宝物
駿の怒りの一撃で、サターンは跡形もなく消え去った。
駿があれほどまでの能力を身に付けていたとは。ブルーがサターンにやられて、ワタシは悲しみと怒りを抑えられずにいた。そして翔太も同じだったはずだ。
翔太を初めて見たとき、ワタシは内に秘める底知れぬ能力を感じた。翔太こそが、天空の神ゼウスの後継者なのかと。
しかし、違った!駿の能力は、確かに翔太のそれを超えていたのだから・・。
・・レオン彗星・・
しばらく動けなかった。目の前のあらゆる出来事が理解できずにいた。
駿はその場に倒れこんでしまっている。
「駿、駿・・」今は優しい顔で眠っている。
「美咲お姉さん、桃子ちゃん・・」
「・・あっ、翔太君。無事だったの!」
「サターンは、サターンはどうした?!」
「心配しないで、もういないよ」
「あっ、駿くん」
隣で倒れている駿をを見て、心配する美咲お姉さん。
「駿なら大丈夫だ。疲れて眠っているだけさ」
「良かった」
「それより美咲お姉さん、ゼウスの傷、治せるかな?」
「やってみるわ」
サイボーグっていっても、もとは人間だ。美咲お姉さんの力で、元気になってくれるはずだ。
そして、アオ!
ふたつに割かれてしまったアオのカードは、どこにも見当たらない。死んでしまったのか・・。
『翔太・・』
「ゼウス、回復したか!」
『駿は?』
「あそこで眠っている。あれだけのパワーを使ったんだ・・」
『ああ』
「それどういうこと?」
『駿がやっつけたんだよ!サターンを』
「なんですって!翔太君、本当なの」
「うん」
『翔太、この彗星はいよいよ太陽に近づきすぎた。早く軌道を元に戻さないと大変なことになる』
「うん」
『サイコキネキスだ!力を貸してくれ』
「わかった」
二人のサイコキネキスで、無事レオン彗星の軌道は元に戻った。これで消滅の危機は脱することができたはずだ。
『一度月に戻ろう。神が待っている。ワタシがみんなを月に移動させる』
「うん、頼む」
駿を背中におぶり、僕達は月に向かった。
『みんな、よくやってくれた』
「アカ、アオが・・」
『・・あれはあの子の意思だ。仕方ない』
「アカ・・」
『翔太、サターンを倒した駿のパワー、ワタシもここから見ていたよ』
「うん」
「駿君がサターンをやっつけるほどのパワーを持ってたなんて・・」
『わたしも驚いている』
『まったくたいしたやつだよ駿は!』
『翔太は、駿とずっと一緒に暮らしてきた。駿はどんな子だ?』
「どんなって、いたって普通の男の子だけど。わんぱくで、負けず嫌いで、兄貴おもいで・・」
『何かかわったエピソードなどなかったかい?』
「んー・・まあ、人の気持ちがよくわかるやつなんだ。一緒にいると、いつもあいつが先回りして、これはこうだよね!とか、翔太はこうしたいんでしょ!とか」
「そうね、私もそういうの感じたことあるなあ」と桃子ちゃん。
『駿が大事にしてるものはないか?宝物みたいな』
「宝物・・そういえばガラスの玉を大事にしてるよ。ビー玉ぐらいの」
『ガラスの玉?』
「ある日、これもらったよって、僕に見せるんだ、キレイなガラスの玉を。誰にもらったのか聞くと、知らないおじさんだって。すぐに家を飛び出てみたら、男性の後ろ姿が見えた。それで駿と追いかけようとしたんだけど・・消えたんだ!男性の姿が、パッと・・」
『・・天空の神ゼウスだ』
「なんだって・・」
あの時のあの男性が、天空の神ゼウスだったのか・・。駿と一緒に追いかけて、もう少しで追いつくってとき、確かに消えたんだよな!そんなのあり得ないことだから、考えないようにしてきたけど、今思うと不思議な出来事だった!
駿が天空の神ゼウスの後継者・・?!本当にそうなんだろうか。
「駿、駿・・」
「あっ、翔太」
「気がついたか」
「駿君」
「美咲お姉さん、桃子ちゃん」
「ブルーは・・?」
僕はゆっくり首を横にふった。
「・・・」悲しい顔をする駿。
「駿、地球に帰るぞ!」
「うん」
そしてアカ、ゼウス、美咲お姉さん、桃子ちゃん、駿そして僕。みんなで地球に向かった。
『駿、駿はガラスの玉を持ってるだろう。宝物の』
「うんあるけど、何でレッドが知ってるの?」
『翔太に教えてもらったんだ。翔太はお喋りだからな』
なんだそれ、アカが聞いてきたんだろう。
「翔太!」
ほら、駿ににらまれちゃった。
『ワタシに見せてくれないか?その宝物』
「いいけど」
不思議そうな駿。
駿が宝箱からガラスの玉を持ってきてくれた。
「はい、これだよ」
『ありがとう』
ガラスの玉を受け取ったアカ。
「アカ、どうなんだ」
『・・ただのガラス玉だな!』
「はあ?ただのガラス玉・・」
「わー、キレイね」
「本当!キラキラ光ってるわ」
「ゼウス、おまえはどう思う?」
『・・ただのガラス玉だ!何もこのガラスの玉から感じるものがは無い』
「アカ・・」
『ワタシの勘違いだろうか。もしこのガラス玉が、天空の神ゼウスのものなら、ワタシ達に何か訴えかけてくるはずだが、何も感じない』
「んー・・?」
『駿、このガラスの玉をもらった時、おじさんは何か言ってなかったか?』
「これはすごく大事なものだから、いつまでも大切に持っていてって。だから駿くん、宝箱にいれて大切にしてたんだよ」
『そうか、駿は偉いんだな。他に、そのおじさん言ってなかったかい』
「ほかに?・・そうだ、もうひとつおんなじものを持ってたよ!そのおじさん。駿くんに見せてくれたもん。それも誰かにあげるんだって・・」
『もうひとつ・・』
「じゃあ、そっちが本物ってことか!?」
『いや、おそらくその二つのガラス玉が揃ったとき、本来の効力を持つのかもしれん』
「もうひとつね、でも、探しようがないよな」
「そうね、ヒントも何もないからね」と美咲お姉さん。
「ヒント、ヒント・・。おい、ラッキー、ヒントくれ!」
「ワンワン・・」
「・・ありがとう。ワンワン」