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第7章 運命

第7章 運命




馬車から降りてきたのは小柄な深い緑の肌をした人物だった。



「キンシーさん…あれは…?」




「あれはゴブリンの商人ね。あの馬車からすると……まぁ〜何の商人かは検討つくわね。」




そのゴブリンの商人は尖った鼻と耳をしており、腰には2丁の拳銃。身なりは整っていた。




「いや〜すまんな〜。金ならあるから他にも食い物とかないかね〜。」


ゴブリンは馬車の後ろに向かって歩きながら村人達と話している。




その時だった。

皮で覆われた後ろの馬車から1人の少女が転がるように飛び降り走りだした。



しかし、少女は発砲音と同時にその場に倒れた。




「ダメじゃねぇ〜か。俺の商品が勝手に動き回っちゃ。」



そう言いながらゴブリンは少女に歩み寄って行く。



少女は這いずりながらもゴブリンから必死に逃げようとしている。


足からは大量の血が出ている。



少女は声を上げようとしているが、喉が枯れて声も出ていない。


涙を流しながら必死に何かを訴えようと逃げている少女。



次の瞬間。彼女と目が合う。






しかし。


「あーあ。こりゃ〜ダメだわ。傷物になると買い手が付かないからなぁ〜。」




2発目の発砲音と共に少女は動かなくなった。





初めて人が殺されるのを見た。


こうもあっさりと命が奪われてしまう事に動揺が隠せなかった。





「ありゃ〜。すまんが片してもらえるかな?お掃除代は後で払うから。」





「この…ゲスが……。」


キンシーは怒りに満ちた言葉を小声で言った。




「行こう。あんな奴と関わってたらロクな事はない。」


キンシーはそう言って僕の腕を引いて歩きだした。






無事に泊まれる宿も見つかり、やっと安心して座れた。



「アンタいくら私が魅力的だからって夜中襲うなよ。」


キンシーはからかう感じに言ったが、僕は先程の出来事が脳裏から離れなくて、キンシーが気を利かせて言った冗談にも対応出来なかった。



「大丈夫か?」




「大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれたら…大丈夫ではありませんね…。」




「アンタの世界ではあんなのないの?」




「…。ええ。ありません。それに人を殺したらそれ相応の罰が降ります。それなのに…何故みんな人が目の前で殺されているのに平気なんですか?理解できないです…。」




「それは……。」


キンシーは言葉を詰まらせた。


「それは…こっちでは《それ》が普通だからだ。生まれながらに奴隷商に売り飛ばされる運命の子なんだよ。仕方ないんだよ…。」


キンシーは歯を食いしばり、うつむきながら答えた。





「……それじゃ…あんまりだよ。…あの子が可哀想だ…。」




しばらく部屋に沈黙が続いた。




「アンタの洋服探しに行こっか…。ちょっと見に行こうよ。」


キンシーは沈黙を破った。

それも僕に充分、気を使って。

尚且つ、キンシーらしく。



「……是非、お願いします。」







「どうよ?」



「いや…まぁ〜サイズは良いのですが…。」


キンシーと村の小さな商店に来た。

さっきから取っ替え引っ替えキンシーは洋服を持ってくる。


母親以外の女性と洋服選びなんかした事のない僕は少し戸惑った。




「…デートってこんな感じなのかな…」



「なんか言った?」



「いっ…いえ!!何も…。」


キンシーが笑っているのがカーテン越しでも容易に想像できた。




「そー言えばさー。」




「はい。」




「この紙で出来た箱は何?」




「それは、タロットです。僕が占いで使う道具なんですよ。」




「へー。じゃ〜《神器》か。私が触らない方がいいね。」




「ありがとうございます。そうして頂けると助かります。で…神器?」





「そう。キャスターが魔法や魔術を行う際に用いる道具。基本的には術者が常に持ち歩いてる物が神器になりやすいかしらね。一般的にはワンドが主流だけど。」



そう説明しながら、キンシーは僕の洋服の支払いをしてくれていた。




「んー。そうだ!何か食べれる物買って帰るからアンタ先に宿に戻って休んでなよ。」



キンシーが気遣って言ってくれたので僕は素直に先に宿に戻ることにした。





日は少し傾いて来た。

空気は少し乾いている。

新しい洋服の匂いと、この村匂いが混ざって不思議な香りがする。



宿に向かってる途中…

先程のゴブリンが村人とまた何か話しているのを見てしまった。




「悪い話じゃないだろ〜?子供なんてまた作ればいいのよ。」




「お願いです。娘を…娘を返してください。」




「子供1人にこんなに出す奴はいないよ〜。よ〜く考えてごらん。この金額ならしばらく働かなくていいんだよ。」




「お金の問題ではないんです。娘を…」



「おかーさん!!!」




どうやらゴブリンは母親から娘を金で奪い取ろうとしているようだ。



ゴブリンに腕を掴まれ母親に向かって泣き叫ぶ少女。


先程の少女が脳裏によぎった。



そんな……運命……可哀想だろ…





「そ…その子をお母さんに…かっ…返せ!!!」


僕は。

今。


ゴブリンの前に立ち塞がった。



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