4話:勇者vs魔術師さん
「さて、早く始めようぜ」
「その前にルール説明があるでしょうが…」
シャーリアは杖を持ち、空き地の隅へ移動する。
「ではルールね。この決闘は物理と魔術、両方の使用による戦闘で、相手に一撃当てたら勝ち。これでいいわね?」
「あぁ、それで構わねぇ。で、もしお前が勝ったらどうするんだ?」
「貴方には冒険者以外の職業をおすすめするわ。この仕事はいつ死んでもおかしくない。絶対貴方みたいな人は死ぬ可能性の方が高いもの」
「オーケー、じゃあお前の合図で初めていいぜ」
双方が武器を構える。
彼女はそれを確認し、右手を挙げ
「じゃあ、決闘開始!!」
その瞬間、セオがシャーリアに向かい走り出す。
「炎の兎よ、戦場を駆けよ。【炎兎】!!」
だがシャーリアはすぐさま魔術を詠唱、凄まじい速度で小さい炎球が飛んでいく。
火属性攻撃魔術、【炎兎】。
威力は低いが、詠唱が短く速度が速い為、相手に一撃を当てるだけで勝てる戦闘や、移動が速い敵との戦闘でよく使用される。
普通ならば人間には避けれない速度、だが
「我が身に宿れ。【身体強化】!!」
【炎兎】と同時に詠唱された魔術、【身体強化】。
それにより身体能力を強化し、横へのステップで炎球を避ける。
セオはそのままシャーリアへ向け走りながら詠唱する。
「時間の主よ、我に流れる時を加速させよ。【時間加速】!!」
その瞬間シャーリアの視界からセオが消える。
強化魔術。【時間加速】。
3秒だけ時間が停止し、その間詠唱した本人のみ行動ができる。
シャーリアはキョロキョロと辺りを見回す、すると声が聞こえた。
「遅いぜ…!!」
彼女は後ろを振り替える。そこには武器を振り上げたセオがいた。
「…!! し、疾風よ! 【吹風!】!」
人を吹き飛ばせるような突風を自分にあてることによってシャーリアはセオから離れるように吹き飛ぶ。
そして
「風王よ、風の障壁によって、吹き飛ばせ!
【 風壁】!!」
シャーリアは自分の目の前に風の障壁を作る。
風の障壁は質量を持つ攻撃や生物を一定ダメージ分弾き返す魔術、それはセオも知っていた。
だがセオは止まらない、そして
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
風の障壁に向かい上段からの一撃を当てる、すると風の障壁が煙を吹き飛ばすように消滅した。
「…!!? なんで…!!」
彼女は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
そう、たかがそこらの棒の"一撃"で【風壁】を破壊されたのだ。
「ッ…!! 疾風よ」
「もう遅いぜ!!」
シャーリアは気が動転していたせいで詠唱が遅れる、そこへすかさずセオが棒での下段からの一撃をいれる。
その棒は彼女の脇腹に当たる。
手加減したお陰か、鈍器で殴ったような鈍い音ではなく、棒で軽く叩いたような心地よい軽い音が鳴る。
「……負けてしまいましたね」
彼女は膝から崩れ落ち、ぺたんと地面に座り込んだ。
「はは、案外強かったな。結構苦戦したぜ」
セオは棒を腰のベルトへ挿し、彼女へ近づき
「ほれ、早く立てよ」
手を差し伸べた。
「…えぇ、ありがとう」
彼女も手を取り、立ち上がる。
彼女の表情は満足げだった、負けた悔しさや苛立ちはそこにはなかった。
「どうした、何かわかったか?」
「…いいえ、何もわかってないわ。むしろ疑問が増えちゃったわよ」
「…まぁ、装備がなくたってこの程度なら努力すればできるんだ。それがわかったなら俺はそれでいいよ」
セオは空き地から去っていく。
「じゃ、今から冒険者ギルドに登録してくるわ。お前の住所でな。お前も来いよ、俺まだ住所聞いてねぇしな」
「…はいはい」
彼女は微笑しながら、セオについていった。
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冒険者ギルドについた、そこは前回来たときと何も変わっていなかった。
俺はすぐに受付へと行き、バンとカウンターを叩く。
「すみませ~ん、冒険者の証発行してもらいたいんですけど~」
ドヤ顔で受付嬢を呼ぶ。
周りからはヤバい人みたいな扱いされている事だろう、だが関係ないね。
今の俺には住所がある。
これで何も俺の邪魔をしない。
後ろからシャーリアからの痛い目線があっても気にしない。
「…前来たときは住所がなかったと聞いたのですが、こんな短時間で用意できたのですか?」
受付嬢は心配そうに俺の方を見る。
「あぁ、用意できた。ちょっといろいろしてな」
俺は受付嬢へウィンクを送る、だがそれは無視された。
「では、こちらの書類に記入事項を記載していただければ」
受付嬢は書類を俺に渡す。俺はシャーリアに住所を教えてもらい、それをサッと書いて受付へ提出する。
「…確認いたしました。では、貴方はこれから冒険者です。まずはこちらを」
受付嬢は奥から赤い石のはまったコインを俺に渡す。
「それは冒険者の証です。それさえあれば冒険者ギルドの依頼を引き受ける事ができるようになります」
「そうか、これが冒険者の証か…」
俺は感慨深いと思い証を見る、ここまで来るのに苦労したなと目を細めた。
「では、冒険者として頑張ってください」
受付嬢はお辞儀をし、俺の方へ微笑む。
受付スマイルって感じだ、とても洗練されている笑みだ。
俺はシャーリアの方へ戻る。
「…ありがとな、お前がいなきゃ俺冒険者になれてなかったわ」
一応少し頭を下げ、礼を言っておく。
「いえいえ、こちらこそ。私の慢心を正してくれて」
「それに限ってはサブ目的みたいなもんだ、気にするな」
俺はシャーリアに背を向け、ギルドの扉へ向かう。
「じゃ、俺は一回帰るわ。今日は疲れたし、ちょっと休んでから依頼を受けてみるわ」
「それがいいわ。私はしばらくここに居る事にするよ、少し用事があるの」
「そうか、じゃあな」
俺はギルドの扉を開け、外へ出た。
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こうして俺は勇者という過去の栄光を捨て冒険者となった。
まずはゆっくりと依頼でもこなしていこう。
俺は近い未来の事を考えながら、家へと帰っていった。