浦島
相変わらず地球では、地震が頻発している。地震は普通、プレートとプレートの境界で起こるけど、今続いている地震は、それとは関係のないところでも起きている。やはり、何だかの強い力が、何者かによって加えられているんだ。
僕たちは、第三のガラス玉の存在を仮定した。いま、一番最悪なのは、その第三のガラス玉が、既にサターンの手にあるということだ。
いったん地球に戻った僕達は、桃子ちゃんの家に集まっていた。
「ねー、翔太、サターンは本当にまだ生きてるの?」
「うん、駿が前にやっつけたのは、偽物のサターンだっんだ」
「ふーん、でもまたやっつけちゃえばいいよね!」
「そうだな」
「第三のガラス玉、ヒントがあるとしたら私達のリスタートライフの中かしら?ほら駿君も、最初は知らないおじさんにもらったわけでしょ」と美咲お姉さん。
そして僕達は、それぞれの思い出を語り合った。幼い頃の記憶、幼稚園の先生や友達、出逢い、初恋・・。
「そもそも私達って、未来の月旅行の事故を予め悟ることで回避できたのよね。そんな同じような体験をした人が他にいるかもね」
「そうだなあ、でも桃子ちゃん、そんな人がいたらアオが気づくんじゃないかな」
「あっそうか」
「いずれにせよ、アオの意見も聞いた方が良さそうだな」
僕はアオをテレパシーで呼び出した。
『実はボクも同じことを考えていたんだ。みんなと同じような出来事が、他にもあったんじゃないかってね』
「アオでも知らないことがあるのか?」
『ボクだって、全部が全部知ってる訳じゃないさ』
「でも、そんな人を探し当てるのは無理よ。世界中の重大事故を探って、しかも何年前までさかのぼればいいの・・」
「なんか難しそうだね」と一言駿。
『駿、何か知らないか?』
「ぼくにガラス玉をくれたおじさんを探したら?」
「とうやって・・?」
『グラグラグラ~』
また地震だ。
「アオ、サターンの目的は何なんだ?」
『海底都市の建設。竜宮城を狙ってるんだ!』
「竜宮城だって、あの乙姫さまのいる!?」
『そう、ママの友達』
「はあ・・」
『もしかしたら、その辺にヒントがあるのかも』
竜宮城の乙姫が、セレーネの友達?!世の中、どこでどう繋がっているのか・・。
「駿、浦島太郎って知ってるか?」
「会ったことない」
「当たり前だよ。おとぎ話さ」
「なんだあー」
「昔、太郎は浜辺で、悪い人たちがカメをいじめているのを見つけて、そのカメを助けてあげたの。そしたらそのカメが自分を助けてくれたお礼に、太郎を背中に乗せて、海の中の竜宮城へ連れていってくれた。そこには美しい乙姫様がいて、たくさんの魚たちと歌ったり踊ったり、美味しいものを食べたりして、楽しく過ごしたんだって。そして、太郎が家に帰るときに、乙姫様がプレゼントをくれたのよ。それが玉手箱!でも、決して玉手箱のふたを開けてはいけないと、乙姫は太郎に言ったんだけど、もとの浜辺に着くと、そこには誰も知ってる人がいない。不思議に思いながら、ついに太郎は乙姫の言うことを聞かず、玉手箱のふたを開けちゃったのよ。そしたら白い煙がいっぱ出てきて、太郎はたちまち白髪のおじいさんになっちゃったっていうお話よ」説明ありがとう美咲お姉さん。
「ふーん」
『その乙姫がいる竜宮城を、サターンは自分のものにしようとしているんだ』
「確か、太郎が竜宮城から帰ると、何百年も時が過ぎてたのよね。でも私、前から不思議に思ってたんだけど、乙姫様は、どうして太郎に玉手箱をあげたのかしら。ふたを開けちゃダメって言われても、開けちゃうよね普通」
「それもそうだな」
『乙姫に聞いてみようか!?』
「・・アオ、乙姫って本当にいるの?」
『いるよ!ママの友達だって言ったろう』
まあ、今さら驚くこともないか。だって、アオのパパは桃太郎で、ママはかぐや姫なんだからね・・。
「ああ、ぼく行ってみたい!」
「私も」
「私も」
「じゃあ僕も・・」
『早速ママに頼んでみるよ!』
そう言ってアオは月に飛んでいった。
「こうなると、怪しいのは玉手箱か!」
「そうね」
「でも、玉手箱は乙姫様の所にはないでしょ、浦島太郎にあげたんだから。そして太郎は玉手箱のふたを開けた。もし、玉手箱の中に第三のガラス玉を入れてたとしたら、探し出すのは大変よ!」
「タイムマシンがあればいいのにね」
駿の言う通りだ。
今度は海の中かあ。あまり泳ぎは得意じゃないからな。駿は泳げるのか?美咲お姉さんと桃子ちゃんはスポーツが得意だから、泳ぎも上手だろうな。
海パンとか必要かな・・。
・・月では・・
『セレーネ、どう思う?今回のサターンの動きを』
『乙姫の竜宮城を奪うつもりかしら』
『やはりそうか』
『ワタシ乙姫の所に出掛けてきます』
『うん、気を付けてな・・セラーネよ』
そして、アオは月に着いた。
『パパ、ママはどこか出掛けた?』
『乙姫のところだ』
『入れ違いか・・。実はボク達も竜宮城に行ってみようと思うんだ』
『サターンが待ち伏せしてるかも知れないぞ』
『注意するよ。それにママだけの方が心配だよ』
『そうだな。じゃあゼウスと一緒に行きなさい』
『わかった。ゼウス頼むよ!』
『了解!』
やがてアオとゼウスが月から戻ってきた。
『翔太!』
「アオ、早かったな」
『ママはもう竜宮城に向かったらしいんだ』
「一人でか?」
『うん、嫌な予感がするんだ・・』
「よし、急ごう!・・あっそうだアオ、海パンって必要か?」
『いらない!』
海の中も宇宙の時と同様、桃子ちゃんの超能力があればへっちゃらだ。
「竜宮城の場所はわかるのか」
『いや』
「じゃあどうやって行くの?」
『竜宮城の場所はママしか知らないんだよ』
「聞いてないのか?」
『うん』
「ゼウス、お前も知らないのか?」
『残念ながら』
「困ったわね。場所がわからないんじゃ、瞬間移動も出来ない」
「そうね」美咲お姉さんも桃子ちゃんも頭を抱えた。
「絵本を見てみれば・・」と駿。
「絵本?」
「あとは浦島っていう姓ね。その土地の名前からとってる可能性があるわ」さすが美咲お姉さん。
駿はママにおねだりして、浦島太郎の本を買ってもらっていた。僕達は、片っ端から地図をあさり、やっと浦島という地名を見つけた。
「まずはこの海岸にいってみよう」
『よし!』
僕達は浦島の海岸に瞬間移動した。
『何か手掛かりがあればいいけど』
『ワタシは海上を探ってみる』そう言って、ゼウスは海の上を飛んでいった。
駿は浦島太郎の本をひろげている。
「何かわかったか駿」
「いや、まだ」
所詮絵本だもんな、こっちはあてにできないか?!
『ブルー・聞こえるかワタシだ』
『聞こえるよ、パパ』
『実はさっきからママと連絡がとれないんだ』
『えっ!』
「どうかしたかアオ」
『パパから、ママと連絡がとれなくなってしまったらしいんだ』
「なんだって」
その時だ。ボク達を地震が襲った。
「きゃあー」
そしてゼウスが戻ってきた。
『この先10キロの所なんだが、魚の死骸が大量に浮いている。何か海底であったのかもしれない』
「サターンかもしれない」
『うん、確かめてみるか』
「ねー、翔太、これ見てよ!」
そう言って、駿が本の中の絵を見せた。
「どうした?」
「ここ・・」
「あっ!」
「ね、同じでしょう!」
「どうしたの?駿くん」桃子ちゃんも、本をのぞきこんだ。
「わあ、信じられない。この風景、本の絵とそっくりだわ!」
間違いない。この海岸だ。この浦島から物語は始まったんだ。