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第28話

 柔らかな日差しの中、セシルが本を読んでいた。

 図書館自体は日が当たりにくく出来てはいるけれど、閲覧室は明るく居心地が良くなっている。

 セシルは、サロンに興味がないらしく、他の令嬢たちが馬車に乗って奥まで行くのに対して、随分と手前で馬車をおり、図書館までの道のりを楽しそうに散策しながら歩いてくる。

 だから珍しいブーツを履いているのだろうか?

 そんなことを考えながらセシルを眺めるけれど、声をかけるには至らない。放っておけぱ、あの眼鏡枠攻略対象が声をかけるはずだ。家格がそこそこ釣り合うはずなので、本が好きという共通点からスムーズに話がすすむのだ。俺の大本命セシルちゃんは、平凡に幸せになって欲しい。

 俺は図書館でのフラグについては、放置でいこうと心に決めた。ので、セシルちゃんの姿を心の目に焼き付けて、図書館に足を運ぶのをやめるのだった。

 このままいけぱ、セシルには破滅フラグは立たないからね。



 よくある話だが、ゲームのシナリオ通りに進めようとするとフラグが立たないとか、破滅エンドを回避しようとしても補正が働いて回避したシナリオがやってくるとか、ラノベで読んだことがある。

 そんなわけで、ゲーム通りに進めないことを決めた俺は、ゲームになかった『コレットと里帰り』と言うイベントを発生させてみた。

 そもそも、俺ことシオンとコレットが同郷の幼なじみというのは設定にない。つまり、設定にないということはフラグが立たない、回収でもない。

 俺は、この世界に生きる一人の人間として行動をとる。

 の、だが、

「なんで、あんたがいるのよ?」

 向いに座るコレットがちとおこである。

「里帰り」

「なんで、一緒の馬車なわけ?」

「一日一便しかないからね」

 ふんっ、とコレットに、そっぽを向かれた。田舎に向かう乗合馬車なので、そんなに座り心地は良くないが、大人数が乗れるのでそれなりにお安い。

 俺は、他の人の迷惑にならないように1番後ろに座ったのだけど、最後の最後になぜかコレットが乗り込んできて、俺の向かいに座ることになった。

 なぜ、俺が迷惑にならないように、と言うのかはつまり、俺の服装だ。

 休暇で里帰りを申請したら、なぜか近衛騎士の制服を渡された。つまり、休みでも休みではないらしい。親衛隊の服は白いから、汚れご目立たない近衛騎士の、制服を、着ていけ。って…

 オマケに腰に帯剣しているものだから、一般のお客さんがちらちら見るんだよね、俺の事。

 まぁ、結構距離あるし、街道は人気がないし、盗賊出ないとも限らないから、ついでに護衛なんだよね、きっと。


 途中の町で人が乗り降りして、行商の人っぽいのとかいたり、役人風のが乗ったりして、俺の事を見ると小さく頭を下げてくる。近衛騎士って、だいぶ偉いんだなぁ。って、思っていたらコレットと目が合った。営業スマイルを振舞ったら、そっぽを向かれた。その向こうに座っていた町娘風の女の子は頬を赤らめてくれたのに。

 アリトス領に入った頃にはもう夕方で、町外れに入った時には日が暮れていた。

 辻馬車が入ると、門番が直ぐに門を閉めてしまった。

 野犬とかいるし、犯罪者が入ってきたら困るもんなぁ、俺は一応近衛騎士の服は着てるけど、戦うのはやだなぁ、ってやっぱり思ってしまう。

 馬車をおりて、門番に「お疲れ様です」って、声をかけたらやたらと、恐縮されてしまった。

「送るよ」

 夜道は危ないから、コレットにそう声をかけた。

「へ、平気よ」

 コレットは直ぐに断ってきたけれど、年頃の女の子なんだから素直になればいいのに。

「領主の娘よ?」

「領主の娘だからでしょ」

 コレットは分かっていない。王都に行って垢抜けた自分が町娘より随分と、綺麗なことを。

「好きにして」

 俺がコレットの、荷物を取り上げると観念してくれて素直に隣を歩いてくれた。

「それなりに賑わってるよな」

「織物は何とかなってるからでしょ」

 小麦の採れが悪かった分、織物をなんとかしているようで、今頃仕事上がりの娘たちにやたらと見つめられるのが居心地悪い。

「愛想振りまけばいいのに」

「生憎手がふさがっている」

 俺がそう言うと、コレットは俺を睨みつけ、荷物を取り返そうとする。

「無駄なことしないで、早く歩けよ」

 俺はコレットに、荷物を取られないように大股で歩き出した。コレット家は一番デカいあの、家。俺の家は織物工場の近く。

 コレットの家まで着くと、ドアを叩く前に家の中から家族が出てきた。中から見ていたらしい。コレットとの再開に喜んで抱きつく家族をみて、俺はそのまま立ち去った。別に、挨拶なんて明日でもいい。

 実家に近づくにつれて、工場で、仕事を終えた人たちにやたらと絡まれる。

 最初は近衛騎士の俺に驚き、明かりで顔を確認すると嬉しそうにハグをしてくる。

 そんなことをしながら、家に着くと明かりがついていて美味しそうな匂いがした。

「ただいま」

 そう言うと、家族が出迎えてくれた。この世界の家族。享年36歳の俺としては、やり直しというか、何ともむず痒い。

 何年かぶりに寝た自分のベッドは、足がはみ出るぐらいに小さくなっていた。

 軍の学校でよく体を動かしたから、相応育ってしまったようだ。道理で記憶にある家族の顔と角度が違うと思ったんだよね。みんなに見上げられていたわけだ。

 明日はゆっくり家族と、会話ができるといいな。そんなことをら考えているうちに深い眠りについた。

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