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第10話

 そんなわけで俺は、貴族名鑑なるものを読まされていた。

 ご丁寧に写真がついた豪華なものだった。写真の技術と印刷の技術があるようで、貴族名鑑は五年ごとに発行されているらしい。貴族たちは、この名鑑に写真を載せるのがステータスらしく、名鑑の編集される時期が来ると、頼んでもいないのに自分を含めた家族写真を持参してくれるそうだ。

 しかしながら、この貴族名鑑、基本はその爵位を持っている人物が主となって編集されてるので、その子どもたちともなるも、なかなか写真が載っていなかったりする。

 王子の親衛隊なので、それなりの貴族たちの顔と名前と爵位を覚えろと、俺は朝からお勉強を、させられている。



「真面目に覚えてるんだろうな?」

 先輩は、時々俺を睨みながら王宮の中を歩いていた。実践訓練と言うことで、文官たちの職場を覗き見、ではなく現地調査をさせてくれたのだ。

 それなりの貴族は、それなりの要職についている。というわけである。

 そうやって王宮の中を歩き回り、不審者のチェックと空き部屋などの確認をさせられた。

 全ては有事に備えてである。なにせ、俺は王子のための親衛隊なのだ。

 こうやって親衛隊が王宮内を闊歩するのも抑止力になるらしい。見張ってますよ。ってやつだな。

 横領とかには効かないと思うけどね。

「イシス嬢のことだが」

 歩きながら突然話題をふられた。

「はい」

 今説教か?

「普段はあの髪型じゃないんだよ」

「へ?」

「式典とか、夜会とか、そういったときだけああの髪型なんだ」

「意味が分かりません」

「本当は、黒髪なんだ」

「ーーーーー」

 俺は絶句した。そんなの設定に書かれてなかったぞ。黒髪?

「サロンに来る時は、カツラをかぶってないからな、分からないのも無理はない。だから、顔を覚えろ」

 基本中の基本を教えられた。つーか、攻略サイトの編集として、なんちゅうやらかしをしたことか。キャラの顔を覚えていないなんて。

 まぁ、そんなこと言っても、俺はイシスよりアンリエッタ派なんだけどね。

 でも、黒髪イシスは、すげー気になる。

「右翼棟に行くぞ」

 俺の心中を察してか、場所を変えてくれるらしい。



「ホントだ」

 俺は黒髪の、イシスを見た。

 癖のない真っ直ぐな黒髪は、驚く程にきれいだった。俺が日本人だったことを加味しても、こんなに綺麗な黒髪だったのなら、それだけで好感度アップという物だ。

「見たことあるわ」

 思わず口にしてしまった。

「お見かけした。だ」

 先輩に、頭を小突かれた。

「はい」

 ちょっぴり涙目になったけど、こんな感じ、社会人1年生の頃にあったよな。とかちょっとだけ感慨にふけってしまった。

 改めて見ると、貴族のご令嬢たちは、なかなかに個性的である。昼間のサロンに来ているので、露出は抑えられたドレスを着ていて、髪型も控えめ、それでいながらしっかりと個性をしゅちょうしているのだからか、お世話をしているメイドさんたちは大したものである。

 これだけの人数が出入りしているのに、ドレスが被らないのが、不思議なほどだ。

「ドレスって、オーダーメイドなんですかね?」

 俺は素朴な疑問をぶつけてみた。

「ああ、そんなことが出来るのは伯爵以上で、要職にでもついてないと難しいんじゃないか?夜会用ならするだろうけどな」

「夜会用?」

「知らんのか?昼間に着ているドレスは露出をおさえている。逆に夜会用のは体のラインを出したり、肌の露出を多くしたりしているんだよ。だから、夜会用の方はオーダーメイドするしかない」

 なるほど、昼間のドレスは既製品だけど、買う店が被らなければ問題ないわけだ。同じデザインでも、記事が違うとか、そういうことになるわけか。

「王宮のサロンに出入りできるのは、一種のステータスだからな」

 なるほど、それなりのモン持ってる貴族の婦女子が来るから、既製品率は低い、お抱えのお店があるから店側も作る時に先にオーダーの入ったご令嬢と被らないようにオーダーを誘導するってことか。

 で、もって、あのレディレッドことイシスと被らないように赤は避けられている。ってことか。

「赤はイシス嬢の一人勝ちってことか」

「その言い方はなんだが、否定はしないぞ」

 昼間のサロンに来る時は、あの赤い縦ロールのカツラを被ってはいないけれど、ドレスは赤かった。どぎつい赤ではなく、柔らかな赤。

 それでも赤いことには変わりないけど。

 人の顔を凝視しないように、それでいながら確実に覚えるためりと言うのはなかなかに大変な事だった。政治家の秘書もこんな感じなのだろうか?

 先輩に連れられながら歩いているので、名鑑に名前のない令嬢まで教えられて覚えるのに苦労した。

 きっと、明日になれば半分は忘れているだろう。

「止まれ」

 先輩に制止されて俺は慌ててたちどまる。

 一番奥の広いサロン。一面がガラス張りで温室のような作りになっている。その部屋からはやや年の言ったご婦人方の笑い声がした。

「王妃様のサロンだ」

 入口に警備が二人立っている時点で、他のサロンとは違っていた。外から見える範囲に騎士が一人たっているのが見えた。

 攻略対象だ。

 すぐにわかった。眉目秀麗なその凛とした美しいその姿。男装の麗人、マリーだ。

 王妃の護衛をしているので、騎士のすがたをしているが、女性だ。式典の時には気が付かなかった(イシスを見すぎていたため)が、攻略対象の女性キャラの中ではダントツに美しい。もちろん、モブのご令嬢たちからもダントツの人気である。王妃に付き添っているため、滅多に見られないレアキャラであることは確かなのだけれど。

「見すぎるな」

 釘を刺されたのですぐにやめた。イシスと違って、王妃のお抱えの騎士だ。何かあったら王妃に対しても不敬だと言われて切られる可能性は高い。

 キャラ設定に、子爵令嬢とか書かれていた気がするのだが、家名まではなかった。

 基本は後宮にいるので、レアキャラで攻略難易度がめちゃくちゃ高かった。コレットルートなら、絶対に狙いたい相手だ。何しろ後宮に入れるようになるからな。そこからマリーを踏み台にしてのメリーエンドを手に入れるんだよな。たしか…

 マリーが、破滅エンドにならないので、平和といえば平和なんだが、なぁ。

 ゲームとは違う。

 やり直しの効かない一発勝負だ。誰を攻略するのか、じっくりと考える必要があった。

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