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屍記~不死の災厄の作り方  作者: 青蓮
第二十七章 協力要請
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(133)

 地下での会議&報告回。

 蓬莱からもたらされた異常事態と、大陸で工作部隊が調べたことが報告されます。尉繚さんも荒事以外にしっかり仕事をしています。


 しかし、今回の異常事態は地下の手に余る事態で……。

 専門的な研究を従順な人間ばかりでやると、視点の転換が必要な時に困りますよね。

 半日後、地下離宮には研究に関わる主な面々が揃っていた。

 徐福と石生たち熟練の助手、尉繚とこれまで研究に関わってきた工作部隊。そして地上の責任者である盧生と侯生。

 徐福は、集まった一同を険しい顔で見回して言う。

「急に呼び出して申し訳ない。

 しかし、それだけの事態が起こったのだ」

 徐福はまず謝罪したが、文句を言う者は誰もいない。何かあった時対応が遅れる程まずいことはないと、皆が理解している。

 特に尉繚などは、早く放せと促す。

「謝辞などよい、それより何が起こった?緊急対応を要することか?」

「いや、今こちらが慌てて動くことではない。

 ……が、これを放置して研究を進めれば取り返しのつかぬ過ちを犯す可能性がある」

 そう言って少し皆の緊張を和らげると、徐福は本題を告げた。

「今日蓬莱から届いた手紙で、蓬莱にて不可解なことがあったと知らされた。これまで我々が立てた仮説で説明できぬことだ。

 蓬莱で、大陸から渡った者の死体が起き上がった」

 聞いた瞬間、皆がぎょっとした。

「何と……それは、尸解の血を持たぬ者で?」

 侯生が震える声で質問するのに、徐福はうなずく。

「ああ、尸解の血を得るために蓬莱に差し出した、千人の少年少女たちの中からだ。あいつらの中に尸解の血を持つ者などいない」

 すると、今度は尉繚が尋ねる。

「持っていなくても、儀式によって血を分ける事はできるだろう。

 その起き上がった者が、元々の島民から血を分けられていたのでは?」

 尉繚の言う通り、尸解の血は持たぬ者に分け与えて性質をうつすことができる。だから徐福たちはそれを、始皇帝に施したのだ。

 起き上った者にその処置が施されていれば、何も不思議なことはない。

 しかし、徐福は苦々しい顔で首を横に振った。

「いや、そうではないのだ。元から島にいる者の神秘性を保つために、血を分ける儀式は全島で禁止しているとのことだ。

 それに、儀式のやり方を知っているのは元からの島民の中でもごく一部。

 そことほとんど接点がなくて儀式のやり方を知らない者の側からも、起き上がる者が何人も出たらしい」

「そんな……!」

 詳しい話を聞いて、集まった者たちはもっと驚愕する。

 尸解の血は定められた手順によってしか他人に与えることができず、勝手にうつってしまう病より増やすのが面倒だった。

 それが、いつの間にか大陸人に広がっているとは。

 島の事情も考えると、信じがたい事態である。

「土地によるものである可能性は?」

 工作部隊の一人から、質問がとぶ。

 確かに、同じように見える動物や植物が土地によって違う性質を持っていることは時々ある。

 尸解の血も、非常に限られた土地でのみ見られるものだ。その性質の発現が、土地の水や気候によるものである可能性は考えられる。

 しかし、徐福はそれを否定した。

「尸解の民は元々大陸に住んでいたというが、その当時から死体の起き上がりはあった。となると、土地によるものではないだろう。

 それなら、大陸でも奴らが元いた土地で同じことがないとおかしい」

「ああ、仙黄草が生えている地域でも、大陸で死体の起き上がりは確認されていない。

 仮死状態を死と誤認したらしい話はあったが」

 尉繚が、調べさせていたことも報告も兼ねて述べる。

 大陸で元々尸解の民がいたであろう場所は、工作部隊に調べさせておおよその目星はついている。

 長江のさらに南、楚の国の山あいだ。

 大陸に生えている仙黄草は、そこで見つかった。そしてそこには、周の軍が魔の村を滅ぼし魔を追放した伝説が残されていた。

 おそらくそれが、尸解の民が災厄を起こし島に移住させられた話だろう。

 しかしそれから今まで、腐った体で歩き回る魔物が再び現れたという話はない。

 死者が生き返ったとかいう話はたまにあるが、生き返ってからの様子は生前と同じだというから尸解の血によるものではないだろう。尸解の血による起き上がりなら、動きながらもどんどん腐って朽ちていくはずだ。

 つまり、大陸に尸解の血は残っていない。

 同じ土地に住んでも、それだけで普通の人間が尸解の血を得ることはない。

「では、どうして……?」

「それが分からんから、緊急事態なのだ。

 こちらの研究結果と島の伝承から、血を分ける儀式を行った者と尸解の民の子孫以外で尸解の血を持つことはないはずだ。

 しかし、それを覆すことが起こっている。

 これは、我々も蓬莱の奴らも知らぬ何かがあるような気がしてならん!」

 徐福は、忌々し気にぼやいた。

 蓬莱がまだ情報を隠している可能性はあるが、その線は薄いだろう。他ならぬ蓬莱の側が、慌てふためいてこちらに相談してきているのだ。

「不気味ですね……こちらの、感染経路が分からない感染と似たものを感じます」

 石生が呟くのに、徐福は大げさにうなずいた。

「そう、それよ!

 人食いの病は元々尸解の血を材料としているから、どこかでつながっておるかもしれん。どちらか解き明かせれば、もう一方も解けそうな気はするのだ。

 しかし、我々がここを放り出して蓬莱を調べに行く訳にいかぬからな……」

 徐福は、もどかしげに手を弄んだ。

 徐福と尉繚辺りが蓬莱に現地調査に行けば、何か分かるかもしれない。しかし、それではこちらで何かあった時の守りが極端に薄くなる。

 その間に、またこの間のような不測の事態が起こったら終わりだ。

 ここで研究を続けるために、徐福と尉繚はここを動けない。

「ううむ、とにかく蓬莱にはもっと詳しく調べてもらう他あるまい。起き上がった者と元からの島民の接触、起き上った者に共通することなど……。

 これだけの報告では、こちらとしても何も判断できん!」

 徐福が言うと、石生がふと思いついたように尋ねた。

「そう言えば……尸解の血が分けられているか、検査させてはいかがでしょう。

 仙黄草は、尸解の血に反応するのですよね?」

「それだ!!」

 石生の鋭い指摘に、徐福は目を丸くして手を打った。

 仙黄草を使えば、大陸人の中に尸解の血を持つ者がいるかどうかすぐ分かる。もしいれば、そこから解決の糸口を掴むことができる。

「よし、すぐに蓬莱にそうするよう使いを出せ!

 そう言えば、蓬莱では仙黄草の在庫が尽きかけているのだったな。これでは、あちらで検査したくてもできまい。

 よし、仙黄草二千人分をかき集めて蓬莱に送れ!」

 徐福は、すぐさま指示を出した。

「二千人分か……なかなかに大量だな。

 しかし、十日以内には集めさせ、二十日以内に琅邪に届くようにしよう。あの草は楚にはよくある、こちらが在庫切れにはならん」

 尉繚も、すぐに応じた。

 蓬莱のことは直接秦と関係ないが、それが秦の安全に関わるなら働きは惜しまない。一刻も早く謎を解き、秦を安全にせねばなるまい。

 そこで、尉繚はふと呟いた。

「待て……これが原因で、尸解の血のことが大陸の他の者に知れることはあるまいな?

 起き上がりを恐れた者が、島から逃げ出したりは……」

「そこは大丈夫だ、安期小生がよくやってくれた」

 徐福たちの最大の懸念については、既に蓬莱の上層部が対処してくれている。

「島の長である安期小生が、神秘を騙ってうまく言いくるめたそうだ。同時にうまく理由をつけて、大陸出身者の出航を禁じたらしい。

 多少怪しいことがあっても、向こうにはもう秦の兵がいないし、大陸から渡った者のほとんどは学のない売られた少年少女だからな。

 起き上がりを不届き者に対する仙人の呪いだと言ったら、すぐ大人しくなったと」

 大陸人にとって、動く死体は訳が分からない恐ろしいものだ。

 その理由を知らないのを突いて、それを利用して自分たちにより従順になるよう仕向けたらしい。

「もしこれで脱走者が出て蓬莱への行き方を大陸にバラされようものなら、蓬莱の奴らが終わりだからな。

 奴らも、必死で守るさ。

 それについては、しばらく任せても大丈夫だろう。……といっても、あまり長く放置すると良くない気がするが」

 どちらにしろ、まずは蓬莱に調査をさせることだ。

 そしてこちらも実験により、一刻も早く感染経路の謎を解く。蓬莱から送られてきた、新しい材料も使って。

 そうすれば、こちらも蓬莱もいろいろと解決するだろう。


 ……と方針を定めたものの、感染経路の謎はそう簡単に解けそうになかった。

 仲間を集めて議論してみても、新しい意見はなかなか出てこない。皆が徐福の仮説を基に考え、首をひねるばかりだ。

 一度仮説を否定しようにも、どこからどう否定していいか分からない。

 皆、考え方が固まってしまっているのだ。

 無理もない、ここにいる者たちは皆が徐福に言われるままに研究してきたのだから。いきなりそれ以外を考えろと言われても、無理なのだ。

 尉繚や工作部隊たちも尋常な案件であれば意見を出せようが、ここの研究については専門でないので二の足を踏んでいる。

 徐福の言うことをよく聞く者ばかりで研究を進めてきたのが、裏目に出た。

 堂々巡りの議論に疲れ、徐福はぼやいた。

「ふう……これでは埒が明かぬ。

 ここはいっそ、一度外部の人間にまっさらな目で全体を見てもらった方が良いかもしれぬな」

 ここまでずっと頑なに外部の人間を入れようとしなかった徐福だが、初めて外の人間の手を借りることを考えた。

 それほどに、異常事態なのだ。

 これまでは、安全のために外の人間を入れなかった。しかし内の人間だけで解けない危険な謎が出て来たら、そうも言っていられない。

 誰か、この問題をどうにかできそうな者の手を借りられたら……。

 しかしそう思ってみたところで、そういう人間がすぐ目の前にいる訳でもなし。今度は誰をどうすればいいのかの議論が始まってしまうのだった。

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