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屍記~不死の災厄の作り方  作者: 青蓮
第一章 琅邪の出会い
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プロローグ

 ゾンビ作品ですが、初めはあまりゾンビっぽくないです。

 ゾンビを作ろうとしてゾンビウイルスを作るだけがゾンビの起源ではないと思うので、その他の死を超越する思想からスタートしてみました。


 彼がやろうとしていたことは、最初は倫理的に間違っていなかったんです。

 ただ、情熱のままに仙人に向かって突っ走っただけなんです。

 波が、うねっている。

 見上げても全体を掴めぬほどの大波が、壁のように迫りくる。

 だが、逃げる場所などない。見渡す限り、四方八方で巨大な波が逆巻き、白く泡立って飛沫を飛ばしている。

 そこは何者をも生きて帰さぬ、怒涛の荒海であった。


 その絶望の波間に、漂う一艘の小船があった。

 狂ったように形を変え続ける山のような波の間を、頼りなく彷徨っている。

 運悪く、遭難でもしたのだろうか。

 船は波に揉まれて引かれてくるくると舳先を回し、もはや帰り道がどちらにあるのか見当もつかぬ。見渡そうにも暴風雨が視界を遮り、陸地は影も形もなし。常に頼れるコンパスである太陽も、厚い雲に覆われて見えぬ。

 この小船は、さながら嵐の中の木の葉と同じである。どこへ行くのか、どこへも行けずに引き裂かれるのかも分からない。

 全ての運命を、己の手の中から放り出したに等しい。全ては波と風の思うまま、なのだ。


 船には、一人の男の姿があった。

 びしょ濡れになり、髪も服も風と水にしたたかに乱されて、舟板にしがみついている。少しでも力を緩めれば、男は荒馬の如く暴れまわる船から一瞬で振り落とされ、海の藻屑となり果てるだろう。

 いくら嘆いても足りぬ、過酷な運命だ。

 降りかかる波しぶきは滝のように男の体を打ち、容赦なく体温と体力を奪っていく。男は舟板を抱き込むように丸くなって、ただ耐えるしかない。

 体を打つ水が途絶えると、男は大きく息を吸うついでに顔を上げた。

「……ふっ、さすがに一筋縄ではいかぬか!」

 口をついて出たのは、不敵な言葉だった。

 絶望の嘆きでも天への呪いでもない。

 そもそも、男の顔に絶望など宿っていはいない。男の目は沈むどころか、まばゆいほどの光を宿してらんらんと輝いている。

 男の体には、確固たる意志の力がこもっていた。ただ生存本能に突き動かされて身を固くするのではなく、明確な生きる意志でもって船にしがみついている。

 いかに周りが死に囲まれていようとも、それを楽しむかのように笑う。

「狭き門、険しき道……だが、さもありなん。

 このような冒険の向こうにあってこそというもの!」

 男は、どこまでも荒れ狂う海の彼方を見据えて呟く。

「仙人への道……誰でもたどり着けるようではつまらぬ!」


 男には、目的があった。

 未だ正体の見えぬ奇蹟の術を求め、男はこの海に漕ぎ出したのだ。


 羽化登仙……すなわち、自由に空を飛び老いと死を忘れた存在、仙人となるための方法を求めて。


 この困難は、元々男の予想していたことだった。

 それでも、大願を果たすためにそれを承知で漕ぎ出したのだ。

 命が惜しくない訳ではない。だが、危険を恐れて踏み出さず、何の成果もないまま過ごすのは死んでいるのと同じだ。

 少しでも可能性があるのなら、手を伸ばさないでどうするのか。

 男の胸には、探求への情熱があかあかと燃え盛っていた。

 その情熱の前には、滝のような波しぶきも肉を抉るような豪雨もそよ風に等しい。いくら表面の熱を奪われようと、心の炉がいくらでも体に熱を注いでくれる。

 自らの命がこんなにも儚いというのに、生きている実感と心の充実感はこれまでにないほど漲っている。

 たとえここで死んだとて、このような心地で死ねるのなら本望と思えるほどに……。

 男は、探求の喜びを噛みしめていた。

(やはり、研究とはこうでなくては!)

 求めるものがあるならば、自ら動かないでどうする。

 自分は、根拠もない伝説や神話を好き勝手に解釈して論じている連中とは違う。そんな方法で真の道に辿り着けるのなら、誰も苦労はしない。

 自分は、動く。そして、この波の向こうにある真実を手に入れる。

 誰もが夢見、探求しながら未だに足掛かりすら見えない大いなる道……仙人への道の真実を。

 古来、仙人となることを求めていろいろ試したあげく死に至った者は多いと聞く。だが、人は人である限り必ずいつかは死ぬものだ。ならば、何もせず死を待つより、死の危険を冒しても動いた方が有意義であろう。

 その先に、わずかでも仙人……不老不死の可能性があるのならば。

 ゆえに、男はこの荒れ狂う海に自ら漕ぎ入ったのだ。


 男の目の前で、黒い海面が大きく盛り上がった。

 それは瞬く間に壁のような高波となり、小船に向かって迫りくる。

 黒い山の頂に白い牙のような冠が現れ、そこが崩れて滝のように流れ落ち始めた。これまで男が遭ったどのような雨よりも強い水流が、船を叩き壊さんと駆け寄ってくる。

 男は全身の力で舟板にしがみつき、波に向かって吼えた。

「うおおおお!!俺は死なぬぞーっ!!」

 逆巻く海の怒りが、男と小船を一息に飲み込んだ。

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