超能力
『おーい、月の神様、聞こえるかあ』
『ん、その声はサターン』
『月を早くワタシに渡して、とっとと出ていきな。何年待たせるつもりなんだ』
『その話にイエスの返事をするつもりはない』
『そんなことを言うとまた閉じ込めるぞ。今度は絶対に出てこれないものにな。そうだ、この間カードに閉じ込めたブルーとかいうガキ、また人間に助けられたそうじゃないか。これで三度目だな。しかし今度はそうはいかないよ・・。早くワタシも落ち着いた住みかが欲しいからな』
サターンのやつめ・・。
『えっ、またサターンのやつがそんなことを』
『ブルー、地球のあの四人の様子はどうなんだ。やってくれそうか』
『うん、おそらくね。サターンのやつ、月が手に入ったら今度は地球もって必ず言ってくるよ。そしたらあの四人も闘う決心をしてくれるはずさ!もしかしたらそっちの方が本当の狙いなのかも・・?』
『そうかもしれんな』
『でもどうしてこの月なの。あの地球なの。宇宙には他にたくさん星はあるのにさ』
『理由はわからんが、他の星を狙っても一緒さ。今度はそこに住む生物たちが犠牲になるのだから。少なくともこの月を狙ってる間は、他の星は安全だからな。そして今度こそあのサターンをこらしめて、星を我が物になど悪さが出来ないようにしてやらないとな。今回がその最初で最後のチャンスだ!』
『じゃあ行ってくるよ。地球でまた作戦会議だ」
『うん、頼んだぞブルー』
一方、地球では
「アオのやつ言ってたよな。僕達にはサターンと闘う能力があるって。でも何のために闘うんだ?!」
「そうよね、いまひとつ理由がはっきりしないわ。それに相手はゴジラ並のやつでしょう。本当に私達にそんな力があるのかしら・・」
美咲お姉さんの言うように、今度アオが来たら理由を聞かないとな。なんてったって命がけの闘いだ。
それに僕達が選ばれた訳も・・。
桃子の場合
人生がやり直せる。なんか夢みたいな話よね。
私は今のところ、人生をやり直したいなんて思ったことないけど、例えばこの先何か大きな失敗をしちゃって・・。
そんなことがあったら思うのかな、人生をやり直したいって。
でも後悔とか反省とか、それまでの記憶が全然ないなら、何度やっても結局同じ人生になっちゃうんじゃないかな。
私は私なのだから・・。
美咲の場合
私の今の人生が11回目のものだなんて、とても信じられないな。
デジャブかあ・・。
確かにそんな経験もあったような気がするけど、それがこの繰り返す人生のせいだなんて・・。
でもそれまでの記憶がないんだから、初めての人生と同じことだよね。
だったらどうしてブルーは、人生を繰り返すなんて私達にさせるのかしら。
サターンと闘うためとか言ってたけど・・。
なんかちょっと不安だなあ。
翔太と駿の場合
「ねー翔太、僕達の人生が11回目ってどういうことなの」
「駿も僕も、ママのお腹から11回生まれたってこと」
「えー!!だったらママ、大変だったろうね」
「そうだよな。駿と僕を合わせたら22回も・・」
人生の繰り返しとかやり直しとか、全然ピンとこないけど、僕は僕なんだから同じかあ何回やっても。
「私さあ、昨夜自分の人生について色々考えちゃった。でね、結局同じだよね、私は私なんだからって」
「桃子ちゃんも!実は私も考えてたんだ昨夜」
「実は僕と駿もなんだ」
そして・・
翔太達のところに急ぐか!
・・「あっ、ブルー」
『駿、元気かあ。みんなも集まってるな』
「おい、アオ、お前に聞きたいことがある」
『うん、大体想像はつくよ。何を聞きたいのか』
「そっか、なら話は早いな。まずサターンについてだ。サターンとはいったい何者なんだ?」
そしてアオは、サターンについて語り始めた。
『大昔、空に月が二つあったという話を聞いたことないか?』
「月が二つだって・・」
「あっ、私何かで聞いたことあるかな。でもそれは仮説とか推測の域を出てない話だということだけど」と美咲お姉さん。やっぱり大人だな。
『それは本当のことさ。月の大きさは地球の4分の1程度だけど、その存在の意味は大きいんだ。潮の満ち引きも、月の引力に関係してるって知ってるだろう。海の生物の生態にも大きく影響している』
「あーあ、理科で習ったかな」
『月は地球にその半分ぐらいの大きさの天体がぶつかった際、地球の一部がちぎれてできたんだけど、その時ひとつではなく、二つの塊が地球を回り始め月になったんだ!』
「じゃあ今、月がひとつなのはなぜ?」
「その二つの月なんだけど、最初のうちは地球と共に三つでバランスをとってたんだけど、あるとき月同士が衝突してしまい、小さい方の月が消滅してしまった。そのなくなってしまった月に住んでいたのがサターンさ』
「そうだったのか」
『衝突する前までは、ボク達とサターンとは、お互い行き来したり仲は良かったんだけどね。今度はひとつの月を奪い合うようになっちゃってさ。それにサターンは、この地球も侵略しようと考えてる!』
「なんだって!この地球を侵略!!」
そんなことになったら大変なことになる。なんせゴジラ級のやつなんだろう・・。
『だから君達の力が必要なんだ。シックスセンスを研ぎ澄ました・・』
「シックスセンス、第六感!」
『そう。よく言われるのは予知とか霊感、時にむしの知らせとか、理屈ではなかなか説明つかないことなんだけど。そして、翔太達が経験した10回の人生で、身に付けたのは超能力さ!』
それだけ伝えると、アオは瞬間移動でいなくなってしまった。そんな話をされたってすぐに信じることはできない。シックスセンスだの超能力だの。僕たちはただの人間なんだぞ。泣いたり笑ったり。それが超能力を身につけるなんて・・。
「翔太、駿くん知ってるよ超能力、あのスプーンを曲げるやつだよ」
「そうだよな。アオのやつ僕達に超能力が身についたって言ってたよな。試してみるか・・」
僕はカレー用のスプーンを4本、台所から持ってきてみんなに渡した。
「駿、スプーンに神経を集中するんだぞ!」
「うん、わかった!」
本当に僕達は超能力を身に付けたのだろか!?
僕達は手に持つスプーンに、全神経を集中していた。テレビを見ながら、これまで何度か挑戦してみたことのあるスプーン曲げ。もちろん成功したことはないけど。
5分、10分と時間だけが過ぎてゆく。あきらめかけたその時だ。
「あっ、曲がった!!」駿がそう叫んだ。
左利きの駿の手に握られたスプーンは、背側に90度、見事に曲がっている。駿が無理矢理力で、ここまでスプーンを曲げるなんて不可能だ。
「わーあ、スゴい!駿くん」美咲お姉さんと桃子ちゃんは超びっくり。
それからいくらやっても、三人のスプーンが曲がることはなかった。駿だけが超能力を手にいれたということなのだろうか?!
『ヨイショっと、ただいま』
「あっ、アオ、どこ行ってたんだ」
「ねーねー、ブルー見てー、ほら、駿くんね、スプーンが曲がったんだよ!」
『うん、すごいぞ駿。でもボクに言わせたら、そんなのごくごく当たり前さ。超能力があるんだから・・あると言うよりは、引き出せるってことだな』
「どういう意味なのブルー」
美咲お姉さんは不思議そうな顔で聞いた。
『人間って、元々超能力をみんな持ってるのさ。ただそれを使いこなせないだけで。それを経験で会得したのが君達なんだ』
「でもアオ、スプーンが曲がったのは駿だけだ」
『うん、駿が一番心がピュアってこと。潜在能力を引き出すのに大切な要素、それがピュアな心だ!』
「じゃあこの三人は心がピュアじゃないってことか・・」
僕は少しアオの言い方が気にくわなかった。
『どうかな。翔太、これと同じスプーンをもうひとつ持ってきてくれるか』
僕は台所まで行き、新しいスプーンを持ってきた。
「これでいいか」
『うん、それを三人の持ってるスプーンに重ねてごらん』
言われたとおり、まず僕の持ってるスプーンを重ねてみる・・ピタリと重なる。
次に桃子ちゃん持ってるスプーンを・・「あっ!」
次に美咲お姉さんの持ってるスプーンを・・「重ならない。わずかだけど二人のスプーンは、新しいスプーンとの間にすき間をつくっている。
『どうだ翔太』
「・・曲がってる!」
確かにスプーンは曲がっていた。駿ほどではないけど確かに・・。美咲お姉さんと桃子ちゃんが念じたスプーンが。超能力だ!美咲お姉さんも桃子ちゃんも超能力を手に入れたんだ。
なんか面白くないなあ。何で僕だけスプーンが曲がらないんだ。
「ねー翔太、何で翔太だけスプーンが曲がらなかったの?」
「さあーね」
「ブルーが言ってたピュアってなんなの?」
「知らないなあ」
「なんだ、じゃあ後で美咲お姉さんに聞いてみよー」
痛いところをついてくるな駿のやつ・・。
「私ね、あれから家でスプーン曲げに挑戦したんだけど、全然だめなんだ」
「桃子ちゃんも。私もなの」
「駿もあのあとは全然曲がらないよな!」
「うん」
「それで昨日ね、超能力について調べてみたんだけど・・」
美咲お姉さんは超能力について説明してくれた。
「超能力って色々種類があって、透視、予知、瞬間移動、テレパシー、サイコキネシス、サイコメトリー・・とか。でもどれも科学で説明されてないから、否定的な人が圧倒的に多いみたいね」
「じゃあ私達がいくら言っても、超能力の存在を認めてくれるひとはなかなかいないってことか」
「僕も桃子ちゃんの言う通りだと思うな。スプーンが曲がるのを目の前で見た僕でさえ、まだ疑っちゃうもん」
「それにしても何でこの四人が選ばれたんだ。人生を繰り返すなんてものに・・」
「そうよね、何か理由があるのかしら。それともまだ他にいるのかな、私達みたいなひとが」
「アオに聞いてみないとな」
『あー腹いっぱいだ!』
「あっ、ブルー、いつきたの」
『今だよ。駿はご飯食べたのか』
「うん、カレーライス!ブルーは?」
『ボクは太陽の光さ!』
「太陽の・・?」
『そうだ翔太、あれからスプーンは曲がったか』
「いや、全然。みんなもそうさ。90度に曲げた駿でさえ、あれ以来曲げることが出来ない。なんかコツでもあるのか?スプーン曲げの・・」
『個人でやってもダメさ、四人揃わないと。カードからボクを助け出してくれた時みたいに』
「えっ、そうなの」
だから成功しなかったのか。ということは、超能力に関しては僕達四人合わせて一人前ってことなのか・・。
「それよりアオ、何で僕達が選ばれたんだ?10回も人生を繰り返して超能力を得るなんて!。理由があるんだろう」
『ああ、いまはまだ詳しくは言えないけど、四人には共通の事柄が起こる。未来にね・・』
「未来に・・」
僕達の未来にいったい何があると言うんだ・・。