養子
城から戻ったマクギニスは、急いで妻を呼んだ。妻は、今までの労をねぎらおうと豪華な食事を準備していた。マクギニスの好きな根菜たっぷりのシチューも並んでいた。
「お疲れ様です。あなた。」
「おお、とんでもないものを王から頂いた。」
「何ですか?いったい。」
「びっくりするなよ。」
手で合図を送ると、一緒に付いてきた侍女が赤ん坊を連れて入ってきた。元気な泣き声が部屋を明るくした。妻は、驚いて目を丸くした。
「この子は?」
「今日から我々の息子だ」
一瞬、戸惑ったがその男の子元気そうな泣き声で、母性が刺激された。侍女から赤ん坊を受け取るとあやしはじめた。
「まあ、なんて可愛いのでしょう。まさか、王様からの贈り物は、この子ですか?」
「ああ、そうなんだ。城で働いていた侍女が亡くなり、この子が残されたそうだ。うちに子供がいないことを王が知っていて、養子にと。迷惑だったかい?」
「いいえ、この歳になって、子供を持てるなんて。」
赤ちゃんが急に笑い出した。赤ちゃんの笑顔は、みんなを幸せにした。子供が出来ないことを負い目に感じていた妻のリズにとっても、王からの幸せな贈り物を心から喜んだ。
「ところで、名前はなんとつけますか。」
「そうだな、どうする。」
「亡くなった伯父の名前をいただいたらどうですか?」
「エルナンド伯父さん。優秀な人だったな。よし、今日からお前は、エルナンドだ。」
リズより赤ん坊を受け取り、エルナンドを腕の中に抱いた。さすがの隊長も、こればかりは、何度抱いても、ぎこちなかった。
近衛隊長の任を解かれると、マクギニス夫妻と赤ん坊は、王よりいただいた領地を目指した。前の領主は、独身で子がなく、やむなく直轄地になっていた場所だった。自然豊かな場所ではあるが、鉱山等はなく、作業機械が活躍するような土地ではなかった。
隣の領地は、大きな鉱山があり、いつも賑わっているのに比べると寂しいものだ。直轄地の間は、中央から役人が来ていたが、ここに派遣される役人にとっては、閑職でしかなかった。
小さな湖のほとりに、城があった。城と呼びには小さく、館と呼ぶ方がふさわしい。古い館ではあるが補修されていて、茶色の壁面は、新たな領主を迎えるにあたり、塗り直されていた。
王より贈り物として、近衛隊長時代の愛機が贈られた。前の領主が持っていた騎士もあるので、この土地に二台の騎士存在することになった。思い入れのある騎士なので、嬉しかったが、この田舎では、むしろ農作業をするのに馬や牛でも、もらった方が有益にも感じられた。
長旅を終えて、エルナンドは疲れているかと思ったが、一向に疲れをみせなかった。
「きっと、大物になるな、お前は。」
マクギニスは、赤ん坊の黒い髪を撫でながら、そっと呟いた。