表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

噺の扉(短編集)

ノロマなみっちゃん

作者:

言葉の力は、言葉を放った人・放たれた人にも影響を与えます。それは、良い意味でも、悪い意味でも…

「ねぇー、なんで…みっちゃんって、そんなにお話しするのゆっくりなの?」


「ゆっくりというか、鈍いよな! そうだ、カメだ!」


「女だから、カメ子! お前は、今日からカメ子だ!!」


そんな同級生達の言葉を思い出し、胸が痛む。


小学生の頃に言われた言葉。


今、思えば…同級生もそんなに深く考えて発言していないのだろう。きっと、そんな言葉を私に放った事も覚えていない。


喋るのが遅い=動きが遅い=カメ


でも、言葉を放たれた本人は忘れる事はない。


例え、時がいくら経とうとも。

自ら、忘れようと努力しても。


きっと、忘れる事は出来ない。


時が経ち、そんな私も社会人。


社会人になっても、私は小学生の時に言われた言葉を忘れた事はなかった。


他人と話す時、一緒に歩く時も意識していた。


自分の中では、努力していた。


同じ事を言われないように。

同じ過ちを侵さないように。


でも、努力していた"つもり"だった。


いつものように、職場の更衣室で作業着に着替えていた時だった。


私の隣には、2コ上の先輩。


先輩は、私より遅く更衣室に来た筈なのに、私より早く着替え終わっていた。


何故だろう? 何故、私より早く着替える事が出来るのか?


そんな事を思った私は、思わず先輩に疑問をぶつけてしまった。


「先輩、聞いてもいいですか?なんで、そんなに着替えるのが早いんです?」


私の問いに、先輩は笑いながら答えてくれた。


「それはね、大ざっぱだからだよ。 だって、適当に脱いで、適当に畳んでいるからね」


「私もそうです…でも、遅い」


シュンとする私に、先輩はまた笑って答えた。


「いや、だって…みっちゃんは、丁寧だもの。畳むのだって、そう。次に着やすいように考えて畳んでるし、他の事だって、そう。更衣室のドアだって、他の人に気を使って静かに開けるし、静かに歩くでしょう」


「だって、それは当たり前です」


「当たり前って、言葉はあるけど…そんなに簡単な事じゃないんだよ。当たり前が当たり前に出来ない人が多いのだから」


「………」


「何を気にしているか分からないけど…何でも速く出来ればいいという問題ではないと思うよ」


「でも、何でも速く出来るようになりたいです」


「みっちゃんは、そのままでいいよ。 みっちゃんがいきなり速く動き出したら、びっくりして笑っちゃう!」


「そのままの私でいいんでしょうか?」


「いいよ。 だって、みっちゃんだけだもん。私が顔を見ないで更衣室に入ってきた人が認識できるのは、みっちゃんだけ。 更衣室のドアを開けて歩いてきた足音で分かるのは、みっちゃん…ただ、1人だけなんだよ」


先輩にそう言って貰った瞬間、私の中にストンと落ちるものがあった。


その落ちたものが何なのか、うまく表現する事は出来ない。


しかし、この質問をする前よりは確実に自分の中の気持ちに変化が生まれた事は分かる。


「そうか、そうなんだ」


自分に言い聞かせるように、小さい声で呟く。


「みっちゃん、どうしたの?」


そんな私の様子を見て、先輩が尋ねてきた。


「いいえ、何でもありません!」


「そっか。 じゃあ、今日も頑張って行こうか!」


そう言って、先輩は更衣室から出て行った。


「はい!」


大きな声で返事をしてから、先輩の後を追った。

私も言葉で傷つけられた事があります。しかし、何気ない一言で救われました。あなたにとって、大事な言葉は何ですか?私の言葉が誰かを救う何気ない一言になりますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ