風雲の盾
僕と駿は、0.1秒という僅かな時間で、放射能の雲を突き抜けることに成功した!
ほんの短い時間のはずが、長く長く思えた。暗闇の中に放り出されたようで、体の自由は奪われ、喋ることも出来ない。恐怖さえ覚える道のりだった。
やっと意識が戻ってきた。
となりには駿が倒れている。
ひざこぞを少し擦りむいている程度で、ケガはないようだ。
「駿、駿・・」駿はゆっくりと目を開けた。
「翔太・・」
『二人とも気がつきましたね』
そこには美しいひとりの女性が。
「あなたは・・」
『私はガイア』
「ということは、ここは火星?!」
『そうです』
「あっ!どのくらい、どのくらい時間はたったんだ?」
『1時間ほど気を失っていました』
「まずい!宇宙船が放射能に突っ込んでしまう」
「ガイア、風雲の盾は?」
『なぜ風雲の盾のことを・・』
「これを」
僕は雷鳴の剣を見せた。
『これは、雷鳴の剣!もしやあなたは、天空の神ゼウスの後継者?!』
「そうです」
『なんと言うことでしょう。これは奇跡・・』
「翔太、早くしないと間に合わないよ」
「時間がない!早く風雲の盾を復活させて、あの放射能の雲を吹き飛ばさないと!」
『わかりました。風雲の盾はこちらにあります』
ガイアは金属の箱の蓋を開けた。
そこには銀色の盾が収まっていた。
縦長で五角形のその盾は、いかにも強靭そうだが、哀しみを訴えているようにも見える。
ガイアはその盾を手に取った。
『翔太とやら、あなたのその雷鳴の剣に命を吹き込み、私の持つこの風雲の盾を、力の限り突いてください!』
「力の限りだって!そんなことをしたら風雲の盾が壊れちゃうよ」
『心配はいりません。さあ力の限り!そうすることでこの風雲の盾は、再び命を得る事が出来るのです」
「翔太、ほこと盾だね!」と駿。
「まったくだ。じゃあ遠慮なくいくぞガイア」
僕は雷鳴の剣に命を吹き込み、両手で剣を構えた。
ほこと盾か。駿、この緊張の一瞬によくそんなこと思いつくな!それから駿、火星なんてよく頭の中にイメージ出来たな、瞬間移動の時さ!だって知らないだろう火星。やっぱりお前は天才かもな。
いろんな事が頭をめぐっているうちに、僕は雷鳴の剣で風雲の盾を力の限り突いていた!
何でも砕く雷鳴の剣、どんな攻撃にも耐える風雲の盾。
激しい火花が散った!!
風雲の盾は見事ガイアの身を守り、雷鳴の剣の攻撃をかわした。そして・・。
風雲の盾は再び命を宿したのだった。
「風雲の盾の勝ちー!」と駿。
『翔太、おかげで風雲の盾が甦りました。礼を言います』
「うん。ガイア、放射能の雲を・・」
『そうですね』
ガイアの集中が続く。
風雲の盾を胸の前に構え、微動だにしない。
・・そして、盾を勢いよく前につき出した!
ガイアの思いを受け止めた風雲の盾は、激しい嵐を呼び、放射能の雲を一気に蹴散らした!
一言も発せず、その行方を見守っていたアオ達。その視界にガイアと駿、そして僕の姿をとらえ歓声をあげた。
・・JAXA・・
宇宙船との回線が回復し、船の制御も可能になった。人びとの歓喜の中、太郎とカメゾウは抱き合って喜んだ。
「みんなありがとう」
そして僕達はガイアと共に、月へと戻った。
『翔太、駿、よくやってくれた。みんなもありがとう』
『レッド、お久しぶりです』
『うん、よく耐えてくれたね、ガイア。それに風雲の盾の力、久しぶりに見せてもらったよ』
『まさかあの放射能の雲を突き抜けるとはな』
「サターンだ」
『サターンですって?!』
『久しぶりだなガイア』
『・・・』神妙な表情のガイア。
「サターン、もういたずらはするなよ」と駿。
『ワタシは何もしていないよ駿。しかし、宇宙が勝手に暴走している今、それを止めるすべはないんだ』
「くそー」
『ではまたな・・ガイアまた会おう』
「アカ、何か手だてはないのか?」
『ん・・』
「そもそも、宇宙はなぜ暴走を始めたんだろう?」
「そうね、理由がわかれば、対処の方法も見えてくるだろうけど」
『なんとか手を打たないと』
『そうだな・・』ゼウスもポセイドンもそのすべを今は持たない。
相変わらず無口なガイア。
『ガイア、元気が無いようだが』
『ちょっと疲れてるだけよ』
「少し休んだ方がいいわ」優しい桃子ちゃん。
『ありがとう』
宇宙暴走の理由。僕は何か引っ掛かっている、サターンだ。今までさんざん悪さをしてきたサターンが、今回だけ無関係とはどうしても思えない。しかし、いくらサターンでも宇宙を消滅させる力などあるはずがない。
ガイアのおかげで、宇宙のあちこちに発生した放射能の雲は、徐々に消されていった。
しかし、宇宙の暴走を止めない限り、解決したことにはならないのだ。
ガイアは遠い昔、恋に落ちていた。しかし、天空の神ゼウスはそれを許さなかった。決して表には出さないその男の、奥底に眠る悪の心を、天空の神ゼウスは見抜いていたのだ。
やがて年月は過ぎ、その男を襲った大量の宇宙線が、奥底に眠る悪の心を目覚めさせることとなったのだ。
その男への想いをたちきれぬまま、宇宙を廻るガイア。
それでも年月は心を癒し、安らぎをくれた。
青い星地球。のちに、その美しさに魅了されたガイアは、火星を拠点に地球をゆっくり眺めていた。しかし突如、放射能の雲が、火星を覆いはじめたのだ。
そして地球からは、ここ火星に向かう宇宙船の存在が・・。
その危機を知らせるべく、幾度となく地球に呼び掛けていたのだった。
サターンは天空の神ゼウスに対し、恨みを抱いていた。そして、天空の神ゼウスがいない間、世界を、宇宙さえも征服しようと考えるようになった。しかし、そのたびに翔太達に阻まれてきた。
そんな中、火星にかつての恋人がいることを知り、再会を望んでいた。
しかし、その火星に異変が起きたのだ。放射能の雲だ。
サターンにしても予想外のことだった。
宇宙の暴走。それはサターンにとっても、恐怖でしかないのだ。
・・月・・
『始まりがあれば終わりがある。何もない空間に宇宙ができ、星が生まれいくつもの銀河を作った。今回の異変は宇宙の暴走ではなく、必然的なことなのかもしれない』とアカ。
「宇宙が自らを終わろうとしているってことか?」
『このまま宇宙の縮小が続けば、いつかはその姿を消す。そして残ったエネルギーの塊が大爆発を起こす』とゼウス。
『ビッグバンだ!』
「宇宙の始まりの、あのビッグバン?!」と美咲お姉さん。
『そうだ。そしてまたそこから宇宙が生まれる』
「そんな恐ろしいことが本当に起こるの」
桃子ちゃんも不安を隠せない。




