トロとタラス
『じゃあボクの家に案内するね・・』
『龍、とても静かな街じゃないか!』とアカ。
『うん、外見はね。この街の人口は約1億人、日本とほぼ同じ。ただ面積は100倍以上あるけどね。それに最近はもめ事が絶えないんだ。静かに見える街も、境界線に行くとみんな睨みあってる』
「境界線?」
『この道をずーっと行くと、大きな川が流れてるんだ。そこを境にして争いが起こっている。ボクたちの住むトロと、向こう側のタラスとでね」
『何か訳があるんでしょ』とセレーネ。
『もともとはみんな仲良かったんだ。争い事なんか無くて、まして、どこからか敵が攻めてくるなんてこともなくてね。でもある日、ひとりの男がボクのパパのところに来て、いずれこの街は自分が支配すると言い出したんだ』
『一億人も人がいれば、地域ごとに村ができ、そこに権力者が現れるもんだ。そして少なからず争いが起こる』とアカ。
「ところで龍、あなたのパパってどんなひとなの?」と桃子ちゃん。
『この街トロの王様さ』
「と言うことは、龍は王子様」ちょっと驚く美咲お姉さん。
『そう』
「それで王様のところに現れた男というのは?」
『それが超能力者で科学者のグリー。とてもいい人だったんだ。美咲お姉さんみたいに、超能力で人々のケガや病気を治したり、科学の力で住みやすい街をつくったり・・』
『それって過去形なのか』とアオ。
『うん、ある日から突然ひとが変わったように、パパにはむかうようになったんだ。そして、優秀な科学者達や若い男達を連れて独立国をつくると言い出した』
「独立国なんて穏やかな話ではないな。しかし、一緒に行った科学者や若い男達は抵抗しなかったのか』とアカ。
『それが、おそらくグリーに操られてるんだ!』
『マインドコントロール』とセレーネ。
『その独立国がタラスさ』
「そこで超強力ロボットをつくってるってことか!」
『うん』
『しかし、急に態度をひるがえすとは、何か特別なことがあったんだろうか・・』
そしてようやく僕達は龍の家に。家と言うよりはお城に到着した。
『ようこそ、異次元の街トロへ』そう言って王様と王女、つまり龍のお姉さんが僕達を迎えてくれた。
「素敵なお家ね!」と桃子ちゃん。
「うん!」と美咲お姉さんも。
僕達は長いテーブルの椅子に腰掛けて、ケーキとジュースをごちそうになった。でもなんか僕達の動きがぎこちないんだよな。駿は右手でフォークを持ち、他のみんなは左手でフォークを持ってる。頭の中が慣れてないんだな、こんな風景に。
それににてもかわいいなあ舞ちゃん!
『おおよそのことは龍から聞きました。でワタシ達にどうしろと?』
『大変わがままなお願いなのですが、私達と一緒にタラスまで行き、グリーとの話し合いの場について欲しいのです。若い男達は皆タラスにとられ、こちらには年寄りと女子供だけ。さらにグリーは超能力者です。いざという時には、向こうに分があるのは明らかです』
「確かにそうね。それで、超強力ロボットをつくってるというのは本当なのですか」と美咲お姉さん。
『本当です。そんなものが出来上がってしまったら、それこそ手も足も出ません』
『翔太、行ってやれ』とアカ。
「行ってやれって、アカはどうするんだ?」
『ワタシは月に戻る』
「はあっ?」勝手なやつだな!
『それで、話し合いはいつですか』とセレーネ。
『明日です』
『翔太、どうするんだ』
その時、舞ちゃんが僕のところにやって来た。
『翔太君、お願い!パパを助けてあげて』
「よし、わかった!」
と言う僕の言葉に、またしてもみんな崩れ落ちた・・。
そしていよいよタラスの街へ
大きな川の向こう岸には、何人もの若者がこちらを警戒してる。みんな機関銃のようなものを持っている。
「あの橋を渡るんだな」
『うん』
そして橋を渡ろうとしたまさにその瞬間、背筋がゾッとする感覚に襲われ、思わず足を止めた。
『翔太、どうした?』とアオ。
「なんか嫌な予感がする。みんな気を付けろよ。アオ、駿、橋を渡り始めたら、僕の合図で向こう岸までみんなを瞬間移動だ」
『わかった』
「わかった」
僕達はゆっくり橋を渡り始めた。
・・ワン・ツー・スリー、今だ!
僕達が瞬間移動で反対側の岸に移動した直後、橋は大きな轟音と共に爆発した!・・間一髪だ。
『なんてことを』王様は驚きを隠せないでいる。
『グリーの仕業だ!』と龍。
「王様や私達を殺そうとしたの」と桃子ちゃん。
「これは、話し合いどころじゃないかもな」
『よく見破ったな!』
その声は・・まさか!
「・・サターン」小さく駿は言った。
「本当にサターンなの。オリジナルは宇宙ウィルスの攻撃でやられたはずなのに」と美咲お姉さん。
「だけどあの声はサターンだ!」
『ワタシは不死身なのさ。ではまたな』
しかし、美咲お姉さんの言うように、オリジナルのサターンは僕達の目の前でやられたはず。では今のはまたコピーなのか?!
オリジナルがやられても、前もってコピーをいくつも作っておけば、サターンはサターンとして生き延びる!そういうことなのか・・。
サターンの存在を知った僕達は、いったんお城に引き返した。
「サターンのコピーですって!」と桃子ちゃん。
「うん、おそらく。それに何体コピーを作っているのかもわからない」
『あのグリーが、急に態度を変えたのはサターンの仕業なのか』と王様。
「そう考えて間違いないと思う」
「サターンもしつこいな!」
「だけど、サターンはこの異次元の街の存在を知ってたのかしら」
『知っていたのかもしれん。今回、龍が翔太達に会いに行ったように、3次元の世界へはこちらの者がよく出掛けているんだ。その際サターンに気づかれ、身体を支配されてしまったのかもしれん』と王様。
「太郎の身体を抜け出た頃と、グリーの態度が急に変わった頃、時期的には一致する」
『なるほど、そういうことか』
「王様、科学者のグリーも超能力者なんだよな」
『そうだ』
「んー・・?」
「どうしたの、翔太君」
「サターンに身体を支配されていた浦島太郎。太郎さんは普通の人間だから、抵抗できなかったとしても、グリーは超能力者だ。しかも、キズや病気を治すほどの大きな力を持ってる。そのグリーがそう簡単に、サターンに心や身体を支配されてしまうのは・・ちょっと腑に落ちないんだよな」
『抵抗できたはずってことか』
「うん」
『翔太君、今日はパパの危ないところを助けてくれたそうで。ありがとう』と舞ちゃん。
「それほどでも・・」
「翔太、顔がでれーっとしてるよ」
「それほどでも・・」
「ダメだ・・」とあきらめ顔の桃子ちゃん。
「アオ、サターンが相手となると僕達だけでは難しい。ゼウスとポセイドンの力を借りよう」
『それがいいね。テレパシーで呼び出すよ』
「頼む。それと・・」
『わかってるよ!風雲の盾だろ』
「うん」
「ゼウスとポセイドンは、ここにちゃんと来れるかな」と駿。
「あっ、そうだな」
『ボクが迎えに行くよ』と龍。
「じゃあぼくも・・」と駿。
「よし、二人に頼むか」
そして、駿と龍はゼウス達を迎えに、3次元の世界へと向かった。
『駿!元気だったか』
「あっ、ゼウス、ポセイドン!」
「紹介するね。こちら吉永龍君」
『初めまして』
『ああ、ブルーから聞いてるよ。ヨロシク』とゼウス。
『駿、またサターンが現れたって!』とポセイドン。
「そうなんだ。今度こそこてんぱんにやっけてやらないと!」
『相変わらず元気だな』
『龍、早速案内してもらおうか!異次元の街とやらへ』
『わかりました』
「ゼウス、ちゃんと風雲の盾持ってきた?」
『心配するな』
「あとね、異次元の街では右と左が反対だから、気を付けてね!」
そして再び異次元の街へ。そして僕達はゼウスとポセイドンに再会したのだ。
僕達は、王様達をお城に残し、再びタラスに向かった。相変わらずものものしい雰囲気の地に着くなり、ゼウスが言った。
『ものすごい殺気だ!』
『いつ敵が襲ってきてもおかしくない。みんな注意しろよ』とポセイドン。
「わかったわ」少し怯えてる美咲お姉さん。
そして
『翔太、避けろ!右だ』と叫ぶゼウス。
僕はとっさに右を見た。
すろると後頭部に激しい痛みが走った。
石が飛んできたのだ。右ではなく左から!
『あっ、すまん翔太』
僕はすぐに美咲お姉さんの治療を受けた。
「ゼウス・・」
『痛かったか翔太』
「・・・」気を付けろよな!
「でも、だれが石なんかを」と桃子ちゃん。
『あれを見て!』アオが指差す方向には、若い男達が数十人、こっちを睨んでいた。
「タラスの住人か!」
「マインドコントロールされてる人達では、こちらから攻撃は出来ないわ」
「美咲お姉さんの言う通りだ。さっきは機関銃も見かけたからな。かなり厄介だ」
『よし、ワタシが空から偵察してこよう』
「うん頼む」
しばらくするとゼウスが戻ってきた。
『この先約100キロの所に怪しい建物が建っている。おそらくそこが本拠地だろう』
「じゃあ空から行くか!」
僕達は飛行薬を飲み、空を飛んだ。
眼下には大自然が広がっていた。山や川や湖。人の手など一切入っていない大パノラマだ!
「キレイな街ね」と桃子ちゃん。
『もう少し行くと、景色が一変する』とゼウス。
その言葉の通り、遥か遠く、高いビルディングの頭が無数見えてきた。
「うわ!今度は雄大な摩天楼」と美咲お姉さん。
『その中央に、ひときわ大きな怪しい建物があるんだ。ほら、見えてきたぞ』
「あれか」
周りとはにつかない、ダークグレーのその建造物。
僕達はそこに降り立った。
『やはり来たか!』サターンだ。
「ん?・・」
しかし何かが違う。今までのサターンの威圧感が全くないのだ。ゼウスもポセイドンもそう感じているはずだ。ただ声がそこに流れているだけで存在感もない!
「お前は誰だ?!」
『ワタシの声を忘れてしまったのかね、翔太』
「翔太、どうしたの?」と駿。
「翔太君・・」
「違う。サターンじゃないんだ!」
『お前はサターンではない』とポセイドン。
『それはどうかな』
その瞬間、サターンのあのレーザービームが、僕達のすぐとなりのアスファルトに炸裂した。
『気を付けろ!』とゼウス。
『どうなってるんだこれは』アオは理解不能のようだ。
もちろん僕達も・・。
『これでわかってくれたかな』
やはりサターンはここにいるのか・・?