狙われた義賊
「型どおりのことは知ってるつもりよ。義賊集団・〈ティエン〉。金持ちばかりに目をつけて、その私財を盗み出し、裏ルートで食料その他と交換して庶民にこっそりばらまいたりする、庶民のヒーロー。しかしてその実態は謎に包まれたまま。〈ティエン〉によるものだというサインが、お宝の盗まれた部屋の壁に残っているのみ」
ローラは辺りを見回す。木箱の積まれた室内にいるのは、自分を連れてきたハーバーマス、陣頭指揮をとっていたモリスと、それから、木箱に腰掛けて静かに成り行きを見守っている黒髪の青年。他の者は既に仕事を終え、引き払っている。黒髪の青年の腰掛ける木箱には、ローラの予想通りのものが詰まっているのだろう。ローラはモリスに向き直った。
「長く書くと、たまに綴り間違えるのよね、うちの総領。だから他に書かないだけよ」
モリスがぼそりと口を挟んだ。後ろで青年が頭をかく。
「でも、確実に会える方法がある」
ローラは肩に掛かった髪を払い、腕を組んだ。
「オールトック家は、ベルフレディでも有数の資産家だわ。しかも最近、マードック家と組んで、小狡いお金を儲けた……。そんな噂が流れたら、〈ティエン〉が狙わないはずがない」
モリスは溜息をついて、顔にかかった髪を払った。
「で、わざわざ家を留守にさせるように仕組んで、こっそり自分は居残ったと」
「えぇ」
小細工って大変なのねぇと、婉然と笑むローラから目を離し、モリスは後ろを向く。
「総領、どうするの」
ローラはモリスの視線の先に目をやる。陣頭指揮をとっていたのはモリス。だが、〈ティエン〉のトップは「総領」と呼ばれている――そう、噂に聞いていた。彼が、その総領。
後ろで様子を見守っていた、というよりもとばっちりすれすれのところに避難していた総領は、うーんと唸る。しかし、それはもう決まっていることを、もったいぶっているようにも見えて。ローラはこちらを見ている、自分を見透かすような深い蒼の瞳に、思わず震えそうになった。
「いいんじゃないか?」
モリスは口元を引きつらせ、ローラは小さくガッツポーズ。その様子に、総領はモリスに落ち着けとでも言うように手を振った。
「本来、人に見つからないように動くのが俺らだ。口止め、なんてことはしたくないからな」
にやり、という形容の似合う笑みを、総領は浮かべる。口止めという選択肢もあるんだぞ、ということを暗ににおわせているようにも見える笑みだ。
「だか、幸運にも、仲間になりたいと言ってくれてるんだろう? おまけに俺らの標的の情報を、少なからず知っているはずだ」
「そうね」
ローラは、ゆったりと頷いた。そして、
「それは餌にするつもりでいたわ。ばっちりよ」
と、こともなげに言い放つ。それならなおさら、と総領は笑む。
「来るものは拒まず、去る者は追わず。そうだろ、モリス」
振られてモリスは、大きく息を吐いた。やれやれといった風に首を振る。
「まあまあ、モリスさん、お近づきのしるしに」
ローラはオレンジがかった巻き毛を揺らしてモリスに近づくと、首にかけていたネックレスをモリスに渡す。
「――これ……っ」
渡されたネックレスを見て、モリスは絶句する。総領とハーバーマスも、モリスの手元をのぞき込んだ。そして同じように言葉を失う。柔らかな、甘さすら感じる光沢。乳白色の真珠のネックレスが、手の中できらめいていた。しかし三人が驚いたのは、そこではない。本日のメインディッシュになるはずであった、町長へ賄賂として贈られるはずの品だったからだ。
「お気に召していただけたかしら?」
三人はほぼ同時に考えた。敵に回してはいけないタイプかもしれない、と。




