雷鳴の剣と風雲の盾
ガイアに襲い掛かるワクチンの塊。ウイルスはワクチンに変化するどころか、狂暴な殺戮者となっていた。
その時、一瞬早くその異変に気づいた者がいた。サターンだ。
サターンは瞬時に、殺戮者に狙われたガイアの前に回り込み、その攻撃をもろに受ける格好となった。
『サターン』ガイアの悲鳴が響く。
サターンの体は、みるみる殺戮者と化したウイルスに蝕まれていく。
「サターン」
『何てことだ、あのサターンが・・』
『ガイア、気を付けろ』ポセイドンが叫んだ。
死骸と化したサターンの体を残し、殺戮者は再び狙いをガイアに向けた。
ガイアは風雲の盾を前に構え、殺戮者に向けおもいきり盾を押し込んだ。
すると風雲の盾は嵐を巻き起こし、殺戮者を吹き飛ばした。
宙にサターンの死骸が漂っている。
『サターン・・サターン・・』
ガイアは、まだサターンのことが好きだったのか、それは誰にもわからない。
ガイアがサターンのからだに触れると、ゆっくりと灰になり、形を無くした。呆然とするガイア。
こうしてサターンの愛が、ガイアを救ったのだった。
僕達は、ガイアのもとへ進んだ。
「ガイア・・」
『ガイア・・』
『あの化け物は、まだ絶滅したわけではない』とアカ。
『おそらく仲間を集めて、我々に総攻撃をかけてくる』とゼウス。
『ある程度は防げるだろうが、あいつらの増殖能力のほうが上だとしたら、いつかはやられる」
『恐ろしい敵ね』とセレーネ。
結果的に、ワクチンの作成は失敗に終わった。それどころか、ウイルスは狂暴な殺戮者へと変貌しまったのだ。
宇宙ウイルスは、地球の科学力などものともしない、恐るべき生命体だったのだ!
このままでは、宇宙の縮小は加速していく一方だろう。
宇宙の内側では悪魔が繁殖を続ける。宇宙滅亡の競争を、僕達はただながめているしかできないのか。
このかけがえのない、命の源の宇宙、何千億の星たち、そして僕達の地球。僕達のものは僕達が、力を合わせて守らなければ!
『きたぞ!』静かにゼウスは言った。
先程の10倍、いや100倍の大きさの塊が、こちらに向かってくる。
『用心しろよ!』とポセイドン。
『こちらも全員で総攻撃だ!それしかない』
戦闘能力の乏しいアカも、今度ばかりは闘う覚悟だ。
「美咲お姉さん、桃子ちゃん、駿、バリアを張って身を守ってくれ」
「わかったわ」
ゼウス、ポセイドンと共に僕は前線に立った。
その後ろにガイアとアカ。駿たちをかばうように、乙姫とセレーネそしてアオ。
『いくぞー!』先ずポセイドンの衝撃波が敵を攻撃した。すると敵は真ん中から二つに分裂し、攻撃をかわした。
『なに!』
『次はワタシだ』ゼウスの放ったビームは、ふたつを同時に狙った。またしても敵は分裂して、今度は四つに。
『くそ!』
「ゼウス、ポセイドン・・」僕は、ある作戦を指示した。
『ポセイドン、いくぞー・・』
右の二体をゼウスが、左の二体をポセイドンが同時に攻撃。一拍遅れて、僕は雷鳴の剣で攻撃をかけた。
初めの攻撃で二つに分裂する、その動きを予測して、雷鳴の剣の稲妻が敵に炸裂した。
『やった!翔太、見事だ』とゼウス。
『あっ!』アカが低く唸った。
遠くの空間に、敵の姿があった。今度は四方八方を取り囲む形で、近付いてくる。このままでは完全に逃げ道はない!
『この格好で総攻撃を受けたら、こちらは全滅だ』とアカ。
「くそー!」
その時だ、ひとつのテレパシーがみんなに届いた。聞き覚えのある男の声、天空の神ゼウスだ!
『我が後継者翔太よ、そして一緒に闘う仲間たちよ、今までのお前たちの闘いはすべて見ていた。仲間で助け合い、励まし合い、成長していく姿をワタシは誇らしく思っている。宇宙を救えるのはお前たちだけだ!迷うことはない。恐れることはない。仲間を信じることだ』
天空の神ゼウスの言葉は、みんなの気持ちをより強くひとつに結びつけた!
『翔太、雷鳴の剣と風雲の盾の力を合わせましょう。風雲の盾は、受けたエネルギーを何倍にもして跳ね返します』とガイア。
「わかった!」
「翔太、ぼくたちも一緒に闘うよ!」
バリアを解いて、美咲お姉さんと桃子ちゃん、そして駿がそこに加わった。
「最後の闘いよ!」と桃子ちゃん。
「みんなで力を合わせましょう!」と美咲お姉さん。
『わかった』
僕達は誰からともなく、全員で手を繋いでいた。
「よし、ガイア」
ガイアは僕のことばにうなずいて、風雲の盾を天高く放り投げた。そして、盾は水平に静止して僕達を待った。
僕は雷鳴の剣を右手に握り、頭上の風雲の盾に剣を向けた。雷鳴の剣はみんなの思いをエネルギーに変え、風雲の盾めがけて強烈な光を放った。
敵は前後左右、隙間なく向かってくる。
雷鳴の剣からエネルギーを受け取った風雲の盾は、その威力を何倍にも増幅して、四方の敵を一気に攻撃した。
その攻撃をまともに受け、悪魔と化したウイルスたちは跡形もなく全滅していった。
「・・やったあー!!」最初に声をあげたのは駿だった。
『やったぞ!』
「やったわね!」
これで悪魔の最後だ。
しかし、僕にはまだやらなければいけないことがあった。
僕は頭上に浮かぶ風雲の盾を、サイコキネキスで呼び寄せ、左手にしっかりと握った。
「翔太・・」駿が僕の脇に来てくれた。僕が何を考えてるのかを咄嗟に感じ取ってくれたんだ。
「みんなも頼む」
「わかったわ!」
『わかった!』
僕は風雲の盾を胸に構え、雷鳴の剣を天に高々と突き上げた!雷鳴の剣は宇宙をも動かす。
「天空の神ゼウスよ、力を貸してくれ!」
そして、みんなの思いは再びひとつとなり、雷鳴の剣に輝きを与えた。
雷鳴の剣から放たれた光は、宇宙空間に一斉に拡散し、その力を発揮した!
何が起こったのか、何が起きているのか、何もわからなかった。
僕は全精力を使い果たし、意識すらはっきりしない。
限界だった・・。
その時
・・『あれを、あれを見ろ』アカが叫んだ!
そこには、先程まで荒野と化していた大地が、みるみる元の姿に戻っていく光景が広がっていた。
「奇跡だわ」と桃子ちゃん。
まさに雷鳴の剣が、風雲の盾が、そしてみんなの思いが奇跡を呼んだのだ!
『翔太、見えるか?!』とアカ。
「ああ!」
その後の調査で、宇宙ウイルスにおかされていたすべての銀河で、元の姿を取り戻したことも確認され、宇宙の縮小も止まり、時間の流れも正常に戻った。
そして僕達は地球へ、アカ達はそれぞれのテリトリーへ戻っていった。
地球では太郎とカメゾウ、そしてなぜかラッキーまでが僕たちを出迎えてくれた。
「ねー、翔太、サターンはどうなっちゃったのかな?」
「どうなったのかな・・」・・。