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明星、凰彩  作者: 鸛那
間章
13/15

翠栞 第二頁

 

「何なんだいったい…」


 氷暉は呆然として言った。


 ――羽奏宮の午後のこと。

 氷暉のようやく慣れてきた静かな仮住まいに、突然四人の人物が押し掛けてきた。

 中には見慣れた顔も混じっている。だが、氷暉は動揺を隠せなかった。


「――何なんだいったい…」


 そのうちの二人は少女だった。

 淡い髪の方は庭に散った紅葉を広い集め、黒髪の方は木に登り…。

 付き添いと思われる大人二人は、氷暉の侍従に出させただろう香花茶を前にして、楽しそうに雑談している。


 ――皆完全にくつろいでいる。


 不意に顔見知り……この状況を引き起こした真犯人が振り返り氷暉に軽く手を挙げた。


「邪魔してるぞ」


 屈託のない笑顔である。

 氷暉は思わず許してしまいそうになったが、すんでのところで自らを取り戻した。


「……朱鳳。この状況を分かりやすく説明しろ」

「いや、待て。夏維かいが香花茶を飲んだらな」


 緋凰は親指を、香花茶とにらみ合いをしている人物に向けて肩をすくめた。


「えぇ!?僕ですか?」


 新顔(夏維といったか?)に話が振られ、彼は戸惑ったように声を上げた。精悍な顔に渋い表情が浮かんでいる。


 ――こいつは絶対に香花茶を飲まない、いや飲めない。


 さっきから見ていたが、夏維は数回においをかいだ後、茶器を手にしたまま一度も口をつけていないのだ。


 香花茶はその特徴的な風味から好みが分かれる。原産地の晨にも、苦いので嫌いだという者が多くいる。


 ――いつまで待たされるのか知れたもんじゃない。


 氷暉はもともと気が長いわけではない。

 苛立ちが勝った。


「…朱鳳、いい加減にしろ」


 冷ややかに言い放って状況の説明を受けようとしたその時――。




 ばきっ、どさっ。


「……いったぁ」


 木からまぬけに少女が降ってきた。




「何なんだいったい…」


 氷暉はそうつぶやかざるを得なかった。




 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 再び翠蘭です。


 なぜか今、私たちは星の離宮・羽奏宮に来ています。


 緋凰は城下に行くと言ったのに……。


「城下=羽奏宮」という構図が緋凰の頭の中にはあるようなのです。


 それが何故なのか私には分かりません。

この謎めいた緋凰の過去に関わることだとは薄々勘づいているのですが……。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「き、金蓮!?」

「おい、大丈夫か!?」

「金蓮さまぁぁあ!」


 私たち三人は、木から落ちた金蓮の元へ口々に駆け寄りました。


 ――だから危ないと言ったのに。


 金蓮はさらに高い枝に登ろうとしたのです。高い枝は大抵細いでしょう?かわいそうだけど自業自得。

私は金蓮に手をさしのべました。


「金蓮、怪我はない?」

「うん。大丈夫……でも」


金蓮はしゅんとしています。


「楓の枝を折ってしまったわ。綺麗だったのに……」


金蓮は折れた枝を慈しむようにそっと撫でます。自分のしてしまったことに罪悪感を感じているようです。


「……折れたものは仕方がない。怪我がないなら幸いだ」


後ろから声がしました。

澄んだ声色。


振り返ってみると凛々しい青年が立っていました。


このお方が――晨の氷暉さま……。


私は一瞬で分かりました。

全身に纏った雰囲気がこのお方がただ者ではないことを知らせています。


漆黒の瞳がとても美しいのです。

なぜだか胸の奥がざわりと揺らめきました。


「金蓮。そう言ってくださってるわ。……本当にごめんなさい」

「ご、ごめんなさい!……ってあなただぁれ?ここの管理人か何かなの?」


これにはがっくりきました。

管理人って、金蓮……。


国勢に疎いのもいい加減にしてほしいです。金蓮は第一公主。皇子がいないお父様の跡をいずれは継がなくてはならないのです。


「…く…っっ……」


氷暉さまは声を押し殺して笑っておられました。とても楽しそう。

私はその子どものような表情に見とれながらも、穴があったら入りたい心境でした。


「これはいい……。皇子が管理人か」


緋凰も笑っています。

そして夏維も。



羽奏宮はしばし、笑いに包まれました。




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