第九話 初めての戦闘
村正を手に入れ、アーサー達を誘って狩りに出た。
別に狩りと言っても何かを狩って必要なものを手に入れる訳でもないが、魔物を狩るので狩りなのだ。RPGで何でわざわざ狩場に行くのかと同じだ。戦闘技術を磨いたり、レベルを上げたりするのだ。
今の場合は戦闘技術を磨く事になる。
「で、アーサー、フェンリル。何処に何がいるのか全然わからないんだけど・・・・・」
僕は何でか森の中を彷徨っていた。
魔物もこの辺りでてこない為、何の目的もなくさまよっているのと変わらない。
「と、言われても主よ。この辺りは主に危険が及ばぬ様に粗方狩ってしまったからな」
「そうです。私とアーサーで殆ど消してしまいましたから」
やっぱりそうか。
さっきから魔物を見かけないと思ったよ。数時間しかたっていないのに。
そろそろ日が暮れかけて夕方になってきた。魔術も使えないし、夜に動くのは危険だろう。主に転んだり。
「じゃあ、今日狩るのは諦めるか。そう言えば、殺した魔物達はどうしたんだ?」
僕は魔物を殺す時を何度も見た。今日1日だけで地球だと一生分生き物の生き死にを見た気がする。
最初の一回はアーサーが綺麗に消した為、魔物は殺したら消えるのかと思ったが、フェンリルが殺した時はそうではなかった。あれは、アーサーの、というか聖剣の力らしい。
つまり、何が言いたいのかと言えば、死んだ魔物は死体が残るため、その死体をどうしたのかということだ。
「ご安心を。主人様。私が全て残らず処理致しました」
「具体的には?」
「喰いました」
「あっ・・・そう・・・・・」
・・・そうなんだ。
確かにフェンリルは大きいし、神話でもオーディン食ったとか言っているし。でも、狼ってだけでなんか犬っぽいし(実際には違うけど)。何となくそんな事しないって思ってしまった。狼だからそういうのが普通なのに。
「っ!!」
僕がそんなことを考えている時。
フェンリルが突如飛んだ。
その巨体が動けば嫌でも気づく。巨体は風を切りながら、元いた場所から少し離れた場所へと移動した。
フェンリルが元いた場所には・・・白い蛇がいた。
その蛇は白が反射しそうなほど綺麗であり、現在は夕暮れなので木の隙間から入る光に所々赤く光っている。
だが、そんな森で目立ちそうな見た目の割に存在感がない。いや、無さすぎる。
そんな特徴を持つ蛇を僕は鑑定する。
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【姿隠す蛇】
森などに生息する凶悪な蛇。
その姿は白く綺麗ではあるが、蛇がその身を隠そうと思えば簡単には見つからない。
死角からの攻撃で獲物を牙の毒を使い一撃で仕留め、巣に運んで捕食する。
気配を消すのはスキルである為、それを破るスキルを持っていれば発見も簡単。
階級は上級
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と、ダジャレの様な名前だが恐ろしい魔物の様だ。
「主人様。奴は危険です。私でも全く気付きませんでした。流石に初陣にあれは無理です。別のを探しましょう」
フェンリルがそう言う。
それで僕は考える。確かにフェンリルでも気付かなかったのであれば僕ならそのまま殺されてもおかしくない。
だが、あの蛇は逃げない。何故だろう。考えられる事は幾つかある。
一つは勝機があると思っていること。だがこれは流石にないだろう。死角からの一撃が失敗して、フェンリル達の力量が分からないはずがない。上級では負けるのがオチである。
二つ目は戦う気でこちらの出方を窺っている。これも前と同じ理由で違うだろう。
三つ目。これが僕が悩んでいる理由。気配消す力は気付かれたら意味がないのではないかという事。ここはゲームの様な世界だと神は言っていた。ならばゲームでは弱点がある。もしかしたらこちらにクリアさせない様にチートよりもっとチートな奴がいるかもしれないが、こんな雑魚ぐらい弱点の一つや二つあるだろう。そうでなければ、上級程度であるはずがない。
そう考え僕は戦うことを決める。
それに、村正があるのだから勝てると思って。負けることを微塵も疑わずに。
「僕が戦う。僕は死にかけるくらいまでは手を出すな」
「で、ですが!!主人様!!」
「手を出すな」
止めようとしたフェンリルにもう一度念を押し、僕は刀を抜いて前に進む。蛇との距離を詰める。
ああ、もう、こんな雑魚などすぐに殺せそうだ。
この時、フェンリル達には黒透がいつもと全く違って見えた。雰囲気が、はたから見れば危ないものになっていた。よく言って戦闘狂のように。
そして、与えられるプレッシャーもアーサー達が怯えるほど強くなっていった。
そんなプレッシャーを与えられた【姿隠す蛇】は、自分の能力も忘れて木を這い上がり、一目散に逃げ出す。
だが、蛇へと近づく死神は、逃げることを良しとしなかった。
黒透は走った。蛇が逃げようとしたからだ。
村正を抜いたことにより、身体能力が大幅に上がっていた為、その走る速さは其れこそ風の如くであった。
その為、すぐに蛇が木を登っている途中に追いつき、蛇に妖刀を突きつけた。
だが蛇は間一髪でそれを避け、刀に巻きつき黒透を噛もうとした。その蛇の判断は基本的には正しくもあり、間違ってもいたのだろう。
どうせ逃げても追いつかれると思って一矢報いようとしたのだろう。死ぬ前提であれば、万が一、億が一の可能性にかけようとしたほうがよかったかもしれない。
でも、死ぬ可能性は恐ろしく高いのだからせめて一矢報いてから死ぬ方が良かったと思ったのかもしれない。
未来は無数の可能性に満ちており、未来は誰にも分からない。もしかしたら、その瞬間隕石が落ちるかもしれない。ビックバンが発生するかもしれない。手が通り抜けるかもしれない。そんな無数の可能性がある。
未来は分からない。だから、せめて一矢報いる可能性に賭けたのだろう。あわよくば相打ちを狙って。
だが、ここは逃げるべきだった。もっとタイミングを計るべきだった。もしかしたら、同じ結果になるかもしれないが、それでも今は逃げるべきだった。今は死ぬ確率がゼロであったから。
蛇は巻きつき、黒透を噛もうとする。だが、黒透は、ただ、刀を動かすだけで蛇の命を刈り取った。
蛇は、逃げるべきだった。運に身を任せて逃げて、彼がイラつくまで逃げるべきだった。今の彼にはとっさの攻撃でも冷静さを全く失わないのだから。
村正のこの世界で与えられた能力は
1.軽い興奮作用
2.大幅な肉体強化
3.恐ろしい切れ味
です。
恐ろしい切れ味はモ◯ハンで言う。切れ味ゲージの白の上の上くらいのがずーーーーーーーーーっと続いている状態だと思ってくれればいいです。それぐらいチートなので刃こぼれもしません。
あと、別の作品の魔王Jr.への転生も読んでみてください。
http://ncode.syosetu.com/n2277dh/