで受け取っていってくれ。じゃあ用事はこれで終わりだから。呼び出してすまなかったね」


「いいってことよ! じゃあな支部長、また今度飲もうぜ!」


 支部長に一礼して部屋を出た俺はカウンターで依頼報酬を受け取り、ついでにタグの更新も済ませてその足で宿屋の食道へ向かう。


「奢るって約束したからな。お前のおかげで懐もホカホカだし遠慮せず食えよ」


「はい!」


「そういや連れの嬢ちゃんはどうしたんだ?」


 マックスが辺りをキョロキョロ探すもそこにウルメルの姿はない。


「今町の工房を借りて俺のバイクを改造中みたいです」


 朝起きたら部屋に書置きがありギルドへ来る前に少し様子を見に行ったのだが、作業に集中しすぎて俺の呼びかけも聞こえていないようだったのでそのまま置いてきた。


「そうか。じゃあ後で土産に飯でも持っていってやれや」


「そうします」


 それからマッド兄貴にたらふく飯を奢ってもらい、宿屋のオヤジに言って特別にバケットに詰めてもらった軽食セットを持って工房を訪ねた。

 すると丁度作業が一段落したのか、顔を上げたウルメルと視線が交わる。


「あ、ハヤト! 丁度いいところに。ねぇねぇこれ着てみてよ!」


 と、ウルメルが俺に押し付けてきたのはモスグリーンのボディアーマーだ。


「これは?」


「コルカンタの甲殻素材で作ってみたの。ね、早く早く! きっと驚くよ!」


 言われるまま俺はボディアーマー、ガントレッド、レギンス、ブーツ、ヘルムの順番で装着していく。

 用意された姿見に映る自分はどこからどう見てもニチアサヒーローだった。


「すごい軽いな。何も着てないみたいだ」


「それだけじゃないよ。コルカンタの筋肉が全身の動きを補助して何倍にも高めてくれるように設計したからね!」


「え、これパワードスーツなの!?」


 工房の裏手に回り、木の策で囲われただけの狭い庭にポツンと立てられた試し切り用の丸太に向かって軽くパンチしてみる。


「……マジか」


 一撃粉砕。

 軽いジャブで丸太が粉々になった。とんでもないパワーだ。


「ったく、こんなすげぇ鎧をたった一晩で作っちまうんだから大したもんだ」


 どこか得意げな顔で鍛冶屋のオヤジがしきりに頷く。

 ねじりハチマキが似合うハゲ頭の厳つい半裸オヤジだ。


「これがありゃ誰でも英雄になれちまうってのに、こっちはあくまでオマケだとよ。天才ってのはいるもんだな」


「え、これがオマケ!?」


 これだけでも十分すごいけど。


「そだよ。そんでもってこっちが本命! さあ刮目して見よ! これがドラゴンセロー改だぁーっ!」


 裏手に停められていた相棒を覆い隠していた布がバサッと取り払われる。

 そこにあったのは前後のサスペンションがコルカンタ素材へ換装され、より生物っぽさが増した俺の相棒。

 バネ状の筋肉がホイールをガッチリと支え、その上からモスグリーンの甲殻が覆う肉厚のフォルム。


「ん? なんか見たことないスイッチがあるけど」


 ウインカーの隣に見慣れぬスイッチが1つ追加されていた。なんだろう。


「ジャンプスイッチだよ」


「……はい?」


「だからジャンプスイッチだってば。なんとこの子は自分から何度でもジャンプできるように生まれ変わったのです! わーぱちぱちぱち!」


「すげぇ!」


 俺はすぐさま相棒に乗りエンジンをかけた。

 ドルン! と竜の心臓に火が宿り、相棒が生まれ変わった喜びを高らかに叫んだ。


 俺がクラッチレバーを離すと相棒がゆっくりと動き出す。

 駆け足程度まで加速したところで俺はスイッチを押した。


「うおっ!?」


 グッと車体が沈み込み、次の瞬間溜めた力が一気に開放されて車体が大きく跳ねた。

 俺の背丈の高さを優に飛び越え一瞬の浮遊感の後車体は何事もなく着地する。


 ほぼ助走無しで二メートルの跳躍。もっと速度が出ているときなら更に高くなるだろう。


 あのとき、一度だけお前は俺を助けようとスペックの限界を超えて飛んでくれた。

 あの奇跡がなかったら俺は今ここにいないし、お前もこうして生まれ変われなかっただろう。


 これからもよろしくな、相棒。


「どう? 使ってみた感想は」


「うん。着地の衝撃も殆ど感じなかったしいいと思う。ただパンクだけがちょっと心配かな」


「やっぱそこだよね。そればっかりはいい素材が手に入らないとどうにもならないしなー」


 そこは今後の課題だな。

 賢者の塔までまだまだ距離があるしいい素材がないか道中探してみるのもアリだろう。


 と、ここでウルメルのお腹の虫が『きゅう』と鳴いた。


「あはは、昨日から何も食べてないからお腹空いちゃった」


「そんなことだろうと思ったから宿屋のオヤジさんに軽食作ってもらって持ってきたよ」


「さっすが!」


 結局持ってきた分だけでは足りず宿屋に戻ってかなりの量をぺろりと平らげたウルメルは、疲れたのかそのまま寝ると言ってまる一日ぐっすり眠り込んだ。


 その間に俺は出発の準備を進めつつコルカンタに荒らされた街道の整備や町の人たちの雑用を手伝ったりと忙しなく働き回り、ウルメルが起きた翌々日の朝────。




「じゃあそろそろ行きます」


「おう! 良き旅を!」


「達者でな!」


 俺たちの出発を見送りに来てくれたマッドマックス兄弟と握手を交わす。

 辺りを見渡せばこの町の住人のほぼ全員が見送りに来てくれていた。


「なあ嬢ちゃんよ。本当に強化鎧の設計書貰っちまっていいのか?」


「いいのいいの、工房を貸してくれたお礼だもん」


 申し訳なさそうに訊ねる鍛冶屋のオヤジにウルメルはまるでご近所さんに野菜のおすそ分けでもするかのような気軽さでニコニコ笑い返した。


「わかった。鍛冶場の神に誓ってこの技術は死んでも絶やさねぇ。これは世界を変える技術だ」


「大袈裟だなぁ」


「自覚なしかよ……。おい兄ちゃんよ、この嬢ちゃんから目離すんじゃねぇぞ。ほっといたら世界にとんでもねぇ火種をばら撒きかねん」


「ですね……。気をつけます」


 今回のことで改めて気付かされた。

 ウルメルの才能は天才なんて陳腐な言葉で片付けてしまうにはあまりにも異常だ。

 そのくせ本人は無邪気な子供そのものだから放っておいたら悪い大人に利用されかねない。

 俺が気を配って守ってやらないと。ここにドンズさんはいないのだから。


「じゃ、皆さんお世話になりました! 行くよウルメル!」


「あ、待ってよハヤトー! みんなまたねー!」


「「「また来いよー!」」」


 見送りに来た人たちの視線を振り切るように俺はアクセルを回し荒野へ駆け出す。

 かくして町の危機を救った俺たちはキオルを出発したのだった。

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