メイドの回復魔法
「うっひょーーー!」
沈黙を破った奇声に、騎士団は即座に臨戦態勢に入り、団長と思われる騎士が出した指示に即応する騎士団。自分も騎士団に習い臨戦態勢に入る。
まずい・・・あれはまずい。濃厚な強者の気配。先ほどの盗賊や騎士団とは比べ物にならないほどの力を感じる。騎士団とは違い黒い影を凝視する。頭に両手を重ね、腰を左右に振るその姿はまさに・・・変態のそれに見えるな・・・?
既視感・・・自分はこいつを知っている。あ、こいつゲームの中で自分のキャラクターの周りをうろうろしたりスカートの中をのぞいてた奴じゃないか・・・?
(変態腰ふりタイツの犯人)ゲーム内の有名人というか、名物プレイヤー。次々に追加されるエンドコンテンツにソロで挑み、並みいるMMO廃人とランカー争いをしている化物。何より有名なのがコラボイベントで配布された(犯人の影装備)を装備し、PC、NPC問わず女性キャラクターの周りを徘徊し奇声とあらゆるモーションでセクハラ仕掛ける変態である。
あの頭痛に襲われる前に自分のキャラクターの下で地面に寝そべり、スカートの中を堂々と覗いていた。たぶん一緒に巻き込まれたんだろうなぁ。もしくは自分が巻き込まれたか。そんなことを考えていたら騎士団が戦闘に突入しようとしてた。まずい!あれと敵対してはまずい!PVPですら無類の強さを誇っていたのだ勝てる筈がない、止めなくては!
「やめろ!それと敵対するな!全滅するぞ!」
騎士団の人たちが自分の制止を聞き入れてくれてほっとする。
「お前は・・・変態腰ふりタイツの犯人だな・・・?」
自分の確認に肯定を見せる変態。そしてどうやら自分達をどこかに連れていきたいようだ。腰を振りながら全身で手招き(?)をする。
「ついてきてほしい場所があるのか?」
「うひょひょひょ!」
頭を上下に振り肯定を示す変態。害意ないことに一先ず安心する。
「了解した。その前に負傷している人に回復魔法をかけたいんだが待ってもらえるか?」
「ほほほほーい!」
「騎士団の皆さん、武器を納めていただけませんか?自分は回復魔法が使えますので、負傷者の手当を手伝っていただきたいのですが」
葛藤する騎士団の皆さん。スカートの中を覗いている変態。松明と月明りだけしかないが、スカートの中なんて確認できるのか?この変態ならできるかもしれない。
「負傷者の回復をお願いいたします。ええっと、メイドさん?」
沈黙を破ったのは護衛対象と思われる青年。イケメンである。そういえばまだ名乗ってなかった気がする。
「この者たちを信用するのですか?」
「今更ですね。疑念はわかりますが今は人命を優先しましょう。それに命の恩人です、これ以上非礼を重ねるわけにはいきません」
「かしこまりました。おい!負傷者を集めろ!」
話の分かるイケメンだな。取りあえず名乗ろうと思うがなんと名乗ろう。ゲーム内のキャラクターネームか、本名か。・・・。本名はないわ。
「始めまして、モードと申します。姓はありません。今スカートを覗いているのはハンニンと言います」
ついでに下の変態も紹介しておく。こいつは本当にハンニンというプレイヤーネームでゲームをしていたのだ。
「お二人はお知り合いなのですか?」
「自分が一方的に知っているだけです。その・・・有名な人間なので。変態的ではありますが人に害を与えたりはしませんので、一先ず安心いただければと思います」
「ありがとうございます。あなたの活躍により命を救われました。また、我々の無礼な態度お詫びいたします。そして厚かましいお願いではありますが、負傷者のことをお願いいたします」
頭を下げられてしまった。たぶんお貴族様だよね。騎士団の皆さんが呆気にとられてますよ。
「頭を上げてください、彼らは彼らの職務に忠実だっただけです。それに好きでやっていることです余りお気になさらずに」
「負傷者の回収が終わりました!」
堅苦しい話は苦手なので、逃げるように負傷者のもとへ駆け寄る。改めて見るとひどいな。よく生きている。腕を欠損している者もいるではないか。よし、気合い入れて回復しますか!ようやくヒーラー職らしい仕事ができる!デッキブラシを彼らに向けて範囲回復魔法を重ねていく。この時点で裂傷や骨折などは治癒してしまう。現代医療も真っ青な回復力である。欠損がある人には個別に回復魔法を重ねていく。うわぁ、腕が生えてきた・・・。生えてきた・・・!
「腕が・・・生えてきた・・・」
と、騎士の方が自分の身に起きている事象に恐れ戦いている。自分もビビってる。周りの人たちもドン引きである。変態は自分の首あたりをクンカクンカしてる。ぶれないな、こいつ。
「終わりかな?まだ負傷されている方がいらっしゃれば遠慮なく申し出てください!」
「先ほどの回復魔法ですべてのものが回復しました。先ほどの無礼誠に申し訳ない!
そして部下の命を救っていただきありがとう。受けた恩は必ず返す・・・!」
隊長さんお前もか。悪い気はしないけど、大の大人が泣かないでいただきたい反応しずらい。こちとら彼女も友達もいないのだ。対人能力が低いので対応に困る。
「お気になさらずに。恩というのであれば、一緒についてきていただけませんか?彼がいるので危険はないと思いますが、一人で行くには少々心もとありません」
「そんなことであればいくらでも!よろしいですか、アレック様」
「許可する、5名ほど連れて行ってください。このご恩は必ずお返しいたします。我が家名にかけても」
お貴族様はアレックという名前らしい。静かに語ってはいるが強い意志を感じる。曖昧に笑って誤魔化すことしかできない自分とは大違いだ。
「うっひょー!」
奇声を上げて先を促す変態。この空気を換えてくれたことには感謝しよう。変態の後をぞろぞろとついて・・・はえーな!?変態の移動速度がやばい。走っていなのに早い。なんだこれ、キモイ。どんな移動方法だ!取りあえず走って付いていく。人間離れした身体能力があるおかげでそれほ苦労はしないが夜の森をこの速度で移動するのは少々怖い。