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あなたに永遠の愛を

作者: 志瞳 ミノル

息抜きで書きました!すみません!

ヘレナへ



今、これを読んでいる貴女は元気ですか?

何処で何をしていますか?楽しくやれていますか?

あんまりこういうの書いたことないからちょっと恥ずかしいな…………。


僕がこの手紙を書いた理由は、ただ単に君に書きたくなったからさ。君の事だから今頃、寂しがってるんじゃないかってね。

どう?図星だったら嬉しいんだけど……。


あ、そうだ。報告する事があったんだ。

僕ね、隣国との戦で勝ったら、一回、村に帰れそうなんだ。今回は本当だよ。

隣国は大帝国だけど、武力はこっちの方が上だから負けはしないと思うし、何たって君が作ってくれたお守りもあるからね。


だからさ、ヘレナ。待っててくれ。


必ず帰るから


リックス


*****


リックスの手紙を最後まで読むと、丁寧に封に戻す。封に書いてある『リックス』の名前を優しく撫でてから、ヘレナは地面に崩れ落ちた。


「ヘ、ヘレナさん!?」

「ご、ごめんなさい。なんでもないです」


兵士は、崩れ落ちたヘレナを心配するが、ヘレナは顔をあげ兵士に笑みを見せ、もう一度「なんでもありません」と明るい声を返す。

ヘレナは力の抜けた身体にぐっと力を込め、ふらつく足を無理矢理動かし、自分の家に真っ直ぐに戻った。


戸を閉めた途端、ヘレナの頬が涙でびしょびしょなことに気付く。いつから濡れていたのだろうか。そんなのどうでもよかった。


(これは、夢だ、、、タチの悪いただの悪夢だ)


そう自分に言い聞かせる。

土で汚れたドレスのスカートを、次々と落ちてきた涙がシミをつくっていく。


(現実なんかじゃない。絶対に)


漏れる声を、震える息を手で塞いで、ズキズキと痛む胸をもう片方の手で抑える。



「嘘………つき………」





リックスは隣国との戦いが終わっても帰って来なかった。








先程の兵士は、リックスの手紙と一つの小さな箱をヘレナに渡す為にわざわざ村に届けに来てくれた。リックスの同士らしい。


『あの、兵士様。リックスは?』

『………すみま…せん……』

『え?』

『………………、』


ヘレナは兵士に問いかけた。だが、兵士は俯いたまま何も応えない。

下から兵士の顔を覗くと、彼は眉間に皺をよらせ、何かに耐えるかのように苦痛に満ちた顔で歯を食いしばっていた。

その顔に、ヘレナは驚いた。

戦いは、想像通り我が国が勝った。しかし、兵士は辛そうな顔をしている。

数分が経過しても兵士は何も応えようとしない。リックスに何かよからぬことが起こったのかとヘレナは段々不安になってきた。


『兵士様………?』

『僕が…………………したんです。』

『……え?』


か細い声を聞き取ることか出来ず、もう一度聞き返す。嫌な予感がした。聞き返さなかった方がよかっただろうか。

兵士は、奥歯をぐっと噛むと勢いよく伏せていた顔を上げ、まっすぐにヘレナを見詰めた。その苦痛に揺れる瞳にヘレナは後悔した。


『僕が、リックスを見殺しにしたんです!休憩時間、僕が近くの川に水を汲みに行って帰ってきたら、もうテントはぐちゃぐちゃで、………皆が………』


その言葉に最初、頭がついていけず、理解するのに少々時間がかかった。


『今、救護の方々が全力を尽くしていますが、生きて帰って来れないと考えた方が良いと…………』


まっすぐに見つめていた兵士は、深々と頭を下げてきた。


『本当に、申し訳けございませんでした!』




*****


昔から、リックスの周りにはいつも人がいた。

優れた頭脳を持ち、端麗な顔立ちで、性格も良い。こんな小さな村ではなく貴族や王族に生まれていれば、国中の娘たちを虜にしていた事だろうに。村の誰もが思っていた。

しかし、ヘレナは違った。


『どうしてなんだい?』

『何が?』

『ほら、僕が貴族や王族に生まれなくて良かったって、前に言ってただろ?』

『うん、言ったね』

『階級の持つ家に生まれていれば、君や村の人になんでも買ってあげられたのに』


ある時、リックスに聞かれたことがあった。

顔を覗き込む姿を、幼馴染みで腐れ縁のヘレナは何度も見てきた。今だに慣れないのは、きっと彼が成長と共に美しさも色付いてきたからなんだと思う。

そんなリックスにヘレナは、きっぱりと応える。


『だって、リックスが貴族や王族になっていたら、こんな小さな村に来ることなんて無かっただろうし、私は貴方に会うことが出来なかったでしょ?』


私は、リックスに会えて良かったと思ってる。

それは、何の濁りもない純粋なヘレナの気持ちだった。


珍しいものでも見たかのように驚いていたが、その目はどこか嬉しそうな光を灯していた。しかし、キョトンと小首を傾げると溜息をつき、顔を覆ってしまった。表情が見えない。

その時は、どうしたの?と何度聞いても、なんでもない、としか返って来なかった。


*****


『ねぇ、ヘレナ。お願いがあるんだ』

『………何?』


戦場に兵士として、駆り出される日の早朝にヘレナは見送りの為、村の門の前でリックスと最後の言葉を交わしていた。まあ、その時は最後だなんて思いもしていなかったのだが。


ヘレナは、腕を組み、ムスッとあからさまに拗ねている。それにリックスは苦笑いをする。


ヘレナは話し合いの最後の最後までリックスが戦場に行くのを反対していた。何故だって問われると、自分でもよく分からないけど、とにかくリックスには死んで欲しくないのは確かだった。

同じ意見の人々も何人かいたので、もう一押しすれば、彼女の意見は通ったはずなのだが、それを止めたのは本人のリックスだった。自分で戦場に行くと言い出したのだ。皆、本人が言うのであれば、と締めくくってしまった。

助けようとしたのに、それを踏みにじったリックスにヘレナはとても腹が立っていた。


『………………』

『何よ?言いたいことがあるなら早く言って』


そっぽを向きながらもヘレナはじっとリックスの言葉を待った。

しかし、あまりにも長い沈黙が続いたので心配になり、リックスの方を向こうとした。その時だった。


『!?』


返ってきたのは言葉ではなく、温もりだった。


ヘレナはリックスに後ろから抱きしめられていた。

幼馴染みであってもこんなの初めてだった。


『え、あ、あの、り、リックス!?』

『ごめん、今だけ』


彼の頭はヘレナの首元にしずめられ、風で揺れる髪が顔に当たってくすぐったい。表情も勿論読み取れないが、見えていたとしても緊張で見ることは出来ないだろう。

腰に撒かれた彼の腕は力強くヘレナを抱き寄せているが、冷静になると震えていることに気付く。


(そっか。リックス、怖いんだ。)


無理もないだろう。これから戦場に行くんだから。


『リックス、痛い』


そう言えば、リックスは腕の力を弱めてくれた。その隙にクルリと向きを変え、ヘレナはリックスの首に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。


『!?』


突然のことに、リックスは動揺した。滅多にそういう感情を出さない人なのでこっちまで少し動揺してしまう。


『リックス………』


後ろ髪を撫でながら、耳元で囁く。リックスの肩が激しく上下する。

決して意図的にやったのではなく、身長の問題でギリギリなのだ。今だって、背伸びしててプルプルしている。気付いてくれたリックスが少し身を屈めた。


『怖いなら今だけ、甘えていいよ?』

『え…………?』

『私の匂いも嗅いでいいよ?』

『え、…………えぇ!?』


よしよし撫でていると、強引に肩を押されリックスから体が離れる。


『ど、どうしたの?リックス?』

『それはこっちのセリフだよ!い、いきなりなんで君の匂いの話になるのさ!』

『え、あ、いや、だって昔、リックスが私の匂い落ち着くって言ってたから………』

『いつの話だよ!』


一人で慌てふためくリックスの顔は高熱を出した時のように真っ赤だった。なんか、可愛いなと思ってしまったのは誰にも言わない。内緒だ。でも……………、


(微笑ましい日は遠くに行っちゃうんだね)


そんなことを思った途端、急に切なくなってきた。

胸の辺りがむせ返るように苦しくなる。



『ねぇ、ヘレナ』

『ん?なに?』


見上げると、リックスの表情はいつものように穏やかに微笑んでいた。ヘレナは静かに微笑み返すと、リックスはゆっくりを口を開いた。


『必ず帰ってくるから、それまで待っててくれる?』


リックスの発した言葉の意味がよく分からなくて、目がぱちくりと瞬きを繰り返す。


待つ?何をだろうか?よく分からない。


そんなヘレナを見て、また幸せそうに微笑んだ。


彼の片手がヘレナの頬に手を伸ばし、触れた。

壊れやすい宝物を触るかのように慎重で優しい手だった。

大きなその手は魔法のように心を溶かし、苦しかった胸はいつの間にか治っていた。


『好きだよ。愛してる。』


甘いその言葉にヘレナは驚きと動揺を隠せなかったが、何処かで嬉しいと思う自分がいることに気付く。心をほんのりと温めて、手から伝わる熱に、温もりに自然と安心する。

両目から涙が溢れ出したのは不可抗力だって、いつもなら誤魔化していたかもしれない。けど、今日はそんな理由じゃないと、すぐにわかってしまう。


ヘレナはこくりとひとつ頷くと、自らのほほに触れている手に自分の手を添わせた。


『………………分かった、待ってる。ずっと』





*****


気付くと、そこは崖の上だった。あと一歩進めば落ちてしまう位置。下には、幾度と激しい水しぶきを上げる海がある。


ここへ来たのは、無意識だった。何より、今まで気付かなかったのが証拠だ。


(そっか、私、死のうとしてるんだ)


自分の事なのにどこか他人行儀な自分がいる。

落ちるなら落ちてしまえばいい。もう、何もかもがどうでもよかった。


ふと、手元に何かを持っているのに気付く。視線を移すとそれは彼からの手紙だった。

ほぼ抜け殻状態だったのにも関わらず、手紙には折れ目一つない。大事に持っていたのか。

これだけは無くしたくない。そう思ってポケットに手紙を突っ込んだ。


コトンッ


「?」


ポケットの中で何が手に当たる。

取り出すと、それは小さな箱だった。手紙と一緒に渡された物だ。


(そういえば、まだこの中見てない)


小さいながらもその箱は頑丈そうで、多少重みもある。安物ではないのは確かだ。


(開けてみよう)


パカッと、音をたててなんの抵抗もなく開いた。





「っ………………!」



嗚呼、こんなの見なきゃ良かった。






海風に靡いた髪が顔をくすぐる。

くすぐったさで我に返ったヘレナは、いつの間にかまた呆然としていたらしい。

そっと自分の頬に触れると、乾いていたはずの涙はどんどん溢れ出てきていた。


胸の当たりがゆっくりと優しい温かさで満ちていく。

こんなふうにヘレナをおかしくするのは一人しかいない。



「リックス…………………」


足の力が抜けて地面にぺたりと力なく座り込む。


どんどん視界がぼやけていく。


箱の中には、指輪が一つ入っていた。真ん中に小さな赤い石がはめ込まれている以外飾り気がないシンプルな指輪。

手に取ると、内側に文字が刻まれていた。



「ああ、ダメだなぁ、私。リックスとちゃんと待ってるって約束したのに、な、」


今、初めて死のうとしていたことを後悔した。

自分から約束を破ろうとするなんてリックスに見せる顔がないなと思ってしまう。



涙は止まらないが、自然と笑みが零れる。


そうだ。

まだ『最後』じゃない。

まだは彼は生きているのだから。



ヘレナは、一つ大きく深呼吸をして、立ち上がった。

体の向きを変え歩き出す。さっきまで殆ど働いていなかった頭が妙にスッキリとしている。


彼女はまっすぐ前を向き、瞳には強い意志がやどっていた。




*****


「ねぇ、ヘレナちゃん?」

「はい?なんでしょう?」


村を歩いていると、隣人のおばさんに声をかけられた。おばさんには、昔からいろいろお世話になっている。


「これを私が言っていいのか分からないんだけどね、その、ヘレナちゃんもそういう年頃なったんだし、そろそろ結婚を考えた方がいいんじゃないかしら?」


優しい印象を持つ少し垂れ気味の目がそれ以上に下がって、申し訳なささが伝わってくる。

きっと、ヘレナのことを本当に心配してくれているからなのだろう。



リックスからの手紙がきてから、既に5年が経っている。

ヘレナは、20歳を超えており、我が国では適齢期の真っ盛りなのだ。

ヘレナと同年代が色づき始める中、彼女はそういう類いのことを興味なさげにみていた。その事もおばさんが声を掛けてくれた理由の一つだと思う。


ヘレナはふふっ、と小さく笑っておばさんに話しかけた。


「大丈夫ですよ。私だって、何も考えてないわけじゃないんですよ」

「…!本当かい!?」

「はい!」


それはよかった、とおばさんは心底安心したようだ。

ヘレナも優しく微笑みかけて、後ろに組んだ。


右手の小指にはめた指輪。それは、リックスからの物だ。

左手の薬指には、リックスが帰ってきた時に本人にはめてもらうと決めている。


『永遠の愛を』


指輪に刻まれていた五文字の言葉。


「リックス、待ってるよ。ずっと。」

零れた涙を拭おうと体を動かそうとするが、もうそんな体力はどこにも無かった。目を開ける気力もないが、瞼に光が当たらない事からまだ夜中なんだとわかる。

ガチャ

ドアの開く音がする。

「なんで泣いてるの?」

優しい声と共に頬に何が触れ、涙を拭った。それに恐怖を抱くことはなく、反対にとても安堵した。

「怖い夢を見の。あなたがいなくなる夢」

「僕が?」

クスリッと小さな笑いが微かに聞こえた。そっかそっかと声の主は頭を撫でてくる。


そっと目を開ける。

そこには、優しく微笑む青年が一人。

くしゃくしゃの顔をもっとくしゃくしゃにして、ヘレナは言った。


「おかえりなさい」


「ただいま」

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