呼び名
「ちゃんと着けたわね、えらいえらい」
小声でモリスが褒める。どうも、とローラは笑んで返した。目の前には、見慣れた金細工の装飾品が、所狭しと並んでいる。並べ方に統一性がなくて悪趣味だわと、相変わらずさにローラは心の中で舌打ちした。シャンデリアが、鈍く光っていて、不気味でもある。
「里心が出たなら、まだ間に合うわ」
悪戯っぽく笑むモリスに、ローラはまさか、と再び返した。そして続ける。そんなに弱い決心で、ここに来るわけないじゃない、と。モリスは頷いた。狙いは、女神を象った、小ぶりの像。宝石がはめ込まれ、かなりきらきらしている。貝殻に乗った女神は、大きな真珠を手にしている。マードック夫人自慢の一品であったはずだ。
「どうして、わざわざ新入りの私をここへ?」
そっと問うローラに、モリスは像を手に取り、向き直る。
「呼び名を、決めようって話になってね、ハーバーマスと」
「呼び名?」
モリスは頷く。
「ローラって呼ばれるのは、嫌なんでしょう?」
ローラは返答に詰まる。モリスは、体をこわばらせるローラの気をほぐすように、手を肩にやる。
「――私も、ここに入って、貰ったから」
モリスの一言に、弾かれたようにローラは目を見開いた。
「あなたも……?」
モリスは笑んだ。そして像を手渡す。
「私の場合は、捨て子で最初から名前がなかったからだけど」
ローラは像をそっと受け取った。
「それでね、あなたが最初にした仕事は、真珠のネックレスだったから。古語の真珠に由来する、マーガレットにしようかってことになったのよ」
どう? という問いに、マーガレットは答えられなかった。溢れてしまいそうな感情を、つとめて表に出すまいと、必死にこらえながら、大きく頷く。そして、像をしっかり抱きしめた。像の冷たい感触が心地いい。
「さ、撤収するわよ、メグ」
マーガレットは、今度は小さく頷くと、モリスの後に続いた。
影は、暗闇に融けていて、もう自分を追っては来なかった。




