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第30話

 ガタガタ揺れる馬車には、俺とコレットしか客は乗っていない。このまま次の町までは誰も乗ることは無い。御者は前を向いて手綱を握っている。

 おそらく、俺たちのことを恋人同士かなにかかと思ってくれているのか、なにか温かい目で見ていた気がする。

「俺の取り調べにご不満がある。と」

 俺は、勤めて爽やかな笑顔をコレットに向けてみた。

「取り調べたの、あんただったのファル?」

 コレットが恨みがまじぃ目で俺を見る。

「ファルじゃない」

「……シオン、だっけ?」

「そう、今の俺はシオン」

 故郷を出たら、俺はもうファルシオンでは無い。王子に名を賜ったシオンだ。

「なんで、あんたが、取り調べたのよ」

「王女のサロンでの出来事だったから」

 俺がサラッと言うと、コレットは目を見開いた。

「うそ!」

「本当」

 俺がすぐさま肯定すると、コレットは一人でブツブツ言い始めた。そして、なにやら考えるがまとまったのか、

「どうして、王女のサロンの事で私たちが罰を受けなくちゃいけなかったわけ?」

 会話の成り立たない質問が出てきた。

「は?」

 俺は、ものすごく間抜けな声を出した。

 え?コレットって侍女じゃん。給仕もしてるんじゃないのか?ゲームでは、笑顔で王子にお茶を出してきていたぞ。

「何言ってんの!私みたいな平民が王女のサロンに給仕出来るわけないじゃない」

「え?そうなの?」

 実は俺、ゲームの設定しか知らない。




「じゃあ、茶色い髪の侍女って…」

 俺はまくし立てるように話をする(マシンガントークとも言う)コレットを黙って見ていた。そして、ようやく落ち着いてくれた時、一言言えた。

「私ともう一人しかいないんだけど、二人とも平民だから給仕はできないの」

「でも、ミリアは…」

「国教会出身の孤児は王族が身元保証をしてるから」

 言われて納得する。確かそんなことを言っていた。王女の侍女で、国教会の出だから下手な扱いができないとか。

 それは、つまり?

「私ともう一人は、平民だから罪を押し付けられたの」

 牢屋送りにされなかったのは、倒れた令嬢が死ななかったからと、出された物に毒の反応が見つけられなかったから。もしかすると、食器の手入れが悪かったか、ケーキの材料が古かったとか、そんなことが原因の食中毒だったかもしれないけれど、この世界で食中毒を立証はできない。それを探し出したら料理人を罰しなくてはいけなくなるから大事になってしまう。

「犯人探せないから、とりあえずこいつらにしておくかって感じ?」

「そんなとこかな」

「きついなぁ」

「平民の扱いなんてそんなもんよ、要領よくやらなくちゃ」

「あー、俺なんてヘマしたら即死刑になりそー」

 今更ながら頭を抱える。俺、王子付きじゃん。何かあったら俺が最初に切られるんだなぁ。だからゲームでシオンは厳しめのキャラだったのか?

「今更でしょ」

 コレットはそう言うと、軽く鼻で笑った。なんだか年上を気取られたようで腑に落ちない。本当の俺は36歳なのに。

「引退する公爵さまの後妻もキッパリ断ってきたし、私はもうあそこには帰らないわよ」

「へ?」

 本当にあったのか、後妻話。ゲームだとコレットが後妻にならないために、アンリエッタを公爵に近づけさせるとかやっていたのに。それしないの?

「息子より年下の娘を後妻って頭おかしいでしょ?うちの親だって、税金対策で娘を差し出そうとかイカれてる」

「変態だと思われるね」

 俺がそう言うとコレットはまた鼻で笑った。

「だから、私は王都で幸せになるって決めたの。そもそも、口減らしのために追い出したくせに、娘を何だと思ってるのよ」

 コレットの言うことは最もだけど、この世界だと女性の地位はだいぶ低い。平民だと自由結婚できるけど、結婚してない女性は立場が低いもんな。

「で、どうするの?」

「とりあえず、兵舎できっちり働いて、公爵が代替わりしたら紹介状をもって行ってみようと思う」

「なんで?」

「王宮で働き続けたら、また今回みたいな目にあうかもしれないじゃない。だったら新しくて若い公爵の邸で働いた方がいいに決まってる」

「なるほど」

 そーだよなぁ、俺も最初は田舎で兵士をやりたかったもんなぁ。でも、なぜだか王子の親衛隊になって、割とお気楽にやれている。

「で、あんたは随分出世したみたいどけど?」

「一代限りの騎士爵位?無理だね、俺には」

「王子のお気に入りなのに?」

「だからこそ、欲しくない、それこそ陰謀に巻き込まれる以外考えられない」

 そーだよー!俺は破滅したくないんだ。コレットがこういう態度を取るのなら、俺だってにげだす方法を考えなくちゃいけない。

 城にいる限り破滅から逃れられない気がする。

「王子のお気に入りだからこそ、捨て駒にされそーよねぇ」

 コレットが笑いながら言うことは、俺の未来の予言のような気がしてならない。

「笑えねーよ」

「せいぜい気をつけるといいんじゃない?」

 コレットは爽やかに笑ってそういった。

 くそー、俺の破滅エンドは回避されてないじゃないか。

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