第十五話 魔術の知識
アーサーの声が、決闘の終了を告げた。
「何故、ここまでなのじゃ?」
オーディンが聞く。
今からまた戦い始めようとしていたのだから、当然であろう。
「理由は二つ。
一つは、これ以上戦いが激しくなれば、主人に危害が及ぶ。
二つ目は、もう昼時だからだ」
一つ目は僕が辛いとの心配だった。
さっきの火の玉とフェンリルの咆哮のぶつかり合いの時は、見ているのが少し辛かった。
二つ目は、現在の時間の問題だ。
別に戦闘時間が長いわけではない。むしろ短かった。
だが、始めた時間が遅かったのだ。
現在、太陽は、真上に登っている。
アーサーが言ったように、ちょうど昼時である。
「分かった。今回の勝敗はどうでしたか?」
フェンリルがアーサーに聞く。
だが、フェンリルに帰って来た答えは予想通りであり、望まないものだった。
「当然。引き分けだ」
「やはり、そうでしたか」
フェンリルは少し落ち込みはしたようだが、分かっていたことであったのも大きいのか、すぐに落ち込む姿勢はなくなった。
食事を終え、次にどうするかを考える。
まず、オーディンとフェンリルの決闘の続きをやるのは、却下。理由としては、アーサーが述べたものと同じだ。
今、必要な物としては、拠点か?
だが、今生きているように旅でもしながら生きればいい気もする。
精霊や、召喚された者は食事が必要ない。その為、僕の食事だけあればいいのだ。
食事が必要であっても、リョクの力で同じ物を喚べばいい。
このまま、旅をするとした場合地図などもほしいため、人にはどうしても合わなくてはいけない。
今、一番人の手がかりになるのは、やはり魔術だろう。
その為には、オーディンから、魔術を習うのがいいだろう。
教えないで別の方法を使うというような事を言っていたが、どんな方法だろうか?聞けばわかるであろう。
さっきは、フェンリルと喧嘩したせいでわからなくなったし。
「オーディン。魔術を教えてくれ」
「先程も聞いたが、教えなくても主殿が理解して、使えるようになればいいのじゃな?」
「ああ」
僕の返事を聞くと、オーディンは立ち上がり、手に持っている槍を持ち上げた。
オーディンはこちらを振り向き、目を閉じて唱え始めた。
『我、知識与えし者。汝、知識求めし者か?』
オーディンにそう言われると、僕の中で、次がどうすればいいか分かり、口がその言葉を勝手に紡ぐ。
『我、知識求めし者なり。故に、汝の知識を欲する』
『ならば与えよう。汝の欲するのは魔術の知識。それを我から汝に与えよう』
オーディンがそう言うと、目を開き、槍を構える。
そして、僕の額に槍を突き刺した。
額から血が垂れる。
「ゔゔっ」
額から感じるのは痛みでは無い。
頭に何か多くの物が入ってくるような感じ。っと僕の頭は言っているが、それがどんなものかもわからない。
ただ、感じるのは、言葉にし辛い不快に近い感覚。
しばらく時間が経てば、不快な感覚も収まる。
頭にいつの間にか魔術の知識がある。それに気を取られてオーディンが槍を引っ込めたのにも気付かなかった。
「で、主殿。儂の持つ魔術の知識を送ったが、どうじゃ?」
僕が頭の中で魔術の情報を閲覧していると、オーディンから、そんな質問が飛んできた。
「まだ、情報をすべて見たわけでは無いが、魔術が使えるというだけでも、分かったから十分だよ」
「では、よかった」
オーディンは笑みを浮かべそう言った。
僕が情報を整理し終わったのは、夕刻の事であった。
太陽はすでに沈み、精霊達が火を囲んでいる。
「情報の整理をし終わった」
僕は近くで見張っていたセイに声を掛けた。
「分かりました。では、ほかの精霊達に伝えてきまっす」
最初とは違う喋り方になったセイは、生き生きとしているように感じられる。その前までは、感情を読み取ることができなかった。
僕もセイの後を追い、焚き火に向かう。
「そういえば、精霊達は魔術を使えるようになる?」
僕は焚き火を囲っている精霊達に聞いた。
「主様のように知識を持てば、できるかと思います」
返事をしたのはアカリである。
ほかの精霊も、その言葉を肯定するように頷く。
「じゃあ、知識を送ればいいのか。よし、僕が一人ずつ知識を送ろう」
頭の整理をしていた時、僕のステータスも覗いた。
その時見つけたスキルがこれだ。
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【代償知識】
肉体を捧げたり、痛みを伴うなど、代償を払うことで知識を得ることができる。
また、自分の持つ知識を他者に送ることもできる。
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と、出てきた。
おそらくオーディンから手に入れたスキルであろう。
代償は、自分の物などではならない為、生贄を捧げるようなことをしても意味が無い。そんな非人道的な真似はもちろんしない。
自分の体を傷付けるのも、壊れた人のような気もするが。
まあ、それはさておき、僕がこのスキルを手に入れたおかげで、オーディンと同じことができるわけだ。
全部僕一人でやると効率が悪い為、オーディンに何人か受け持ってもらう。
精霊達のジャンケンで決まった分け方により、僕は、アカリとクロミとシラノに知識を送る。
特に、クロミとシラノは魔術師タイプのステータスで、そんな格好をしているのに、今まで魔術を使えなかった為、今回のチャンスは良いことだろう。
何故か女子ばかりなのは突っ込まないで欲しい。
イカサマなどはしていないと何にでも誓える。