二人の赤ん坊
あの宇宙からの使者が来てから、百年が過ぎようとしていた。あれから、騎士により国王の権力は、絶対的なものになった。反対する勢力は一掃された。作業機械によって、資源の掘削事業も順調だった。資源は、宇宙の民に上納された。
アイアイエには、ひと時の平和が、訪れていた。現国王は、アーサー。勇猛な王である反面、治世にも尽力して、歴代の国王の中でも、群を抜いて人気があった。ただし、唯一の問題は、世継ぎだった。ただ、この問題も解決するはずだった。
運命というのは、皮肉なものである。同じ日に、生命を受けた二人の赤ん坊。
一人は、国民が彼の誕生に歓喜した。もう一人は、暗い暗い城の地下でこっそりとその生涯がはじまった。
しかも、父は同じ。父の名は、アーサーだった。
王妃との間に生まれた子は、その将来が約束されていた。明るい部屋で多くのお付きの人々に囲まれ祝福を受けている。
王妃との間には、子供がずっとできなかった。二十歳で嫁いでから、15年。それでも、その美貌は、健在であった。透き通るような白い肌。綺麗な金髪。整った顔は、誰もうっとりした。
しかし、世継ぎが出来ないのは、大問題だった。心配した侍従達が、妾を持つことを望んだ。妾として、王の世話係をしていた侍女が選ばれた。その娘は、気立てもよく、王妃には敵わないがなかなかの器量であった。
その侍女を、王も気に入っていたが、なかなか一線を越えるには、決心がつかなかった。
ある激しい雷のなった晩に、ついに意を決した王は、侍女を呼んだ。
しばらくして、侍女が身ごもったことがわかり、侍従達は大喜びをしていると、さらに驚きの知らせが城の中を駆け巡った。
「王妃様、ご懐妊」
侍従達は、声もなかった。その知らせの後から、その侍女の待遇は日に日に悪くなっていった。そして、城の地下で子供を産むことになった。侍女の父親が、王であることを知るものは、ごくわずかしかいなかった。
その侍女は、産後、体調を崩し、ついに我が子を自分の腕の中に抱くことなく一生を終えた。
皇太子は、リチャードと名付けられた。ただ、心配なことは、病弱なことだった。彼の子供時代は、多くをベッドの上で過ごすことになった。王妃から受け継いだ美貌のお陰で、美男子であり、チヤホヤされる対象だった。ただ、王のような荒々しい強さはなりを潜めた感じだった。
母を亡くしたもう一人の王の血を引いた男児は、健康そのものだった。ただ、彼を誰が育てるのか、お城の奥では、思案を重ねられていた。
白羽の矢が立ったのは、近衛隊長のマクギニスだった。
ある日、王より呼び出された近衛隊長は、いつもより念入りに支度を整えて、御前に現れた。もうすぐ、近衛隊長の任から解放されるので、労いの言葉をいただくものだとばかり思っていた。近衛隊長の任期は、4年と決まっていた。事故や事件がない限り、このルールは守られた。
予定通り、王からは、労いの言葉をいただいた。
「ところで、マクギニス。お前のところには、子供がいないそうではないか。」
「はい、子宝に恵まれず、妻と二人暮しです。」
「実は、先日、この王宮で働く侍女に赤ん坊が産まれたのだが、産後の肥立ちが悪く、亡くなってしまった。どうだろう、その子を養子にする気持ちはないか?」
「確かに、養子については、考えてたことがありますが・・・」
マクギニスは、迷いがあった。
「ところで、赤子の父親は・・・」
そう言いかけた時、お付きの一人が咳払いをした。その咳払いで、マクギニスは、何となく状況を感じ取った。少し思案したが、心を決めた。
「わかりました。養子の件お受けいたします。」
「そうか、近衛隊長を辞した後、次は決まっているのか?」
「まだ、決まっていません。」
下級貴族出身の近衛隊長の場合は、この職はある意味、ゴールだった。名門での貴族にとっては、通過点にしかならない。マクギニスは、下級貴族の出身であったが、まだ、60歳には、もう少し間があった。望めば次の役職にもつける可能性はあった。
「何か望みはないか、マクギニス」
少し悩んで、答えた。
「それでは、少しばかりの土地を頂き、静かに余生を過ごしたいと思います。」
「意外と欲がないな。お前ならどんな役でも務まるだろうに。あい、わかった。新しい領地については、追って沙汰を出す。」
王の話が終わると、侍女の一人が赤ちゃんを抱いてやってきた。まだ、赤ん坊というのに、凛とした顔をしていた。侍女から赤ん坊を渡されたマクギニスは、おどおどしていた。さらに、腕の中で大泣きをはじめるとマクギニスの顔は困り顔になった。戦場では、あんなに勇敢な男が、大弱りである。
赤ん坊は、新しい父母を得て新しい人生を歩み出した。その生い立ちは隠されたまま。