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明星、凰彩  作者: 鸛那
一章
10/15

第八話 三人会議

 

 刹州州府の、とある一室――


 ここでは『密命』を受けた三人、史晏、荊冥、嫣心による、話し合いが行われていた。



「それにしても、和睦交渉なんて今更だろう。のこのこ晨に行くなんて閣下は馬鹿じゃないのか?閣下らしくない」


 仮にも上司である緋凰に対して問題発言をし、素直に首をかしげた荊冥に、史晏は苦笑いを浮かべた。


「馬鹿って荊冥……。ええと、それで護衛の数が制限されて、案内人が付くってことだけど」

「案内人?」

「えぇ。ちなみに旺将軍だって書いてあったわよね?」


 それに対し荊冥は驚愕の表情を浮かべた。


「旺将軍……それって旺濤覇のことか!?」


 ――旺濤覇。


 彼は先の晨との戦の際、星に大いに名をとどろかせた若手の敵将軍だった。

 三人とも、実際に会ったことはなく、噂でしか知らないのが現状だが、それでもその名を記憶していた。

 彼の現れるところでは、『星軍撤退』の指示が相次いだという。

 見た目は痩躯の優男、というが、それも本当かどうかわかったものではない。彼の指揮を見る限り、虎のような猛将のようにしか思えないないからだ。




「うん、『今話題の晨の旺将軍』って言ったら彼しかいないよね」


 史晏はさらっと断言する。


「私も初めは疑ったわ。確かに、将軍が来ることもないと思う……」


 嫣心は、晨王の指示、旺濤覇を案内人に選んだこと――に疑念を抱いていた。

 一国の将軍を寄越すのには何か理由がある、そう思っているのだ。


 考えられることとしては、晨が安全な交渉を保障するという意思の表明、または――。


「旺濤覇は道中お姫を殺すつもりなのかな?」

「まさか!そんなことはないだろう。なぁ、嫣心?」

「……いいえ、そうとも言い切れないわ」


 もう一つの考えられること――。

 それは濤覇が人気(ひとけ)の少ない道中に丞相・朱鳳を切り捨てるよう指示されていることだった。


 荊冥は椅子をがたりと鳴らして立ち上がった。


「なんだと!?では、閣下の御身は!?なんだ、史晏。お前、この間『愛しの姫』とかぬかしていたではないか。守りに行かなくて良いのか?」

「違うよ、荊冥。『麗しの姫』さ」


 史晏は荊冥の記憶違いを指摘した。

 そして、嫣心は不意を突かれたようにふき出した。


 荊冥に『愛しの姫』だなんて似合わなさすぎる。堅物が『愛しの姫』って……。


「何でもいい!おい、嫣心。笑っておらず、何か言ったらどうだ!」


 荊冥は史晏から目をそらすと嫣心に向き直る。

 だが、嫣心はよほど面白かったのか肩を震わせてまだ笑っていた。


 なんだこいつらは、と荊冥はため息をついた。大事な人の命がかかっているというのに……。


 すると、史晏がいつになくまじめな声で


「荊冥、僕らのお姫は頭だけじゃない。武芸も人一倍優れているって君も知っているだろう?」


 と諭した。


「……そうよ。夏維だってついてる。夏維は緋凰様のお側を離れたりはしない、大丈夫だわ」


 嫣心は笑みにゆるんだ頬を必死に引き上げながら真剣な表情を作った。


「そうか。夏維がいるんだったな……」


 夏維――劉 夏維(りゅう かい)もまた、緋凰のみに仕える直属の護衛官だ。

 三人の弟分のような彼は、ある日、緋凰に拾われてきた。雨と泥でぐしゃぐしゃになった彼を見て皆驚いたものだ。


 夏維は、裏町のゴロツキたちに囲まれていた。『借金取り』という名の憂さ晴らしでもあった。夏維は当時体も小さく、格好の標的だった。

 ちなみに『借金』というのは、夏維の父の悪い酒癖によるものである。


 数々の暴行を受け、本当に夏維が死にかけたところを、颯爽と緋凰が現れ、瞬きする間に数十人、全て床に転がしたのだ。彼は感動し、「いつかこの人の役に立ちたい」と思ったという。


 今、夢叶って、緋凰に付いているわけだが、奔放すぎる緋凰に困り顔でもあった。


 何にせよ、夏維の腕前と気持ちは本物で、史晏、嫣心、そして荊冥も彼を信頼している。

 それを思い出し、荊冥は口をつぐんだ。



「それはそうと、密命の話!本来の目的よ」


 嫣心は話を切り替えた。三人の間に、きりっとした雰囲気が漂う。


「そうだったな。で、内容は何なんだ?」


 問う荊冥。

 そして続いた史晏の言葉にまたもや驚愕させられるのであった。


「――いいかい?言うよ?」




 庭のもみじがざわりと音を立てた。それは三人にとって試練の始まりの音であったのかもしれない。


 史晏の唇が動いた。



 ――――(こん)王と(しょう)王を説き伏せること。星・昏・昌の三国で同盟を組むんだ……


 と。


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