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第9話

「お前は一体誰に仕えているんだ?」

 王子の執務室で、俺だけが真ん中に立たされ、わかりやすく言うと説教を王子から直々に受けていた。

「それはもちろん。あなたに」

「ほぅ」

 王子の声は意外と低かった。

 これは、案外機嫌を損ねたか?俺から見たら遥かに年下の王子なんだが、今この世界においては俺の方が年下に、見た目上はなってはいるし、身分も天と地ほどの差があるわけで、あまり機嫌を損ねすぎるとガチでクビが飛ぶかもしれないよな。

「あなたの大切な妹君をお部屋までお送り至りましたが?」

「俺の大切な?」

「ええ、大切な妹君、デリータ王女ですよ」

 俺が満面の笑顔でこたえると、王子の片眉がぴくりと上がった。周りの先輩たちが息を飲むのが聞こえた。これは、完全に怒らせたか?

「仕えているのは俺だろう?」

「ええ、だからこそ、あなたに代わって大切な妹君をお部屋までお送りした次第ですよ」

 俺はもう一度、念を押すように、ゆっくりと言い直すと、王子の口からは深いため息が出た。

「明日は大切な式典があると聞いていますので、大切な妹君でいらっしゃいますから、早めにおやすみ頂いた方がよろしいかと思いました」

 とどめにここまで言ってやった。さて、どうだ?

「デリータはそこまで子どもではない」

 ほうほう、部屋で休ませるには早すぎると言いたいわけか。そりゃ、俺だって分かってるよ。まだ夕方にもなっていない。

「女性は色々とご準備があるかとおもいましたが?」

「わかった、もういい、下がれ」

 はい、頂きました。

「かしこまりました」

 俺は満面の笑みで王子の執務室をあとにした。

 もちろん、先輩たちは俺をものすごく睨みつけていたけれど。



 式典は、本気で退屈だった。

 爵位を賜る。ということなのだが、俺は王子付きの親衛隊なので、ただ護衛をするだけなのだ。しかも、下っ端なので、めちゃくちゃ扉寄りの場所に立っているだけだ。

 いわゆる休めの体制で立っているので、若干肩がこる。首をコキコキしていたら、隣りにいる同僚に肘でつつかれた。

 どうやら、大人しくしていろ。と言うことのようだ。

 大広間の一段高い場所に玉座があり、そこに王と王妃、その脇に王子と王女が立っている。そのだいぶ手前に賢ばった大臣?が立っていて、何か目録を読み上げていた。

 それに合わせて着飾った貴族が前に出てくる。ちょっとした団体さんなのだが、令嬢に見覚えがあった。アンリエッタだ。

 エトワール子爵が伯爵の爵位を賜ったようだ。

 つまり、アンリエッタがゲームと同じ伯爵令嬢になったのだ。ついにゲームが動き出す。と言うことか。俺は静かに胸が高なった。

 ここからが本格的なゲームの攻略ルートとなる。既に接触している攻略対象たちは、もしかするとフラグが立っている可能性がある。それを回収するか、へし折るか。これからの立ち回り方が俺の人生を左右するわけだ。と、考え込んでいたら、とんでもないものを目にした。

 赤い。

 居並ぶ貴族たちの中に、赤い物体が、いた。

 そのあまりの異質さに、俺は釘付けになった。1度見た、目を離せなくなったのだ。

 赤い縦ロールの髪型。

 赤いドレス。

 赤い手袋。

 赤い靴。

 赤い唇。

 そのあまりの赤に、目が離せなくなっていた。

 何が何だか分からないぐらいに赤い。

「おい」

 隣から肘でつつかれて、ようやく視線がそれた。

「あ、ああ」

 不敬だと言われればそれまでな程に、俺は赤いご令嬢を見続けていた。

 攻略対象だ。

 ゲーム画面で見ていた時は、赤にそれなりのグラデーションがあったため、ここまでケバケ…派手な印象はなかったのだが、こうして現実に赤い縦ロールを見てしまうと、ブラウン管テレビだったら画面の明度が死んでるよな。としか思えないほどに目がやられた。染色技術の問題なんだろうけど。

 赤いご令嬢は、デュルク伯爵令嬢イシス。

 別名レディレッド


 同僚に、注意されたが、俺は再びイシスをガン見してしまった。

 本当は、アンリエッタを見たかったのだけれど、視覚的に赤い縦ロールは強烈だったのだ。

 俺が随分とガン見をしたからだろうか、イシスは俺を怪訝そうな顔で見ていた。だからといって、目が合うとか、そういった事は起こらなかった。なにせ遠い。イシスはあくまで式典に招待された貴族であって、俺はあくまでも王族の護衛だ。大広間のあっちとこっちみたいな距離感だったのだが、俺がイシスをガン見しているのは向こうにバレてたし、俺もイシスが俺に見られているのに気づいている。っていうのをしっかりと感じていた。



 で、当然怒られた。

 またもや王子直々に。

「お前は、誰を護衛しているのだ?」

「もちろん、あなたです」

「式典の最中、ご令嬢を凝視していたそうだな」

「初めて見たものですから」

「仮にも伯爵令嬢だぞ」

 あれ、王子ってば、それとなく見てしまう俺の気持ちを理解しましたね?

「そうなんですか?」

 俺はイシスを知らないふりをした。あくまでも初めて見た赤いご令嬢に驚いた田舎者の体をとった。

「仮にも親衛隊となったのに、そんなことも知らないのか」

 王子は、人差し指でイライラと机を叩いた。その程度のコツコツ音だが、執務室には十分すぎるぐらいよく響いた。

「申し訳ございません」

 俺じゃない。後ろに控えていた名前も知らない先輩が頭を下げた。要するに、新人の俺の教育が行き届いていなかった。ってことなわけだ。

「よく教えておけ」

「承知致しました」

 後ろからやたらと勢いの良い返事が聞こえた。

 と、思ったら、俺は背後からがっちりと羽交い締めにあい、そのまま後ろに引きづられるように執務室から退場させられたのだった。

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