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金魚のお墓

作者: 長沢綾香

お母さんが死んだ。


お母さんは38歳だった。

まだ、綺麗だった。だけど時々いたそうに顔をゆがめるのだ。

かわいそうな人だったと思う。


僕はお母さんが死んだばかりなのに、時々それをすごく遠い過去のように感じてしまうのだ。


そして、お母さんが死んだばかりの頃、時期を見合わせたかのように金魚も死んでしまったのだ。



金魚は赤くてさかさまになっていった。その赤はすごく綺麗で

お母さんの口紅を思い出させた。


お母さんは体の具合が悪くなる少し前から唇の色が悪くなっていたんだけど、

それでよく、口紅をつけていたのだ。


真っ黒なリップケースからだされる赤い口紅はお母さんによく似合っていて、

自分のお母さんだけど、僕はよくうっとりして口紅をぬるお母さんの横顔を盗み見たものだ。


家の庭に金魚を埋めてお墓を作ってやった。


お母さんはよく「金魚はね、繊細なのよ。特にお祭りで買った金魚は。」

すぐに死んでしまうんじゃないかと思ったのか、お母さんはよく僕の顔を見ながら

慎重そうに、そういった。

「大丈夫だよ。僕は金魚が死んだからって、そんなにがっかりしないよ」と

僕のほうがお母さんを傷つけてしまうんじゃないかと思いながら言った。


「あなたは強いのね。お母さんは小さい頃、金魚を何度か飼ったけど、1年以上

生きられた金魚はいなかったわ。生き物を飼うのは下手なんだと思って、

それ以来は買わなかったのよ。」

お母さんは心強い味方ができたみたいに安心した顔でそう言った。


でも、お母さんは入院中は金魚の話はしなかった。

よく、「お母さん、お墓には入りたくない」と言っていた。

お母さんは駄々をこねた、少女の頃に戻ったような声で

「骨は庭にうめてほしい。あなたたちの明かりが見えたら、お母さん

夜も安心して眠ることができると思うの」といった。

薬の影響なのかもしれない。時々僕のことを忘れることもあった。

そして10歳ぐらいのこどもの顔をして僕といっしょにサッカーがしたいとすら言った。


だけど、お母さんの願いは叶わなかった。

お母さんの骨は当然のように、白い骨壷に入れられた後、お墓に入れられた。

僕がこっそり骨をポケットの中に入れようとしたら、それをみていた父にとがめられ、とめられた。

それ以外は

全部、事務的に当然のように簡潔に完結に物事は進んでいった。


そして、新しいお母さんが来た。

綺麗な人だった。赤い口紅なんて到底つけなさそうな、でも、優しそうな人。

だけど、母とは違う人。

お母さんは何ていうだろうか。


父は少しすまなそうな顔をしながらも、だけど事務的に徹底的に物事を進めていった。

お母さんのものは僕が学校にいってる間に処分されていた。

僕がもっていた赤い口紅以外は。


僕は迷った。

だけど、ここにある明かりはもうお母さんの望んでいた庭ではない。


自転車にのって花園の池のあたりを探した。

池は透明で綺麗だったけど、うら寂しくて、しーんとしていた。


ぼくはかぶりを振った。これなら、父と同じだ。

最初からわかっていたことじゃないか。僕は口紅をポケットの中にもどした。


口紅は今も僕のポケットの中にある。そこは暖かくてもう寂しくはない。













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