甲羅が真二つ
サターンは姿を見せることなく、去っていった。
それからしばらく、サターンが現れることはなかった。魚も鳥も、今は静かだ。
「ねー翔太、ぼく考えたんだけど、かぐや姫でしょ、桃太郎でしょ、浦島太郎でしょ・・まだ続くのかな?」
「どういうこと」
「おとぎ話にはまだ、一寸法師や金太郎もあるんだよ」
「・・・」
『ブルー、サターンが現れたのか?』
『うん、ママが捕まった!』
「アカ、聞こえるか?」
『翔太か!』
「アカは、竜宮城の場所は知らないのか?」
『知らないんだ。こんなことなら、セレーネから聞いておけばよかった』
「じゃあ、セレーネがいる場所もわからないのか」
『ああ、残念だが・・』
「なぜ、一人で行かせたんだ。危険が潜んでいることぐらいわかったろう!」
『・・・』
「カメゾウ、お前はわからないか?セレーネのいる場所が」
『確信は持てないんだけど、あの時のスクリーンに映ってた海水の色、すごく透明でキレイな青色だったと思わないかい』
「そういえば、ブルーがとても輝いてたわ」と美咲お姉さん。
照れるアオ。僕はアオの頭を思いきり叩いた!
「透き通るブルー、とても神秘的な感じがした」と桃子ちゃん。
『多分あそこは青の洞窟さ!』
「青の洞窟だって」
『海底に反射された陽の光が、再び海水を通り抜け辺りを照らすことで、神秘的な空間を作り出すんだ』
「えっ?何でゼウスがそんなこと知ってるんだ」
『ワタシは知識が豊富なんだ!』
「カメゾウ、どこにあるんだ、その青の洞窟は?」
『ちょっと戻らないといけないな。この方角の岸壁まで』と顔を向けた。
「そっか、駿出番だ。岸壁まで瞬間移動だ」
「うん、わかった」
『ちょっと待った!駿、岸壁までは飛びすぎだ、激突する。手前の海までで頼む』
「そうだな・・」
「よし行くよー・・はい到着!」
「早っ!見事です、駿くん」
「冗談はそこまでだ駿、敵が来るぞ!・・」
「えっ」
「ゼウス」
『ああ、わかってる!』
右に10匹、左に10匹・・一気に決めるぞ!
僕は右、ゼウスは左、いくぞ!ワン・ツー・スリー・・・。
僕の放ったエネルギーの塊と、ゼウスの放った電撃波は、一瞬のうちに敵を全滅させた!
「やったね翔太、ゼウス」
『翔太、腕を上げたな!』
『あそこが青の洞窟の入口だよ』
「ここにいても、中からの殺気が伝わってくるぞ」
いったいどれだけの敵が潜んでるというんだ。
「アオ、感じるか、このものすごい殺気を!」
『うん』
「ここは危険かもしれない。中へは僕とゼウスで行く。アオ達はここに残ってくれ」
『そんなことは出来ない、中にはボクのママがいるんだぞ!』
「わかってるさ」
「翔太君、私達もここに残るのは嫌よ」と美咲お姉さんと桃子ちゃん。
「翔太、ぼくもカメゾウも行くよ!」
「ゼウス・・」
『翔太、皆の意思は固い』
「よし、行こう!みんなで」
僕達は慎重に洞窟の入口に向かった。そして中へ・・。
その時だ、またもや大きな地震が起きた。
これは普通の地震ではない。そう直感するのと同時に、天井の岩が崩れ落ちてきた!
「危ない、気を付けろ」
あっという間に、洞窟の出入口は大きな岩で塞がれてしまった。
『しまった』とアオ。
ゼウスは美咲お姉さんと桃子ちゃんにおおいかぶさり、二人を守っている。
そして駿は・・「駿、危ない!」
駿の上から大きな岩が・・「駿」
僕は神経を集中させようとしたがダメだ!間に合わない。
その時、岩が落ちるのよりも一瞬早くカメゾウが動いた!駿の真上に移動して、甲羅で駿を守ったのだだった。
「カメゾウ!・・」
カメゾウの甲羅は真二つに割れている。
僕はサイコキネキスで、落ちてくる岩を避けながら、カメゾウのもとまで駆け寄った。
「カメゾウ、しっかりしろ!」
「美咲お姉さん!カメゾウが・・」
ダメだ、今は美咲お姉さんもこちらには近寄れない。
「カメゾウ、カメゾウ・・」駿の声が洞窟に響く。
少しずつ天井からの岩の落下はおさまり、ようやく美咲お姉さんがカメゾウのもとへ来てくれた。
美咲お姉さんは、そっとカメゾウの割れた甲羅に手をかざした・・。
甲羅は元に戻ったが、カメゾウは気を失っている。
「カメゾウ、ぼくのせいで・・」
「駿、カメゾウは大丈夫だ!元気になるよ」
「カメゾウ、死なないでよ・・」
『翔太、完全に出口が塞がれてしまったぞ』
「出口ぐらい、後でなんとでもなる。セレーネのところへ急ごう!」
『よし』
気が付かなかったが、なるほど神秘的な所だ。透き通った水の青。別世界を思わせる岩肌。これが青の洞窟か。
そして、さらに奥へと進む。
「ゼウス」僕は合図した・・敵だ!
ゼウスの電撃波!あとからあとから現れる敵と敵。
そのたびに炸裂するゼウスの攻撃。
・・なるほどゼウスのやつも腕をあげたな!
するとアオが叫んだ。
『あっ、ママ!』
洞窟の一番奥に横たわるセレーネ。
『よくここがわかったな。誉めてやろう』サターンの怪しい声だ。なぜ
『サターン』
「サターンどこだ?」
『それは今は言えないよ。それより、早く女神を助けたらどうだ』
『ママ!』
『まて!ブルー』
セレーネに駆け寄ろうとするアオを、ゼウスが止めた!
「・・罠だ!アオ」
『えっ?!』
『翔太とか言ったな。よく見破ったな!しかしもう遅い。ここがお前たちの墓場だ』
「くそっ!みんな急いで引き返すぞ!」
「駿、カメゾウのところまで瞬間移動!」
「わかった!」
同時に洞窟の奥で、大爆発が起こった。
「アオ、セレーネは偽物だ!」
『何だって』
早く逃げないと洞窟が崩れ落ちるぞ!
「カメゾウ、カメゾウ・・」
『あっ、みんな・・』
「ゼウス、出口を開けるぞ!駿、瞬間移動の用意」
僕とゼウスは出口の岩を吹き飛ばした。
「駿、今だ!」
間一髪、僕らは洞窟の外に出た!
『翔太、どういうことだ?』
「セレーネは偽物。サターンの仕組んだ罠だ」
『じゃあ、ママは?」
「他の場所で元気さ!」
「アオ、サターンはもう竜宮城にいるんだろうか?」
『まだ行けてはないと思う。ママから聞いたことがあるんだけど、竜宮城は桃源郷とかユートピアとか言われる幻の楽園!』
「幻の・・そんなの無いってことか」
『存在する。ただその楽園を守るために、色々工夫がなされているんだ。おとぎ話としてそれを伝え、実際には存在しない幻の楽園だと、人々に思い込ませているんだよ』
「確かにそうだな。アオから話を聞くまでは、僕もそうだと思っていた」
『それに、竜宮城の存在自体を隠す保護色。竜宮城は海底の景色そのもので、外から見たのでは、どこに竜宮城があるのか絶対にわからないらしいから』
「それじゃあサターンも、簡単には見つけられないな。てことは、僕達も竜宮城にたどり着くのは難しいんじゃないか!?」
『それは大丈夫さ。通行手形を持っているから、匂いの!』
「匂いの?」
『カメゾウもそうだろう』
『そうさ』
『人間でいう指紋みたいなものかな。その人だと特定するもの。それが竜宮城ではその者の匂いって訳。その匂いの持ち主が近くまで来ると、竜宮城までは勝手に誘導してくれる』
「じゃあ、その匂いの持ち主がいないと竜宮城に入れないばかりか、見つけることも出来ないってことか」
『うん。だからサターンは、ママを狙ったんだ」
「その事はアカも知ってるはずだよな!」
『うん』
ますます腑に落ちないな。それを知りながら、なんでセレーネを一人で竜宮城に行かせたのか・・。
「じゃあ、サターンはなぜ竜宮城を狙ってるんだ」
『奪い取るのが目的と言うよりは、やっぱり雷鳴の剣だと思う。僕達が仮定した第三のガラス玉のこと。竜宮城にヒントがあるのは確かだからね』
「しかし、セレーネはどこにいるんだろうな?」
『うん・・』
「あっ、ごめんな、余計なことを言っちゃったな」 『平気さ』
『翔太、駿がボクの背中で眠っちゃったよ』とカメゾウ。
ありゃ本当だ。悪いなカメゾウ。重くないか」
『大丈夫だけど、絵本が手から落ちそうだ』
浦島太郎か、相当気に入ったみたいだな!
「カメゾウ、しかしお前は有名人だよな。本なんかに載ってさ」
「脇役だよ。あと、有名人じゃなくて有名亀ね」
「でも、物語には、なくてはならない役どころじゃんか」
『そうかなあ』
「そうさ。さあ急ごう!」
『ん?・・うわー』
「なんだ?わー」
「カメゾウ、駿、どうした?!」
『何かがボクの足を引っ張ってる。うわー・・』
「駿、カメゾウ!・・」
あっという間に二人は海の中に姿を消してしまった。
「ゼウス」
『任せとけ』そう言って、ゼウスは海に飛び込んだ。
海中には化け物のような大きな陰が!
『翔太、タコの仕業だ!駿とカメゾウを持ち上げてくれ』
「よし」
僕はサイコキネキスで二人を持ち上げた。
カメゾウの足にタコのあしが絡まっている。
『うわー!はなせー』カメゾウは足をバタバタさせている。
タコめがけてゼウスの電撃波!
やっとタコは海に落ちた。
しかし、怯んでいない。攻撃体制だ!
ゼウスも海から飛び上がった。
『翔太、このタコ、ただ者ではなさそうだ』
「アオ、みんなを頼む。いざとなったら美咲お姉さんと桃子ちゃんでバリアを張るんだ!」
『よし、わかった』
「それににてもでかいタコだな」
『翔太、来るぞ!』
その巨大ダコは、真っ黒な墨を吐いてきた。
「うわ、危ない!」
ゼウスは指先を巨大ダコに向け、サンダーを放った。
しかし効かない。
「ブルー、鳥がいっぱいやって来るよ」と駿。
『美咲お姉さん、桃子ちゃん、バリアだ』
「わかったわ!」
鳥の群れが駿達を襲い始めた。
「うわー・・」
その時だ、巨大ダコのあしが1本ちぎれ、僕に襲いかかってきた。その素早い動きで僕の身体はぐるぐる巻きにされてしまった。
『翔太』
「うっ・・」
僕はそのまま海へと引きずり込まれてしまった!
ゼウスの攻撃にもびくともしない巨大ダコ。あいつの正体はいったい何なんだ!?




