逆転の男
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逆転の男
2ヶ月がたった。まだやめたものは一人もいない。無断欠勤などはしないだろう。
私は学力などは求めていないのかもしれない。実際、高校卒業でもここには入れるのだ
かくいう私も高卒だ。
それでも面接の時点でそんなやつがうちにくるはずがない。
書き間違いとでもとらえられているのだろうか。
最悪、光るものがあればホームレスでもいい。才能などいつ光りだすのか本人が一番わかってないのだから
しかし、それではナンセンスなのだ。
企画書というものをどう捕らえるのかはいまいちわからないが、目立つほうがいい。
発想など固定しないほうがいい。
『しかし、字が汚いな…』
ここまでくれば速記を読む能力が問われると思うが
大筋でそのものの言うことが一番理解できる
これは、先読みにしても大胆なほうだろう
いろいろ気になる事があったが、そういう時は私が動かなくてはならない
ただ、この者に直接いうことはできない。とんだプレッシャーだからだ。
『井の頭君。ちょっと』
私は社長室から動くことはめずらしい
それだけで空気が淀むのが耐えられないのだ
『この字がよく読めないんだがね』
『私にもちょっと』
『もう一度出させます』
『いや、だいたい言いたいことはわかるんだが…』
言い出しづらい…いちいち言うことかとも思うのだが
『名前がよくわからないんだ…田中か田上かが…いや、田のほうはまだしも』
『田上のほうの字は綺麗ですが』
やってしまった。難しい事柄ならまだしも、何故こういったミスは治らないんだ。