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行商人の娘と変態タイツ

 

 日増しに高くなる気温、夏の到来を予感させる。通り慣れた街道を気の知れた仲間たちと共に商品を運ぶ。何度も繰り返し、いつもと変わらない日常。今日もそうであると勝手に何の根拠もなくそう思っていた。もはや専属と言ってもいい護衛のハンターと隣街に着いたら何を食べるか話し合っていた。肉に齧り付くことを必死に説いていたハンターが急に沈黙する。


「囲まれた」


 その一言に先ほどまでとは違う汗が流れる。女である私はすぐに荷馬車の奥に隠れる。何故この街道で襲われる?この街道は領主の納める街の主要街道だ。定期的に騎士団による山狩りも行われており、この国でも有数の安全な街道のはずなのに。盗賊は何を考えてこの街道で盗賊行為を行うのだろうか。この街道で盗賊行為を行えば騎士団がすぐさま山狩りを行うはずだ。逃げおおせる筈もない。


「武器を捨てて投降しろ。さもなくば殲滅する」


 『殺す』ではない『殲滅する』と言った。嫌な予感がする。隠れているため今どのように状況が推移しているかがわからない。きっと父と護衛のハンターが盗賊と交渉を行っているはずだ。最悪荷物、いや荷馬車ごと差し出さねばならないかもしれない。だが死ぬよりはいいだろう。運が良ければ騎士団によって幾何かの積み荷を回収してもらえるかもしれない。兎に角生きてさえいればチャンスは巡ってくるものだ。幸い領主様は行商人に厚い政策を立ててくれている。いきなり身の破滅ということはないだろう。だが私の見通しは甘かったようだ。盗賊達の指示に従い街道を外れ森の中に入っていく。それほどの時間はたっていないはずだというのにもう何日も荷馬車に隠れているという錯覚をする。


「出てこい」


 短いが有無を言わせない口調。大人しく荷馬車を出る。10人程だろうか。中規模な盗賊集団。だが、何かがおかしい。盗賊を見慣れているわけではない。いや、それどころか一度だって見たことはない。だが何かがおかしい、それくらいは小娘の私にでもわかる。


「拘束しろ」


 リーダー格と思われる男が短く命令する。この集団はとにかく静かだ。そして無駄がない。一か所に集められた私達は目隠しをされ恐怖に身を寄せ合うことしかできない。


「撤収開始まで交代で休憩に入れ。休憩時にはそこの娘を犯してもかまわないが、作戦に支障を来たさない様にしろ」


 最悪の展開だろう。父が何かを叫ぼうとしたようだが、叫ぶ前に鈍い音が響く。見張りのものに殴られたようだ。目隠しをされて何も見えない恐怖、これから訪れるであろう我が身の不幸に涙が出てくる。


「い、いや・・・」


 強引に服を脱がされる。いや、破かれるだろうか。どちらにせよ同じだ。誰か助けて・・・。何もかもを諦めようとしたとき奇声が響く。


「ほああああああ!」

「モンスターか!臨戦態勢!迎撃しろ!」


 何も見えはしないが戦闘が始まったようだ。この機に逃げ出そうと起き上がろうとする。体に力が入らない。腰が抜けてしまったのだろう。悔しさに涙が出る。


「なんだこいつ!化物め!」


 あれほど静かで冷静だった盗賊達が焦り、叫んでいる。それほど危険なモンスターが現れたのだろうか。


「ほあちゃー!」

「うおおおおおおおおお!」


 雄たけびの後に訪れる沈黙。血の匂いがする。あれほどの集団が全滅してしまったのだろうか。次は私達だろう。盗賊達は因果応報だろうが、私達は何も悪いことはしていない。なぜ殺さなくてはならないのだろうか。悔しくてたまらない。


「う、うああああああぁぁ」


 情けなく泣き出してしまう。私が泣いている間にもモンスターは私たちのほうへ近づいてくる。私の顔のすぐ近くで立ち止まる。そして私の目隠しを外す。そっと丁寧に。


「ほう?」


 よくわからない声に閉じていた目を開く。そこには真っ黒な・・・真っ黒な何だろう。真っ黒な何かが私の視界に広がる。目を開けたことを確認するとそれは私から少し離れる。真っ黒な人型が首をかしげる。そして私を縛っていた縄を引き千切った。


「な・・・!?」


 なんという力だろうか。そして、急に飛び上がり私の足元に着地。寝そべるように私を足元から見上げる。露わになっていた私の下半身を凝視しているようだ・・・。


「うっほほーい!うっほほーい!」


 奇声を上げるモンスター・・・いや変態。たぶん目の前のこれはモンスターではなく、黒ずくめの変態なんだろうということを理解する。そして命の恩人だ。


「ほほーう!ほほーう!」


 だが変態だ。何とか立ち上がり可能な限り身なりを整え、感謝の言葉を言う。


「変態!」


 違う。違わないが違う、曲がりなりにも命の恩人なのだ。礼を・・・礼をしなくては。でも変態なのだ。私がひどく混乱しているときに横から声が聞こえる。


「何が起きている!助けが来たのか!」


 そうだ、すっかり忘れてた。ようやく父と仲間達の存在を思い出す。


「助けてくださりありがとうございます。そして変態呼ばわりをしてしまいすみません。お許しください」


 そしてもう一つ思い出す。目の前の変態は10人以上からなる盗賊達を1人で殲滅したのだということを。ここで機嫌を損ねてしまうとせっかく拾った命を捨てることになる。


「ほうほう」


 腕を振り否定の動作のようなことをする。気にするなということだろうか?意外に気のいい人なのかもしれない。変態だが。父と仲間達の目隠しと拘束を解く。はじめこそ驚いてはいたが、そこは商人。すぐに切り替えてそれぞれが礼を述べる。だが当の本人は街道を凝視しこちらに反応しない。訝しんでいたところ急にこちらを振り返り叫ぶ!


「ほーいほいっ!」


地面を指さし座り込む。この動作を何度も繰り返す。


「ここで待っていろということですか?」


 肯定と思われる動作をする。合っていたようだ。理由を聞きたいところではあるが聞いたところでたぶんわからないだろう。素直に聞き入れることにした。


「わかりましたお待ちしております」


返事を聞くやものすごいスピードでここを去っていく。


「なんだったんだ・・・?」


父が疑問の声を上げる。


私が聞きたい。







 

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