満月の夜
・・そして満月の夜・・
僕達は満月の夜広場に集まった。さすがに夜の風は冷たい。広場は月明かりのおかげか、暗闇の怖さを感じることはない。
「翔太、あれなあに?」駿が広場の中央を指差した。
「なんだ?」高さが2メートルほどのあやしい物体。
「何かしらね」
「行ってみましょう」
女の子はこういうとき勇気あるよな。
アオはまだ来てないのか?・・いや、いる!!
確かに感じる。アオの存在を。
「これって・・ピラミッド?」
『その通りさ、桃子ちゃん』
「ブルー」
「ねー、ブルー、あれで何するの?」
『駿、ピラミッドって知ってるかい』
「知らないけど」
『ピラミッドには神秘的な力があるんだ』
「・・ピラミッドパワー」
『その通りだ!美咲ちゃん』
「ピラミッドパワー?」
『翔太、ピラミッドの形は何だ?』
「形・・三角?」
『違う。正四角錐だ。この形じゃないとパワーは発揮されないんだ』
「なるほどね」
『始めるぞ!』
始めるって、いったい何をするっていうんだ?それにあの不思議なピラミッドは・・。
「やるしかないか!」
「うん」
緊張のなか、みんながうなずいた。
『まず四つの面の前にそれぞれが立ち、ピラミッドの方を向く。駿、ひとりでやれるか』
「やれるさ!」
『よし。次に両手の親指と人差し指で三角をつくり、胸の前におく』
緊張はピークだ!でもなぜだろう、気持ちはすごく落ち着いている・・。
ピラミッドの尖端は、まっすぐ空に向き、満月を捉えている。
いよいよか・・。
僕達はアオの言う通り、胸の前に三角をつくりピラミッドに向いている。
なんだろうこの不思議な感覚は。遠い遠い昔、僕は確かにこの場所にいた。風だ!
五感が感じている。あの時と同じ風だ。
初めてじゃない・・デジャブ!
やがて風がやんだ。いや違う。感じなくなったんだ。風の音も、匂いも、風の冷たさも・・。
『みんな、ボクの声が聞こえるかい』
アオだ!アオが僕達に話しかけている・・テレパシーで。
『時が来たよ!みんな。これから月のパワーをこのピラミッドが何千倍にも増幅する。それをみんなが受けとるんだ。チャンスは一度きりだよ。パワーを受けとるコツは、心を無にすることだ・・ゆっくりと目を閉じて』
・・光を感じる。瞼が真っ赤な炎に包まれているように。
「翔太・・翔太・・」
またアオが呼んでいるのか!?
「翔太・・翔太・・」
アオじゃない、駿だ!
「駿・・駿なのか・・」
駿からのテレパシーだ!
・・ん?ここはどこだ。
『気がついたかい翔太』
「アオ!」
僕達はあの広場で気を失っていた。どのくらいの時が過ぎたのか、ピラミッドはもう影も形もない。
「翔太君」
「美咲お姉さん」
「私達はいったい・・」
「気を失っていたみたいなんだ」
そして、桃子ちゃんと駿も目をさました。
『みんな気がついたな!』
「アオ、いったいどうなったんだ?」
『駿、こっちに来てごらん』
「ん、なあに?」
『駿、覚えてるかい。いつだったか瞬間移動を教えてって言ったのを』
「うん」
『あそこの広場の端に、大きな木が見えるだろう』
「うん、見えるよ」
『駿は左利きだから、左手の人差し指をこんな風におでこにあててごらん』
「こう?」
『そう。そしてあの遠くの木を、頭に思い浮かべてごらん。ゆっくり、ゆっくり、思い浮かべるんだ・・』
すると・・
「あっ!駿・・」
「駿くん!・・」
一瞬にして、駿の体が消えた!
どういうことだ?!まさか瞬間移動・・。
駿が消えた!僕達の目の前から、まさに一瞬の出来事。
「駿・・」
僕達は広場の端の大きな木まで駆け寄った。
「駿・・」
「駿くん・・」
「翔太~・・助けてー・・」
「駿、どこだー」
「ここだよー」頭上から駿声が・・。
そこには、大きな木に必死にしがみつく駿の姿が。
「何やってるんだ、そんなところで」
「知らないよー・・」
『ああ、ごめんごめん。瞬間移動はイメージしたそのものを対象にするんだ。木のそばをイメージしてって言えばよかったね』
「翔太、早く助けてよー」
「駿、ここまで瞬間移動出来るだろう」
「あっそうか・・」
駿は地面まで瞬間移動。
これでもう疑う余地はない。
僕達は超能力を手にいれたんだ!
「よーし、今度は僕の番だ!」
僕はさっきまでピラミッドがあった場所をイメージして、右手の人差し指をおでこにあてた・・。
瞬間移動だ!
・・「あれ!?」
全然出来ないよ。何でだよー。
『翔太、君は瞬間移動は出来ないよ』
「えっ?そうなの」
『その代わり違う能力が備わった。サイコキネキスだ!』
「サイコキネキス?」
『美咲ちゃんは癒しの力。桃子ちゃんは生命の力』
「具体的にはどんなことが出来るの?」
『順番に説明するね』
『翔太はいわば念力。そのものに手を触れなくても動かすことができる。例えば、駿を指差してごらん翔太』
「うん」僕は右手を前にだし、駿を指差した。
『指先に集中して、ゆっくり上に動かして』
僕は指先に全神経を集中。腕を上に・・。
「わあっ!駿君の体が・・」美咲お姉さんの驚き。
僕の腕の動きに合わせて、駿の体が宙に浮いた。これがサイコキネシス!僕の手に入れた超能力なのか。
『美咲ちゃんはケガや病気を治す癒しの力。駿、何回もごめんな。その膝こぞの絆創膏をはがしてみて』
「えっ、うん・・痛っ」
まだ血がにじんでいる。
『美咲ちゃん、駿のケガしてるところに右手をかざしてみて』
「はい、こんなふうに・・?」
『そう、そしてキズが治ることを祈るんだ』
美咲お姉さんは、駿の膝こぞに手をかざし、そして祈った。
『・・手をどけてごらん』
「あっ、キズが治ってる。すごい美咲お姉さん」
「美咲お姉さん、ありがとう」
まるで魔法だ。
『桃子ちゃんは人間の生きる力を増幅する力。桃子ちゃん、まずは静かに深呼吸して。それからそーっと息を止めて。何も考えずリラックスして・・』
桃子ちゃんは深呼吸のあと、静かに呼吸を止めた。
1分、2分、3分・・。
「桃子ちゃん・・!?」
「・・はあっ」やっと言葉を発した桃子ちゃん。
『今みたいに長い時間息を止めていられる。海の中でも、宇宙空間でさえ平気!身体は気圧の影響を受けないから』
僕達はこうして超能力者となった。