第二十話 神とは
夜。
待ちに待った声がした。
「主殿。帰ってきたぞい」
オーディンはそう言いながら、空に目を向けた。
僕も、同じように空に目を向ける。
空は夜なので暗いところが多い。
だが、明るい。
星の明るさだ。満天の星空というに相応しい景色だ。
見えるのは、天の川をはじめとする星々である。
その星が、一部、見えなくなった。影がかかったように。
そして、直ぐに見えるようになった。
影のようなものは、移動していた。
二つの、十時に近い影。
それに、オーディンは呼びかける。
「おーい。こっちじゃ。こっちじゃ」
手を振りながら呼びかける。
その影は、オーディンに一直線に向かって行く。
影は、鳥だった。
黒いワタリガラスである。
それは、思考と記憶。オーディンにニュースを届ける鳥たちである。
オーディンは片腕に一羽ずつ乗せ、話を聞く。
鳥たちが話して、オーディンが頷きながら聞いている様だ。
僕には、「カーカー」や、「グワー」としか聞こえない為、よく分からない。
「ふむふむ。そうか。ふむ、よくやった。
主殿。情報を持って来てくれたぞ」
オーディンが聞き終わった為、そう言ってきた。
二羽のカラスは、適当な木に止まっていた。
「で、どうだって?」
僕は地面にあぐらをかきながら、聞いた。
折角だした服が汚れては嫌だと言う精霊達の要望により、敷物の上にあぐらをかいている。
「見つかった。だが、人以外も居った」
オーディンは、そこで一回言葉を切った。
待ってもなかなか再開しない為、僕は聞いた。
「それで?」
オーディンは少し悩むような仕草をしてから、答えた。
「龍が居った」
その答えで、どう反応していいかわからなかった。
龍は、地球では空想上の生物だ。
ゲームのようなこの世界ではいると思っていた(願っていた)が、それがどんなのかもわからない。
「で?その龍が、どうかしたの?」
強いと考えていたオーディンが言うのを戸惑うような感じなので、聞いた。
オーディンは、またも戸惑う様な感じで答えた。
「その龍が、ただの龍であれば、儂も普通に言う。だが、二羽が見つけてきた龍はただの龍ではない」
そこで一拍おき、一番聞きたかった部分を答えた。
「その龍は、神龍だった」
そこは、静寂になった。
聞こえていた者たちは、真剣そうな顔をしている。
静寂を破るべく、僕は言葉を発した。
「神龍って・・・・・・・・・」
僕の言葉に、皆の注目が集まる。
僕は、多くの間をおいて、続く言葉を発した。
「何?」
神龍って何?
それが僕の発した質問だった。
それを聞いた皆は、今までの真剣な顔から打って変わり、ほぐれた様な顔になった。
その光景は、一瞬、僕がばかにされた様な気がした。
「いや、神龍が、神の龍っていう意味なのはわかるよ。
でも、神龍がどんなのかは、全く知らないんだよ」
僕は、せめてと思い、少し弁解した。
オーディンは、真剣な顔に戻ると僕に説明をし始めた。
「神龍と言われるのは、この世界では一匹しか居らん。儂らが知っておるのは、神関係だからじゃ。
神龍は、黄金の鱗と羽を持ち、赤い目をした神々しい龍じゃ。
その力は、儂らを超える」
最後の言葉は、衝撃だった。
予想通りには違いない。
だが、悪い方の予想が、当たった。
最悪かどうかは、分からない。今考えている中で最悪なのは、向こうの数が多く、それが全て敵だと言うことだ。
「神龍が強いのは、分かった。で、神龍の知能は?」
襲ってくるかどうかであれば、まず知能があるかが重要だ。知能がある為に襲ってくることもあるかもしれないが、それでも、基本的には知能があったほうが交渉の可能性があるだろう。
「神龍の知能は、そこらの人間よりある。そして、人に対して好意的じゃ。
儂らが知っとるのは、この位じゃ」
そう言われた。
知能があり、人に対して有効的であることはいい情報だ。
だが、オーディンが知っている情報が少ない。
普通は、こんな情報収集なんて出来ない為、良いことではあるが、もう少し情報が欲しい。
僕が少し悩んでいると、声をかけられた。
「儂が知っとるのは、あの程度じゃが、フギンとムニンが持って来てくれた情報は、まだあるぞい」
声は、オーディンのだった。
僕が、オーディンの方を向けば、笑いながらこちらを見ている。
オーディンの笑いがうつったのか、僕も笑い出した。
「教えてくれ」
僕は、オーディンにそう言った。
言われたオーディンは、一瞬、笑いを深め、すぐに真剣な顔になり、話し始めた。
「戦闘をしていたわけではないので、強さなどは儂より強いということだけしかわからぬ。
が、人となりは、いや、龍となりか?まあ、良いじゃろう。で、分かったのは、まず、人数が、30名ほどじゃ。
これは全員、神龍が拾ってきた者たちじゃ。
神龍の名はわからぬが、拾われた者達には恩人として崇められておる様じゃな。呼び名は龍神様だそうじゃ。
フギンとムニンが話を聞いていた為、半分程の名はわかっておる。そして、聞いた限りでは、主殿より強いのも数人いるそうじゃ」
最後の言葉に、僕は震えた。
怖いからではないと思う。どちらかといえば、好奇心に似た、どれくらい強いのか?それを知りたがっている。
武者震いとでもいう様な感じだ。
バトルジャンキーの様な気持ちだろうか?
「ま、こちらは儂らより弱いので、主殿は守れるじゃろう」
その言葉で安心感と同時に、残念感が出てくる。
「で、何か質問はあるかのう?」
情報が一段落した様だった。
「なあ、神龍って、神なんだよな?」
「ああ。それはもちろんじゃ」
オーディンは直様、頷いて返した。
そしたら、
別の質問が浮かんできた。
それを、オーディンに聞く。
「じゃあ、オーディン達は神か?」
それは、神龍を聞いた時から、聞きたかったこと。
神ってのは、何なのか?
僕らをこの世界に送った奴も、神と名乗っていた。
僕の目の前にいるのは、北欧神話の主神だ。神話の神は、神なのか?
僕が聞きたいのは、そこだ。
「それは、話していなかったのう」
オーディンは、いつもと変わらずに答える。
ほんの少しの間をおいて、オーディンは話し始めた。
「儂らは、造神と呼ばれる。神によって作られた神と名乗る存在じゃ。名乗るのみで、神の力は使えぬ。少し、他のユニットより、優れとるだけじゃ。ま、儂らの優れ方は、特別に凄いがな。
そして、神龍の様な一つの世界にいる神が、世界神。神の力を操ることも可能な奴じゃ。
最後に、この世界や、儂らを作った創造主。それが、創造神。真の神と呼ばれる。
儂らは、主殿の為に作られた造神じゃ。
神龍は世界神。
そして、主殿はをこの世界に送ってきたのは、創造神じゃ。
この事は儂らでも知っておるし、創造主に許可を頂いて話しておる。
創造神が、話してもいいと思った物じゃ」
オーディンの説明は、そこで終わった。
「そうか」
僕は、それだけ言った。