令嬢の秘密
「おい、聞いたか。オールトックのおてんば嬢ちゃんが、またどっかに雲隠れしちまったんだとよ」
「どっかの森で狩りでも習ってんじゃねぇのかい? この間も遠出してたって言うじゃねぇか。マードックのとこの息子さんとダンスが嫌だとかって」
「ベルシューマで暴漢を一人でのしちまったって時のだろ?」
二人の男が笑い合う。先日の、〈ティエン〉のオールトック家襲撃の話題で持ちきりな中では、珍しい情報である。総領はオレンジ色の細かい代物がわんさか見えるピラフを、スプーンの端でつついた。
「ニンジン多い……」
行きつけの情報収集場所となっている食事処で、総領はぼやく。これではやる気も出ない。総領はニンジンを器用に隅に寄せた。
「総領、栄養かたよりますぜ……」
ハーバーマスはニンジンを混ぜ返した。総領が小さく声をあげるが、知らん顔で自分の食事に戻る。総領は恨めしげにハーバーマスを睨んだ。
「それにしてもローラ嬢は、かなりのおてんばっぷりだったんだな。どうりでナイフの扱いがうまいはずだ」
総領は、護身用にとモリスがナイフの扱いを教えていた時のことを思い出す。ローラは二投目で的に当ててみせた。
「そのうち俺らが的にされそうな気がそこはかとなく」
ハーバーマスの言葉に、総領は頷いた。ローラは早速、次の標的であるマードック家の情報を始め、社交界の状況などを細かに提供してくれている。〈ティエン〉にも、実際に事を起こす人員だけでなく、情報収集専門の人員もいるため、当初はそちらに身を置かせるつもりだったのだが。
「最近様子が変なんですよね。出自は絶対知られないようにしてほしいとか、自分も次の仕事に出たいとか……。焦ってるって言うか、迷ってるみたいな感じがするんです」
「……」
総領はスプーンを口に運ぶ。すぐさまスープで流し込んだ。ニンジンをまとめてかたしてしまおうという魂胆らしい。慣れっこになっているハーバーマスは、かまわず続ける。
「お年頃ってヤツですかねぇ」
「お年頃ねぇ……」
それならいいけどな、と総領は息をつく。いや、良くないですよ重大ですよ総領わかってないとハーバーマス。総領はハーバーマスを促して席を立つと、カウンターの店主にお代を渡す。店主は無言で、紙切れを突き返した。そして、周りに聞こえないように、小声で言った。
「動くらしいぜ。明後日だ」
総領は目を細めた。紙切れ――情報収集人員である店主の集めてくれた極秘情報を上着の内ポケットにしまい込む。
「ハーヴ」
「はい」
後ろにいたハーバーマスの、顔つきが変わる。ベージュがかった瞳の輝きも。
「準備だ」




