無茶な相談
「それにしても暑いなあ千葉の夏は!」
「まだいい方だよ。熊谷とか40度を超えてるらしいわ!」
桃子ちゃんの言う通りだけど、暑いものは暑いよ。
「おいアオ、この暑さなんとかなんないのか。お前の不思議な力でさ」
『無理!』
「あっそう」役立たず!
わっ!アオのやつ、こっちをジロッと見やがった・・。
「ワンワン」
「ラッキー、こっちこっち・・」
駿は元気だな。
「で、あなたがここに現れた理由は何なの?」
「そうそう、美咲お姉さんの言うように、わけがあるんだろう」
『うん、実はキミ達に力を貸して欲しいんだよ』
「力を?どういう意味だ」
『さっき言ったサターンをやっつけて欲しいんだ!」
「えっ、誰が・・?」
『キミ達が・・』
「ふーん。それでそのサターンとやら、どのくらい強いんだ」
『そうだなあ・・例えるなら・・ゴジラってとこかな!』
「あっそうなんだ。・・一抜けた」
「駿くんも二抜けた」
「私達もそれはちょっと・・」美咲お姉さんも桃子ちゃんも、当然の選択。
「こら!アオ、僕達人間がゴジラに勝てるわけないだろう」
まったく無茶な相談だよ。
『それがキミ達四人が力を合わせれば、サターンを倒せるはずなんだ!』
「いくら力を合わせたところで無理さ。そんなこと言うなら、アオ達で倒せばいいじゃんか。超能力とやらでさ」
『それは無理だ。ボクたちには確かに人間にはない能力があるけど、あいにく戦闘に長けた能力は皆無。全くのど素人なんだ』
「そんなの僕達だって一緒さ!素人だよ」
『それが違うんだよ。キミ達にはその能力があるのさ!』
「そんなこと信じられるか」
『最初に言ったろう。ボクはキミ達の親だって』
それが嘘臭いんだって・・。
『いいかい、よーく聞いてくれよ。ここにいる四人は、みんな11回目の人生を送ってるんだ!』
「えっ?わかりやすく説明してくれ」
『人間はお父さんとお母さんによって卵がつくられ、お母さんのお腹の中で成長してこの世に生まれてくる。赤ちゃん、子供、大人、老人、そして命を終える。ここまではいいよね』
「うん」
『ここでボクの出番さ。肉体と切り離された魂を、時代をさかのぼり最初の卵に戻してやる。そして、その卵をまたお母さんのお腹の中に戻してあげるのさ。そんな力がボクにはある。その作業を100年毎に繰り返して、キミ達は11回目の人生ってこと』
「ってことは、この21世紀の同じ時代を10回もやり直してるってことか!?」
『その通りさ』
「何のために?」
『サターンと闘う能力を養うため!それは人生を10回繰り返した者だけが得ることの出来る不思議な力さ!』
「全然そんな感覚なんかないけどな」
『あとでわかるよ』
「質問、じゃあ私達のお母さんも11回目の人生ってこと?」
『うん、桃子ちゃんの言う通りだ。でも11回目以外の記憶は全部消えてるけどね』
「僕達の記憶もそうか?」
『ボクが消した!だけどたまに消し忘れたところがあってさ・・』
「なんだと。適当なやつだな」
『誰にでもミスはつきもの。こんな経験ないか。初めての出来事や初めて行った場所が、こんなこと前にもあったなあとか、ここ前にも来たことあるなあなんて感じることが』
「あーあ、そういうのあるわね。・・デジャブ」
『それは、ボクが消し忘れたところ』
「そうだったの・・」
『じゃあ、いったん帰るよ月に。お腹空いたしね』
「帰るってどうやって」
『瞬間移動さ・・また連絡するよ・・』
「連絡って・・」
『・・・』
消えた!瞬間移動だ。
次の日、僕達は不思議ないきものブルーについて、桃子ちゃんの家で話し合っていた。
「みんなは昨日言ってたデジャブなんて経験ある?」って美咲お姉さん。
「どうかなあ、あまり気にしてなかったけど、あんなこと言われると、なんかそんな体験も昔あったような・・そう思えてきちゃうね」
「確かにそうだね。鈍感な僕もちょっと考えちゃうな」
「それにしてもブルーのお母さんがかぐや姫だなんて驚きよね」
「桃子ちゃんの言う通りさ!おまけにお父さんが桃太郎だなんて。僕はそっちの方が驚きかな。あの桃太郎が月の神様ってことだもんな」
「そうね、私なんかまだ信じられないわ」
美咲お姉さんの気持ちもわかるけど、でも現実に目の前に現れちゃったもんな。信じるしかなさそうだな。
「それにしてもアオのやつ、どうやって連絡してくるつもりだ?」
「うん、でもあの瞬間移動とやらなら、あっという間に目の前に現れちゃうよね」
「そうだね。それまで待つか・・」
「早く会いたいなブルーに。そしたら駿くんも瞬間移動のやり方教えてもらおーっと・・」
「そうだな、駿も出来るようになるといいな」
「もしかしたらアオのやつ、もうその辺にいたりして・・」
『・・よくわかったな翔太』
ギクッ、本当にいたのか!・・。
「こらアオ、おじゃましますぐらい言えよな」
『・・・』
「私、お父さんに聞いたことあるんだけど、昔昭和の時代にアポロ計画って言うのがあって、人間が月まで行ったことがあるんだけど、ブルーはそれ知ってる?」
美咲お姉さんは思い出すように言った。
「あーあ、僕もお父さんに聞いたことあるな。月を探査する目的で、何年も続けるはずだったけど、計画の途中で急にやめちゃったんだよね。たしかアポロ11号が最初で、そのあとも4、5回月に行ってる」
『翔太よく知ってるな。ボク達も人間が月に来るなんて思ってもみなかったから、すごく驚いたよ。一時は、月で人間と共存してもいいって、パパは考えたらしいんだけど、当時の人間の科学では、安定して月に住むなんてとても出来なかったから、結局無理だったんだ』
「月で人間と会ったのか?」
「うん、会ったと言うより、ボク達を見るなり驚いて腰を抜かしてた。それから人間が月に来ることはなくなった・・』
だからなのか。アポロ計画を途中で断念してしまったのは。そりゃあ怖いよな、宇宙人と遭遇したら。
「かき氷持ってきたわよ!」桃子ちゃんのお母さんがドアをノックしてる。
「はーい」
ヤバイ、アオが見つかっちゃう・・ん?アオは・・。
消えた!
「いただきまーす」僕達がおいしくかき氷を食べていると、またアオが現れた。
「アオも食べるか?」
『いや、遠慮しとくよ』
「そうか、ところでいつも何を食べてるんだアオは?」
『口からご飯とかを食べることはしない』
「でも昨日、お腹すいたって言ってたろう」
『電池の残量が減ると、人間みたいに空腹感があって教えてくれるんだ』
「電池・・乾電池のことか?」
『体にソーラーシステムみたいな特殊なところがあって、太陽のエネルギーをもらってるんだ。でも地球上だと太陽のエネルギーが弱いからすぐお腹がすいちゃう。だから月に帰るんだ』
「ふーん」
「ねーねー、ブルー、駿くんにも瞬間移動教えてよ!」
『・・あとで出来るようになるさ!』
えっ、あとで出来るようになるだと。駿には無理だろう、人間なんだから・・。