お家騒動とメイドとタイツ2
「お呼びして申し訳ありません、狭いですが立っているよりはいいでしょうお座りください」
妙に腰が低いよな、このお貴族様。もっとこう下々の者のことは気にしない感じのを予想してたんだがなぁ。こういうものなのだろうか。
「それでは、失礼いたします」
馬車の中へ自分の後に変態と隊長さんが続く。変態はさも当然のことのように狭い通路で逆立ちしてスカートの中を覗いてくる。
「・・・早速ですが、本題に入らせていただきます」
あ、変態はスルーするんだ。隊長さんも見なかった事にするようだ。これが大人というものか。
「お恥ずかしい話なのですが、このたびの襲撃は身内・・・私の弟が計画した可能性が高いのです」
「・・・私たちにお話しされた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか・・・?」
うわぁぁヤダヤダ予感的中だよ!面倒事を押し付ける気だよこのイケメンお貴族様!
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メイドと変態が呼ばれる数刻前。
「今回の襲撃、どう考えています?」
「はっ!、計画的に実行された襲撃と考えています!」
「そんなに硬くならなくていいよ、逆に話にくくて困るかな?、そして私も同じ考えだ。実力も父上直属の部隊並みに高いように見えた」
「はい、部下たちもそのように感じているはずです。装備も偽装こそされておりましたが、規格化されたものであり、我々よりも質の高いものでした」
「あのメイド・・・モードさん達のことはどのように考えていますか?」
「はい、初めはこのたびの襲撃を偽装に我々に恩を売り、懐に入り込むことを計画していたのではないかと考えましたが、精鋭を犠牲にする割りにはひどく成功確率が低く得られる成果が低すぎます。よってこのたびの襲撃とは無関係であると考えます。しかしながらあれほどの実力の者が2人、偶然にも同時に現れ我々とキャラバンを同時に救う。余りにも出来すぎております。警戒は必須でしょう」
「そうですね・・・しかしあの力、特にあの回復魔法は魅力的です。どうにか引き込みたいものですが、現時点ではリスクが高すぎますね。あの2人に対して全く情報がない。あれほどの実力に外見的特徴、話題に上がらないはずがありません。まるで突然湧いて出たようです」
確信を突くアレックであった・・・。
「・・・決めた!あの二人を引き込む。あの力はリスクを負ってでも手に入れたい。2人を呼んできてください」
「・・・よろしいのですか?」
「あの2人がその気であれば、すぐにでも我々を殲滅可能でしょう。それに、殺したいのであれば助けに入らずに見ていればよかったのです。何もせずに我々を全滅させることが出来たのですから」
それに、彼女達は見ていて面白い。何より美人だ。男としては外せないんじゃないかな?
一呼吸入れ、さらに告げる。
「それと、こたびの襲撃は弟によるものでしょう」
「アレック様・・・!」
手をかざし制止する
「状況証拠しかありませんが、実行犯は隣のユール侯爵領の者達でしょう。しかし、彼らが精鋭を使ってまで私を殺しに来るメリットはありません。我が領地に混乱が起こればユール侯爵家も困るのです」
ユール侯爵領はストーク公爵領と友好的な交易関係にある。また他国と国境を隣接しており未開の<黒の森>まで抱えている。黒の森はモンスターから取れる素材や魔石などの資源を生みはするが、モンスターからの襲撃など潜在的な脅威に常に晒されることになる。そのため、国から多くの支援、特にストーク公爵領から多くの支援が行われている。だが、あれだけの集団を送り込むことができるのはこのユール侯爵領だけなのだ。
「ですが、混乱を直ちに収める用意がありユール侯爵領にとって、リスクを飲み込むだけのメリットが提示される。それを提示できるのは、父上か弟だけとなります。しかし父上に私を殺害する動機がありません」
「私に話す事すら憚られる内容ですが、彼女達にもお話になられるおつもりですか?」
「そのつもりです」
「・・・かしこまりました。彼らを呼んできます」
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このたびの襲撃についてあらましを聞かされる。聞きたくなかった。どうにか無関係・・・は無理でも無理難題を押し付けられないように回避したい・・・!でも対人能力というか交渉力の低い自分にそんなことができるのか・・・。どうする!どうする・・・!
「襲撃に失敗したと知れば弟は、次の手を打ってくるでしょう。しかしこのたびの襲撃は必殺の布陣だったはずです。そのため打てる手は多くありません。そのため、最悪の手を、領内で内乱が起こる可能性もあります。ことは迅速処理しなければなりません。どうか、あなた達のお力を貸していただけませんか?」
「私は、もう一度人を殺さなくてはならなくなるのですか・・・?」
「・・・その可能性は極めて高いでしょう」
今女だし女の武器とやらを使ってみよう。顔を見られるとバレるだろう。眼鏡をはずし顔を手で覆い俯く。
「私は、今日初めて人を殺しました。私が人を全力で人を殴ると、人を即死させることができることを知りました。とんだ化物ですね・・・」
自嘲気味に笑ってしまう。演技のつもりなんだがなぁ・・・。
「ここで止まれなかったら、私は本当の化物になってしまいます。盗賊達を殺すとき何も感じなかったのです。私は化物になってしまったのだと・・・ずっと怖かったのです。隠すつもりだった回復魔法まで使って、人を助けられる(人間)だと思いたかった・・・!私は・・・化物じゃないって・・・!」
隠すつもりも、自重するつもりもなかったけど、最後の言葉はたぶん自分の本音なんだろうなぁ。何の感ので始めての殺人は結構堪えたようだ。話した時に涙が出てしまった。恥ずかしい。いい年して泣いてしまった。中の人はおっさんなんだぜ・・・。しかも自己保身に演技・・・嘘を言っているという罪悪感が半端ない。やめときゃよかった・・・。
なんかメイドがかわいい。おっさんなのに。
変態が空気。