頭痛から始まる異世界転生
「ぬぉおああああああああああああ!!」
突然の痛みにより思わず叫んでしまう。
頭痛、今の体と前の体の記憶のすり合わせ。それは、不整合を許さぬための痛みか、不整合を正すための痛みか。
だが、痛みによるパニックとは裏腹に、自分が置かれた状況への理解は知らぬ筈の知識と記憶によりもたらされる。そしてもたらされたその知識と記憶は、己が体について理解が及ぶまでこの頭痛が続くことを語る。
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どれほどの時間が流れたのかはわからない。恐らくそれほど長い時間は流れていないはず。
自分があれほどの痛みを前に、長い時間耐えられるほどに強くないことは十分に理解している。頭を振りながら痛みの余韻っとともに立ち上がる。周りと、自分を見る余裕が生まれた。
先ほどまで自室のパソコンを前に座っていたはずだった。・・・はずだったが、自分が今いるのは見知らぬ森の中のようだ。日は傾きつつある。そして自分の今の格好は、
「めっさメイド服ー」
ひらひらのエプロンドレスに赤縁メガネ、黒のパンプス。スカートをめくり中を確認すると
「黒のおパンツにガーターベルト」
エロい。とりあえずさらに中を確認する。何処をか・・・男なら言わなくてもわかるはず。
「髪の毛と同じ色なのかな?」
緑色だった。つるつるではない。おっぱいも大きい。取りあえずもんでおく。
あの頭痛に襲われる前までプレイしていたMMORPGのアバター。MMO転生来たのかな?と疑問に思うが、状況と魔法、戦闘に関する知識が間違いではないことを保証する。
ヒーラー職をメインとして育てた魔法職のキャラクター。
メイド服からあふれ出る力。頭痛により得た記憶から、ゲームと同じようにメイド服にエンチャントがなされていることがわかる。エンドコンテンツで手に入れた装備を結晶化、自分の好みの装備に付与を行う。強い弱いの差はあれどプレイヤーのほぼすべてが行っていたであろう行為。
「・・・召喚」
手元に現れるデッキブラシ。元はレアドロップアイテムを死ぬほどつぎ込んだ両手持ちの魔術スタッフ。
システム的な理由なのかは不明だが、防具と違い武器は結晶化からのエンチャントを行うことができなかった。そのため、武器の見た目を変更するには別の武器を投影するというプロセスが発生した。おかげでゲーム開始直後は混乱してしまい運営に不具合報告をし、返信にて丁寧に仕様を説明されるという赤っ恥をかいてしまった・・・。
ともあれゲーム同様、虚空より装備のあれこれを取り出すことができることを確認できた。転生物のお約束。
突然置かれた状況に不安はあるが、高揚感もあることは確かではある。
「まずは人里を目指そう・・・。」
幸い道のようなものが遠目ではあるが確認できた。武器・・・デッキブラシ同様虚空より料理素材のリンゴを取り出し、リンゴをかじりながら自分の身体能力と魔法を試してみる。
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「なんだか騒がしいな・・・」
街道?を目指し歩き、日が沈み始めたころに怒声と金属と金属がぶつかったような音が聞こえてきた。いや、まさしく金属と金属がぶつかり合う音であった。
「近い・・・」
「盗賊を馬車に近づけるな!」
あ、お約束っぽいイベントが発生してる。
恐らく街道からの音。聞こえる戦闘音に向けて真直ぐ走る。やるしかない。このイベントをこなさずして何が異世界転生だろうか!
「見えた!」
隊長と思われる甲冑を着た騎士が懸命に指揮を執っているが盗賊側が優勢。盗賊側の動きのほうが洗練されている。おまけに多勢に無勢。騎士さんたち情けないな・・・。いざ戦闘に介入しようと思うと躊躇してしまう。魔法という現代日本には存在しえなかった力に興奮し後先考えずに行動した自分の愚かさに腹が立ったが今更止まることもできず、勢いのまま叫ぶ。
「加勢する!」
走った勢いのまま馬車に取りつこうとしていた盗賊の顔面を殴りつけ、断末魔を上げることなく盗賊は頭を陥没させそのまま吹き飛び絶命する。
「「「な・・・!?」」」
自分と騎士、盗賊が素っ頓狂な声を上げる。あれ、自分ってキャスター、しかもヒーラー職だよね?そんな的外れなことを思いながら騎士に向かって叫ぶ。
「魔法で盗賊達をこのまま殲滅する!」
まともに殴り合いもしたことのないに現代日本人の自分に、頭痛により得た記憶と知識は遅滞なく戦闘を続行させる。デッキブラシを召喚しそのまま風の刃を発生させる。
突然のことに混乱する騎士と盗賊にかまうことなく次々と風の刃を生み出し盗賊へとその殺意をぶつけていく。次々と血飛沫を上げて倒れていく仲間を見て、我に返ったのか盗賊達が自分に向けてその矛先を向ける。
初めての戦闘に、初めての殺人にもかかわらず、自分は冷静に次の一手を考えている。自分に向けられる殺意を物ともせずに。冷静に冷たく、相手を効率よく安全に殺すことを考える。
自分が狂ってしまったのではないかという恐怖すら飲み込んで、迫りくる脅威に対抗する。
盗賊達だけではなく、騎士達との戦闘すら考慮し戦闘を継続する。
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途中逃亡しようとする盗賊を騎士達が捕らえ、戦闘がようやく終息するころには日は完全に沈み月明かりと松明の火だけがあたりを照らしていた。
「加勢に感謝する!そして、何者だ・・・!」
指揮を執っていた騎士が叫ぶと同時に剣を向けらる。
戦闘時はあれほど冷静だったのに狼狽え、口を開けることするできないほど緊張してしまう。
何か話さなければと焦れば焦るほどに、言葉が出てこなくなる。
長い沈黙の後にようやく吐き出すことのできた言葉は・・・
「通りすがりのメイド好きです」
「・・・。」
訪れた沈黙がつらい。
自分の発した言葉に思わず突っ込みを入れそうになる。
誰か助けて・・・。
R18で間違って投稿してた・・・