6話:ヴァレニア森林
怪我によって執筆が非常に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
背中の激痛と共に目が覚める。
「流石に地べたに何も敷かずに寝るのは自殺行為だったか、いてて……」
セオは立ち上がり、あくびをしながら背中の土を払い落とし、空を見上げる。
太陽が地平線から出てくる様子を見ながら、普段こんなに早く起きない為、よく寝れなかったんだなと思う。
「…何か食べる物でもねぇかな」
ボサボサになっている髪を適当に直しながら、近くに食べる物がないか探す。
だが食べれそうな物はなく、残念そうに頭を落とした。
せめて朝食として何かしらの物を取りたかったのだが、まぁそれは仕方がないと考えておく。
セオはゆったりと歩き出した。
森林にはきっと林檎や森葡萄のような物でもあるだろう、朝ごはんはそれを食べるか、アシッドウルフはその後だ。
腹が空いては戦はできぬとか言うしな。
てかマジで腹が空いてきた、もう一回餓死寸前で助けてもらえると言う確証も一切ないしな。
いざとなれば魔物でも食うしかないか。
だがスライム、てめぇは食ったら腹を下すから駄目だ。
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「はぁ~…ついた…」
そう言いながら辺りを見渡す。
ヴァレニア森林。
そこは背の高い木が乱立する広い森だ。
あたり全体が鬱蒼としており、また雨が降った後に何かしらが原因で凄まじく濃い霧に包まれる。
また自然に存在する魔力濃度が高く、そのせいで魔物が出現しやすい。
鬱蒼としていて魔物も多い反面、ここの木材は高く売れる。
なんせ危険が多いから誰も取りに来ない。
俺が木こりで戦闘能力が無かったら1人では絶対行かないね。
俺は棒を構える。
ここからはいつ魔物に襲われてもおかしくはない。
ここぐらいの魔物の攻撃なら致命傷レベルには一切ならないだろうが、まぁ一応だ。
擦り傷とか地味に痛いから怪我はしたくない。
索敵を程々に森の獣道を歩いていく。
道なりに進めば果実のなるに木くらいはあるだろうと思いながら。
だが、妙なのだ。
「…静かすぎる、魔物が多いって聞いてたんだがな」
魔物の鳴き声や足音どころか、風の音すら聞こえない。
まるで魔物が森から消えたように、だ。
「…怪しいな、隠れている? それも相当息を殺しているな、よし…」
セオは棒で地面に丸を描き、棒を三回振る。
すると地面に描い円形が光を放ち、周囲の地図を写し出していき、いくつかの位置が赤く光る。
索敵魔術【魔物地図】。
地図を表示し、魔物の位置をその地図に写し出す魔術。
魔物の体温に反応している為、体温のない魔物、機械や死霊には反応しない。
自分の周囲にも魔物はいる。
だが動かない、ずっとその場所にいる。
隠れているのか? それとも怯えている?
流石俺、威厳ムンムンすぎて魔物も怯えて出てこないってか。
…そんな訳ない、魔物は人間にはほとんど恐怖を示さない。
つまり隠れている可能性が高いが、そうならば索敵魔術を使う前に襲って来る筈だ。
じゃあ何があった?
そうこう悩んでいる時、突然だった。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「…!!?」
森の奥から悲鳴のような叫び声が聞こえた。
その叫び声に驚き、魔物達が一斉に森の外を目指して逃げていく。
叫び声の声質からして男、おそらく魔物に襲われたのだろう。
こんな時間から森林にいるって言うことは冒険者の可能性が高い。
早く助けに行かなければまずい。
致命傷をおっているだろう、早く治療せねば死に至るし、そんな状態では戦闘どころか逃走もできない。
俺はすぐさま【身体強化】を使い、声のした方向に走り出した。
「待ってろ、すぐ助けに行くからな…!!」
俺が助けに行ける範囲に居るならばせめて助けてやりたい。
手が届くなら救ってやりたい。
あの頃のような事は──絶対に繰り返さない。
そう誓ったのだ。
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同時刻、ヴァレニア森林北東部。
僕はD級の冒険者だった。
ちょうど1ヶ月に冒険者になって護衛任務や雑事任務をこなし、やっとの事でD級の冒険者になった。
今日は昇格して初めての任務だった。
ただの魔物、それも下位の魔物だったんだ。
ヴァレニア森林での依頼、危険度も低く、初めての討伐依頼ならばこれくらいで十分だと思っていた。
その手の魔物討伐に慣れている戦士と魔術師とパーティーを組み、万全の状態で挑んだ筈だったんだ────けど
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
僕は仲間の叫び声で起こされた。
すぐに飛び起きて、寝袋の横に置いておいた自分の武器、ナイフと拳銃を取ってテントの外に出た。
そこは地獄絵図だった。
地面は血で汚され、周囲の木々は凄まじい力でへし折られた形跡があった。
そしてその地獄絵図の中央、ちょうど薪を用意していた場所には
無残にも四肢を千切られ、臓器を露出させ、血を吐き続ける戦士の死体と、頭を飛ばされた死体。
死体の服装と持っている杖から察するに、彼は一緒に来ていた魔術師だ。
そして、戦士の死体の上にまたがり、戦士の死体をにへらにへらとしながら子供のように臓器を引っ張ったり、丸めたりしていじくっている魔物がいた。
僕は吐いた。
昨日の夕食の残骸のような物を胃から全て吐き出した。
何よりこの光景を見て気持ち悪くならない人は居ないだろう。
それほどグロテスクな光景に吐き続けた。
そして泣き叫んだ。
特に戦士とは仲が良かった、冒険者になりたての僕にいろいろと教えてくれたいい先輩だった。
なのに、そんな彼らが死んだ。
その事実を受け入れるのすら嫌だった。
「……許さない」
僕は銃を魔物に向けた。
リボルバー式の拳銃。父が自分が冒険者になったお祝いで買ってくれた銃だ。
「許さない許さない許さない許さない許さない、許さない…!!」
魔物は声に気づき、僕の方を見る。
改めてその魔物を見る、人の形をした体、巨大な角の生え、牛のような形をした顔。
右腕には鉄でできた巨大な戦槌が握られていた。
──おそらく牛人種、それも上位の物だ。
一瞬足がすくみそうになるが、下唇を血が出る程噛みしめて耐える。
これは仲間の仇だ、奴に殺された戦士と魔術師への仇だ。
「…死ね、化け物が!!!」
怒りの籠った手で引き金を躊躇なく引く。
その瞬間に銃声が森に鳴り響き、魔物が倒れる。その衝撃で周囲に砂煙が立ち込めた。
「…ハァ……ハァ………」
拳銃を落とし、膝を落とす。
「やったか……?」
疲れ果てたかのような目をしながら魔物を確認する為拳銃を拾い、四つん這いになりながら魔物の方へ近づいた。
すると突如、砂煙の中から大きな腕が自分を掴むように伸びてきた。
「……!!!!?」
咄嗟に反応できずき首を掴まれる。
砂煙が腕の勢いで吹き飛んでいき、視界が開けた。
そこには魔物がいた。
痛そうな素振りは一切なく、ただ嗤いながらこちらを見ていた。
恐怖のあまり悲鳴が漏れそうになる。
だが首を掴まれている為、微かな息が小刻みに出ていくだけだ。
すぐさま拳銃の擊鉄を引き、魔物に向けて撃つ。
敵の反応を見ず、やだひたすら、弾の無くなるまで目の前の仇に銃弾を撃ち続けた──だが無駄であった。
目の前の魔物はただこちらを楽しそうに曇りなき魔物特有の本能のままの目をしていた。
銃撃によるダメージは見る限りほとんどなく、掠り傷すら一切なかった。
それでも、僕は奴の腕に必死に殴り続けた。
せめて生きたい。せめて僕の憧れだった彼らの
生きた証をこの世に残してあげたい。
「はな…せ……!! 僕は………!!!」
もがき続ける、敵はそれを見て喜ぶように口を開き、奇声を発する。
絶対に生き残る。
全身の筋肉が悲鳴をあげるようにキリキリと痛む、だがそんな事知った事ではない。
敵は戦槌を上に掲げる。
僕が暴れる様に飽きて、僕を殺す気になったんだろう。
あの一撃に当たればどの部位でも致命傷は避けられないだろう。
敵が僕の首にかける力を増やす、息ができなくなって目を見開く。
あぁ、結局抵抗も無駄だったと脳内で思った。
僕はここで死ぬのだと、直感で察した。
「……誰か……助け………て」
微かに漏れる声で呟く。
本当は叫ぼうとしたのだが、喉が絞まっている為声が出ない。
全身の力が入らなくなっていく。
あぁ──終わった。
そう思った時だった。
「よぉ、助けに来てやったぜ」
その声が聞こえた瞬間に、自分の地面がぐらつき、地面に落ちる。
僕は上の見上げた。
そこにはなんと、上半身と下半身を真っ二つに斬られ、切り傷から血を吹き出している牛人種と、
「………大丈夫か? 怪我は?」
全身に血まみれのボロボロの麻の服をきて、血まみれの棒状の物を持っている黒髪の男性が立っていた。