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第一話

 フルダイブ型VRMMORPGスローライフ・ファンタジア

 7つの大陸と4つの大洋で構成された世界。

 その大陸の一つ。東の大陸〖シャルク〗、その南部にあるプレイヤーのスタート地点の一つアイリス。

 西側から南にかけてを山に、北を大森林に東をなだらかな丘陵地帯に囲まれた平地に築かれたこの町は、南の山々から川が流れ込む湖を囲うように、円形の都市として存在していた。


 その東側にある中央の環状メインストリートから離れた、裏道にある安宿街、その一つの一室で、一人唸っている者がいた。


「どんな不幸じゃ。おのれ運営」

 目の前に運営関係者が居ようものなら間違いなく、ありとあらゆる罵詈雑言を叩きつけたであろう形相で、狐の耳と黒いシャツを着た小柄な少女〖初春はつはる〗は、フレンド間の通信が切断される前の現状確認で発覚した不幸に頭を抱えていた。


「なんで妾だけ一人なんじゃ~!?」


 そう、彼女以外の四人の仲間は、他は二人ずつ南の大陸〖ダロム〗と西の大陸〖オエスシィ〗の始まりの町にいて合流できたのに対し、彼女だけは一人この町にボッチ状態だったのである。


「現実逃避もいい加減にして、これからの事を考えんとの。とりあえずステータスを見るかの」


 そう言って彼女はステータス画面を開いた。


《天城 初春》

 種族:狐人

 職業:冒険者


《スキル》

 狐火

 木の葉変化(小銭)


《装備》

 数打ちのなまくら刀

 木綿のシャツ

 木綿のズボン


「ステータス? え? これだけ? 待て、待つんだ、これは運営の罠だ。ははは、さすがに他に情報が無いなんてことはないはずだ」


 混乱から、素が出ながらいろいろ弄繰り回しつつ、過ぎる時間に身を任せていた頃。

 視界の隅に手紙の封筒のようなアイコンが浮かび上がった。


「なんだこれ?」


 とりあえず触れてみると、軽快な音とともに、画面が開いた。


『は~い、〖スローライフ・ファンタジア〗内のゲーム廃人の皆さん! 運営のアイドル〖キミジマちゃん〗です! ってそこ! ジャンケン負けしたんだから物を投げるな! ブーイングするな!』


 画面の向こうでは、誰がアイドルだ図々しい! その称号は私のだ! 等と罵声や礫が飛び交っているが運営サイドの告知らしい。

 だが段取りをつけてからやれ、と思ったのは自分だけではないだろう。


『こほん、負け犬共が失礼いたしました。 さて、(心が)ポキリもあるよ、キリキリ生き抜け。(グランドシナリオ終わるまで)エンドレスゲーム!! が始まりましてからすでに半日。 運営の方でも告知事項が定まりましたのでご報告第一弾!』


『まずステータス画面を開いた皆様はもうお気づきでしょう! このゲームは能力の数字化がありません! いや、実際にはマスクデータ何であるんですけどね? それを好き勝手見れたらリアリティが無いだろってことでボッシュートされました! 体感で把握して頑張ってください!』


『第二! デスゲームでは無いといったな! あれは嘘だ! ……え? そもそも言ってない? おいこら〖アリス〗どういう事! え? 告知忘れ? しょうがない、次!』


『デスゲームと言ったな、でもご安心を! 別に一回やられたらアウトとかケチなことは言いませんので! 心が折れない限りコンテニューは自由です! 復活ポイントからいくらでも復活できます!』


『折れたらどうなるかって? 各町はずれに黒い碑があるのでそこに行ってください。現実でも死ぬ代わりに、復活できなくなって永眠できますので! あ、ちなみに死者になった人は碑に名前が載るので、知り合いの名前が載らないことを祈ってね!』


『あと違法行為! ゲームだからってルールはある! 人道にもとる行為して討伐されたら、運営で垢BAN・抹殺コースだからね! 復活はないよ!』


『以上一回目の告知でした! 運営のアイドルキミジマちゃんをよっろしく~! だから物投げんな!』


 ……なんだこれ。頭が悪い、もとい頭が痛くなる動画が終わって出た感想はそれだけだった。


「気を取り直して……ゴホン、マスクデータになっとるだけで数値自体はあるわけじゃな。完全にないよりはマシじゃな」


「あとワンキル即アウトでもないと。幸い初期の所持金なら三泊はできるから、明日明後日の内に金策できるようにならんと野宿になるの……ん?」


 視界の隅に再度手紙のアイコンが浮かんだかと思うと、今度は勝手に開いて画面が表示され、キミジマちゃんが慌て、画面外に涙目で弁明をしながら現れた。


『ごめんなさい! だからお仕置きだけは勘弁を! あ、皆さんに再度お知らせです! さっき告知し忘れましたが、このゲーム餓死もありますのでご注意ください! 餓死の場合も違法行為と同じく垢BANになりますので! って部長! それはしゃれになりませn(ry』


「餓死もありか、食事代も考えれば明日中に金策をなさねばならんな」


 砂嵐になって閉じた運営の告知画面に、もはやそういう芸風なんだと、思い無視することにして、彼女は再度今後の予定を考え始めた。


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